第4話

「おー…来たな…。」

ケインはレドが来たのを確認すると、のっそりとソファから起き上がる。彼の表情には、隠しきれない程の疲労感が現れていた。

「…どうも。で、今日も依頼は無しですか?」

「あー…まあウチはフリーの中でも特殊だからな…他のみたいに軽い依頼は中々来ねえんだわ。もうちょい依頼が来てくれりゃ経営も上手くいくんだが…。」

ケインがそう言った瞬間を狙ったかのように、電話が居間に鳴り響く。

「っ…!んだよもう…はい…ドラゴンクロウです…。え?!はい!分かりましたお待ちしております!…来たぜ依頼がよお…!」

先ほどまでの暗い表情が嘘のように、ケインは悪漢とも歓喜とも取れる笑顔を浮かべる。

「おいクレア!依頼だぞ!」

ケインはクレアの部屋へ足早に移動し、3回程強く、彼女の部屋の扉を叩く。

「うーん…ああ…。依頼か…1週間ぶりだねえ…」

クレアの部屋からは、何故か緑色の光が漏れでていた。

「…どうやら30分後くらいに来るらしいぜ。」

「シャーロット氏は…ああ…そうか。依頼先とかを探してるのか。」

…どうやら仕事は想像以上に舞い込まないらしい。と、レドは実感する。

「…あの。」

「ん?なんだ?」

「この散らかってるゴミ片付けないんですか?」

「あ!最悪だ!誰だよこんな散らかしたの!」

「7割くらい君な気がするんだけど…」

クレアは軽蔑の混じった視線でケインを見つめ、そう言った。

3人が大雑把かつ俊敏に掃除をしていると、扉が擦れる音が玄関で聞こえる。

「あのー…」

依頼主と思わしき声がそこから聞こえてきた。

「あ…あーはいはいすいませんねーはははは…ここにおかけになって…」

ケインは床に散乱する衣服をまとめて蹴り上げる。

依頼主は少しオドついた表情でケインの案内する方向へと足を運んだ。

「あ…!まあこの際良いか…。」

クレアの服もその中に混じっていたらしく、クレアは頭を抱えてそう言った。が、蹴り上げた服が机の上のコーヒーにあたり、床へと落下した。

「あー!ちょっと待って下さ…お前どけって!」

レドは焦ったケインに怒鳴られるが、内心自業自得だろうに、と思っていた。

「それで…ご依頼頂いた…エルザ・アンブラウズさんですね。どう言ったご用件で…」

状況が落ち着き、3人が依頼主の正面に座ったのを見計らい、ケインは話を切り出す。

エルザは、少し顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。

「父は工場を経営していたんですが…最近病気を患って経営を停止しておりまして…。先日亡くなったのを理由に所有していた工場を手放そうとしたんですが…。」

「…魔族ですか?」

「…はい…おそらく。一度工場に足を運んだんですが…その時確かにそこに居たんです。人でもなく、人の知りえる生物ではないソレが。」

エルザはそう言うと、膝に乗せた拳を軽く握った。

「その時一緒にいた人間は居ます?」

クレアは彼女にそう質問する。

「えっと…親戚もいなくて家族は父1人だったので…私1人でした。」

「…」

質問に答えていく彼女をレドはじっと見つめていた。何故わざわざフリーランスに頼む?それは国公でも可能なはず。ここがフリーランスの中で特殊とは言え…それでも違和感がある。やはり何かある。秘密裏に潜む本意が言葉の裏に。レドはそう考えるが、結論に行き着くことなく、まあ関係ないな、と思考を放棄した。

「では明日の夜に現地に向かいますので…このまま自宅にお帰りになるか…もう少しここに居ていただいても」

「あ、結構です。」

エルザはケインの問いかけを途中で切断するように回答する。

消臭剤を客のために大急ぎで置いても消えない異臭と、足がいつもつれるかも分からない程物の散乱した床を見れば、そうなるのは当然であった。

「それでは…よろしくお願いします…。」

エルザはケインに依頼料を渡すと、扉をあけて出て行った。レドは、先程感じた違和感をぬぐい切れずにいた。

「…どうしたんだい?」

「ああ…いや…。このくらいの依頼…国公に頼めばなんとかなるのに…何故ここにわざわざ…?」

「ああ…此処は他のフリーランスとは少し違うのさ。何せ戦力だけで言えばフリーランス中トップクラスだからね。戦力だけだが。だからしょっちゅう国公が相手にするレベルの依頼なんかが来る。…そのせいで新入りは大体死ぬけどね。……まあ勿論猫探しだの人探しだのそう言う事もするよ?ただ…ウチの所長の立場上否応にそう言う依頼が来てしまうのさ。」

「……そうですか…ならいいんですが…」

「…新入りは大体死ぬって言葉をサラッと受け流したね。」

「まあ僕がいつ死のうが誰も悲しまないですし。僕含めても。」

「……裏社会との繋がりもウチは強いからねえ…。実際重要な依頼ってのはあっち側から回ってくる。当然シャーロット氏が経緯でね。…何もしてないように見えるかもしれないけど、彼女はああ見えて裏社会の仕事きっちりこなしてるんだぜ?ここの費用は彼女が賄えてるところも大きいし。」

「…貴方は?」

「それは言わないお約束だ。」

「…そうですか。」

「本当に君は何を考えているんだか…」

クレアは興味と疑心暗鬼の入り混じった目線でレドを見つめる。

レドは彼女の出て行った玄関を呆然と眺めていた。

「…さて。先日放った無知性を全滅させたあの組織についてだが…。」

「あの黒髪の奴…。あいつが一番やばいわよ。9割以上あいつに狩られた。」

「いやーどーだかねー?もしかしたらもしかするかもよお?」

とあるビルの屋上、4体の魔族が会話をしている。

「へえ…その確証はなによ?」

女の魔族が質問をぶつけた。

「勘だよ。勘!ああいうパターンほどやべえのがいるの!だから…茶髪のガキか金髪の女のどっちかだろうと思うぜ?」

「…話が纏まらんな。」

「じゃあさ…。俺に行かせてよ。」

先ほどまで黙りこくっていた魔族が突然口を開く。

「おーおーおー…出しゃばってくれちゃうじゃないのよ。え?俺が闘りてーって名乗り出ることくらい悟れよ…頼むからさあ。」

「いや違うよ?だって弱いでしょ君。」

「テメエ…今やっても良いんだぜ?ここで!ナウだぜナウ!」

「はあ…またこうなる。」

「やめろ!…ボスがこれを見たらどう思うか。…分かった行っていい。」

「オーケーオーケー。取り敢えず全員殺すから…気長に待っときなよ?」

魔族は不敵な笑みを浮かべると、ビルの上から飛び降りた。

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