第9話 社名

 都がマッスル・米田を紹介した次の日の事だ。私、リキ、シコナ、ヨネの4人は都から前日とは別の部屋に呼び出しを食らっていた。そしてその部屋だが――

 なんというか……ここは会議室なのだろうか? 部屋にあるのは円卓とその円卓に付属するように等間隔に置かれた5つの椅子だけ。……なので私達5人は円卓に等間隔で腰を下ろしている訳だが、これを端から見れば重役会議……まあ、我々で言えば悪の組織の幹部会、或いは町内会の主要先進国首脳会議に見えない事もないのかもしれない。そしてその幹部会の議題だが――


「今日は我が社の社名を考えようかと思う」


 これを言ったのは無論都だった。


 なるほど。言われてみれば社名を聞いた事はなかったな? ネットの求人も「地球を征服しませんか?」しか掲載されておらず社名は載っていなかったからな。

 ……と私はアゴを一撫でしながら小首を捻り。

「いや、いきなり水を差すようで申し訳ないが――必要なのか? 我々は悪の秘密結社であり、本物の会社という訳でもないから社名が必要とは思えないのだが? それともフロント企業を作り、その社名を決めようというのか?」

 これに都は机に両肘を着き、顔の前で指を組むと。

「いや、そうではない。確かに春キャベツを秋に売るというフロント企業を作っても良いのだが――。例えば我々はこの先あらゆるヒーロー達と戦う事になるだろう。その際、ヒーローに『何者だ!』と聞かれ、名前だけを名乗るよりも『悪の秘密結社〇〇〇〇の都こんぶだ!』の方がヒーローに伝わり易くはないか? ヒーローとて名前だけ言われても『?』だぞ?」

 た、確かに……「何者だ!」の質問に対し「都こんぶだ!」だけだと結局のところ何もわかっていないのと同じだ。しかし悪の秘密結社〇〇〇〇を付けておけば、ヒーローも倒すべき悪とすぐに認識出来る! っという訳か。

「なるほど得心はした。では早速何か提案がある者はいるか?」

 私が都以外の人物に視線を巡らせ促せば、まずはリキが片手を上げる。

「リキか。頼む」

「はい。あの……具体的な話じゃないんですけど、とりあえずそれっポクするのに横文字にするのはどうですか?」

 という意見に即座に反応したのは都。

「なるほど。悪の秘密結社『横文字』か……。悪くはないが、いまいちインパクトに欠けないか?」

 インパクトの問題ではない。リキは横文字の社名にしようと言っているまでで、横文字を社名にしようと言っているのではない。

 っという事など無視するか。

「インパクトに欠けるのであれば『横文字』ではなく『横綱』にするのは如何か?」

 これを言ったのはシコナである。そして何故か都は満足そうに笑みを浮かべ。

「悪の秘密結社・横綱か……社員全員が横綱の会社と考えたら相撲界に激震が走るな?」

「いや、角界に激震が走るには走るだろうが、実際に我々の会社に横綱は2人しかいないだろう? というより全社員が横綱ならここに居る我々5人も横綱という事になるぞ?」

 一応私がツッコミを入れてみると。

「そ、そうかうっかりしていた。我々は横綱を遥か凌駕するリア充……フレミング左手の法則を右手でも同時に出来てしまうほどのリア充だったな」

 私には都の中でのリア充の定義がイマイチ良くわからないが、それは置いておくとして。

「まあ、それはいいとして――。横文字、横綱とは別に……誰か他にもっと良い案はないのか?」

 という私の呼びかけに反応したのは意外にもヨネだった。ヨネは片手を上げながら電子パッドの裏側をこちらに見せている。

「よし、ヨネ。見せてもらおうか?」

 するとヨネはパッドを裏返し、そこに書かれていた電子文字は――

「国家権力の犬」

 だった。


 悪の秘密結社「国家権力の犬」。うむ、悪くはない……悪くはないが何かが違う気がする。……と私が首を捻っているところへ都。

「国家権力の犬……か。まあ、良く使うフレーズだが『ホニャララの犬』というのは悪くないかもな? 例えばそう……フランダースの豚とかはどうだ?」

「おい。犬はどこへ行った? それだとパトラッシュ(豚)になるぞ」

 私が言っていると透かさずリキ。

「あ、じゃあダイコンさん。紅の犬とかどうですか?」

「それは豚で良いだろう」

「飛ばねぇ豚はただの横綱って良く言うじゃないですか?」

 誰がだ?

「豚を神格化し過ぎだろう……」

 相撲界に再び激震が走るぞ。養豚場が横綱だらけになるからな。いや、そうなると悪の秘密結社・横綱は養豚場の事を指していたのか? どんな悪の組織だ?


 私は鼻から息を抜きながら両腕を組み。

「全く……もう少しまともな意見は出せないのか貴様等」

 と私がダメ出しをしていると都。

「そうは言うがな……ならばダイコン。君はどうなのだ? 何か良い案はあるのか?」

「私か? そうだな……結局のところ私にとっては闇バイトだからな? それに相応しい名と考えれば『絶好調のヤンデレヒロイン』とかで良いのでは?」

「う~む。確かにウチの会社には今135人のヤンデレ社員と35人のヤンデレアルバイトが居る。それが全員絶好調となると闇が深い……というより病みが深い」

「だろう?」

「しかし悪の秘密結社・絶好調のヤンデレヒロインは会社名としてどうなのだ?」

 と都が首を傾げていると横からシコナ。

「では会社らしさを求めるのであれば『忍転道』という名は如何か?」

 私はアゴを一撫でし。

「ほぅ……間違いなく任天堂に怒られるだろうな? しかし地球を征服しようというのであれば世界の任天堂……その中でも最強と謳われている任天堂法務部に勝てないようでは地球征服など夢のまた夢。となれば早々に任天堂に喧嘩を売るのも悪くはないかもな?」

 更に都が続く。

「確かにウチの会社には鞠男まりお(49)や類似ルイージ(51)それに桃姫(ヤンデレ)もいるからな? もはや我々は忍転道と言っても過言ではないだろう」

 いや、流石に過言だ。


 しかし――特に反対する者が居なかったので我が社の名前は忍者でも転ぶ道『忍転道』という名前に決まった。

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