第6話 聖女?

 長洲力が入社してから数日が経ったある日。私に2回目の仕事の機会が訪れた。

 仕事の内容は前回と同じ。新しくアルバイト希望者が現れたから一緒に面接をしてくれ……というものだった。但し今回はリキも一緒で3人で面接する事となった。


 なのでこれまた前回と同じ部屋。席には左から都、私、リキの順番に腰を下ろし――面接相手は既に私の前の席に腰を下ろしていた。そしてその人物がどんな人物かと言えば――


 歳の頃なら私と同じくらいだろうか。長く黒い髪を後ろで1本に結んでいる、凛とした袴姿の女性だった。これでもし腰に刀でも差していれば令和の女性剣士。令和の女性サムライ。令和の女性専用車両といったところだっただろう。まあ、実際に腰に刀を差していたので令和の女性専用車両である事は間違いないのだが……。


 それはそれとして面接が始まる。

「さて、ではまず初めに君の名前を訊いておこうか?」

 最早お決まりのように最初に名前を訊ねる都。まあ、当然だが私もリキも彼女の名を知らないからありがたい質問ではある。

 ――で。質問をされた当の彼女は背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま凛とした声で。

「ふむ。お初にお目に掛かる。拙者、名を『熊野プー三』と申す。以後お見知りおきを……」

 く、くまのぷぅぞぅ? 何かとは言わないがギリギリじゃないか? っと思っていたのは私だけじゃなかったらしく都もで。

「熊野プーぞうか……誤爆を回避するために『プーさん』と呼ばせてもらってもいいか?」

 いや、それは誤爆を回避出来ていない。寧ろ地雷原でタップダンスをするどころか己の命と引き換えに命綱を引き千切るくらいの核心を衝いている。

 ――ので。

「いや、それは色々と問題になりそうなのでご容赦願えないだろうか? 拙者の事は気軽に『六本木のキャバ嬢』と呼んで下され」

 と困った表情でプー三も言っているが。


 六本木のキャバ嬢の熊野プーさん


 うむ。これだと完全に六本木のキャバクラにくまのぷーさんが居るみたいな字面で笑えるが、確実に各方面から怒られるであろうからプーぞうには無難な呼び名を付けておくとしよう。という訳で都の代わりに私が口を開く。

「あ〜すまないが『六本木のキャバ嬢』だと長くて呼びにくいので貴様の事は『新宿のキャバ嬢』と呼ばせてもらって構わないか?」

 するとプー三は小首を捻り。

「む? それだと長さは変わっていないような気が……? いや、しかし拙者としては如何様な四股名でも受け入れる所存故、お好きなようにお呼び下され」

 ほぅ? キャバ嬢という割には源氏名ではなく四股名なのか。良しではこいつの事は力士と呼ぶか……と考えたがそれだと若干リキと被るので少しだけ捻るか。

「わかった。では『シコナ』と呼ばせてもらおう」

「御意」

 と力強く頷くシコナを見届けてからの都。

「ではシコナ。君が我が社でアルバイトをしたい理由。志望動機を聞かせてもらおうか?」

 これは定番の質問だが、無駄なやる気を計るには1番の質問だろう。そしてシコナの答えだが――

「ふむ。一言で言えば復讐ですな」

 瞬間。私と都とリキは互いに互いの顔を見合わせた。


 驚いたな。まさかまた復讐が目当ての者が入社希望してくるとは……。

 と考えたところで私はアゴに手を当て小首を捻る。

 いや、良く良く考えれば我々の復讐はそもそもが悪事。ならば初めから悪の組織に身を置いておけば気が楽だし、組織の力を使った方が復讐を遂げ易くなる。つまり復讐者が集まってくるのは必然か。


 という結論が出たところで。

「何故復讐を?」

 私が問えばシコナはゆっくりと口を開く。

「うむ。実を申せば拙者、つい先日まで『片翼の天使の残尿』というS級冒険者パーティーで聖女をしていたキャバ嬢でござる」

 聖女のキャバ嬢……そして源氏名が『四股名シコナ』というとんでもなく相反する人物像が出来上がった気もするが――シコナも元S級冒険者の聖女か……う~む。流石に聖女は2人も要らんか? っと都とリキにアイコンタクトを送りつつも念のため。

「聖女という事は貴様も仲間にバフをかけていたという訳か?」

 しかしこの質問にシコナは頭に疑問符を浮かべたかと思うと、腰の剣を鞘ごと片手で軽く引っ張り上げ。

「いや、拙者の仕事はこの剣一つで敵を斬り伏せる事でバフ――というより魔法の類は一切使えないでござるが?」

 ――ん? おいおい。聖女というのは味方にバフをかけるのが仕事じゃなかったのか? と思いつつ私と都がリキに視線を這わせれば。リキは力強く頷き。

「どうやらシコナさんは私とは違うタイプの聖女だったみたいですね?」

 なるほど。それならば仕方がない。寧ろタイプは被らない方が我々にとっては好都合か……。しかし客を剣で斬り伏せるタイプのキャバ嬢なら客は天国へ逝ける程のご褒美だな?


 と考えていると、話が脱線気味になっていたので都が修正に入る。

「それで? サバンナ1の俊足と言われていたキャバ嬢の君が何故復讐のために我が社へ?」

「いや、拙者サバンナ1の俊足キャバ嬢ではなく、サバンナ最速の女性専用車両と呼ばれていたでござるが……? いや今はそれは置いておいて。実は拙者、自分では常に前線で命を懸け戦い続けパーティーに貢献してきたつもりだったでござるが、逆にそれが仇となったらしくパーティーの面々に『お前は生真面目で鬱陶しい。こっちは遊び半分でやってんだ。もうS級になったしお前は邪魔だ、消えろ』と言われパーティーを追い出されたで候」

 クソだな。リキの時といい、冒険者とはウンコしかいないのか?

「拙者、正直そこまでパーティーに思い入れがあった訳ではござらんが、少々理不尽な切られ方をした故、彼奴等きゃつらに灸を据えたくこの会社のアルバイトに志望した所存」

 とシコナが言い終えると同時だった。

「ミヤコさん、ダイコンさん。私はシコナさんに同じ匂いを感じます。肌の質もそっくりですし」

 言ってきたのは無論リキだが――それはそうだろう? というか同じ匂いではなくまんま同じ境遇だからな? 肌の質は知らんけど。

「なので私を雇ってくれたのならシコナさんも雇うべきだと思います。肌の質もそっくりですし」

 確かに理屈ではそうなる。肌の質は知らんけど……っと思いながら私は都と視線を合わせ。

「だそうだ。正直私もリキとタイプが被らないのであれば採用して良いと思う。最前線で戦うアタッカーは確実に必要となるからな」

 すると都は一つ頷き。

「うむ。同感だな」

 都は返事をするとシコナなへと視線を向け直し。

「聞こえていたなシコナ。君を我が社で採用しよう」

「ありがたき幸せ」

 都の言葉に真っ直ぐな瞳で応えるシコナだった。


 こうして我が社に――また1人優秀なインド人が入社した。


 このシコナとは別件で。

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