第44話 スリーポイントシューター
ブーッ。
十分間の第一クォーター終了のブザーが鳴り響く。
静が冷静さを取り戻したこともあり、リーチを生かしたリバウンドで何度もボールを回収してシュートを決めてくれたおかげで、スコアは18-26と一桁差に抑えることが出来ていた。
ここまでは、梨世のファール以外はプラン通りと言ったところだろうか。
全員ベンチに戻って来る。
梨世は美優ちゃんの徹底マークにあってしまい疲れているものの、他のメンバーは比較的ピンピンしていた。
「オフェンスの後の戻りは早くしよう! ノーマークでの速攻、あの点の取られ方が一番もったいない!」
「あと、美優ちゃ……じゃなくて、9番のディフェンスはカバーに入らず、出来るだけ梨世一人でディフェンスすること。もし梨世が他の選手のカバーに入ったら、9番だけはマーク外さないようにケアすること、おっけい?」
「「「はい!」」」
「それからオフェンス。第二クォーターは恐らく、静に対してのマークが厳しくなってくるはずだ。そこで、次のプランを実行する。倉田、準備は出来てるな?」
「当たり前でしょ。私を舐めないで頂戴。むしろ第一クォーターボールがこなさ過ぎてうずうずしていたところだわ」
倉田がさっと髪を靡かせながら、すまし顔を浮かべる。
「それは、梨世がすまん」
「なんで私⁉」
「お前が他のみんなにパスしないからだ。お前だけ疲れてるのもそのせいだろうが」
「だって!」
「だってもくそもない! 倉田、次からティアと柚にボールを運ばせてくれ、梨世は少し守備に専念させる」
「えぇ、分かったわ」
「ふふふっ、私を温存させるなんて、流石大樹、分かってるじゃん! 私はこのチームのエースだもんね……!」
温存と聞いて、いいように捉えた梨世がほくそ笑む。
頼むから、美優ちゃんから1本でもシュートを決めてからエースと言い張って欲しい。
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるから。
「さっ、梨世が第一クォータやらかした分を取り返すぞ。まず柚は、相手陣内のスリーポイントラインまでボールをドリブルで運ぶだけで言い。あとはゴール前で静がパスを要求してくれるから、全部パスしてあげろ」
「分かった! アシストすればいいんだね!」
「そう言うことだ」
サッカー用語が混ざり気味だが、柚は元々スポーツ万能なこともあり、戦術理解度が高くて助かる。
「ティアが運んだ場合は、一対一を仕掛けて相手を引き付けてくれ。相手がダブルチームに来たところで、倉田か静にパスを出す。それを徹底してくれればいい」
「OK! 任せて大樹君!」
明るい調子で敬礼ポーズをするティア。
「さっ、第二クォータ、まずは点差を縮めていくぞ!」
二分間のインターバル終了を告げるブザーが鳴り響き、五人がコートへと戻って行く。
各ポジションへと散り、川見・城鶴ボールからの第二クォーターがスタートする。
倉田は俺の指示通り、柚へボールを渡した。
柚はドリブルを突きながら、ゆっくりと相手陣内へと進入していく。
すぐさま、静がポジションを確保すると、柚は大きくジャンプして頭の後ろへと持っていき、まるでサッカーのスローインのような感じでボールを静へ投げ入れる。
雑なパスだったものの、静は危なげなくボールをキャッチして両足を地面につけた。
その瞬間、一気に静の元へ、三人の選手が襲い掛かってくる。
第一クォーター、川見・城鶴側の得点が全て静だったのを見て、相手もこちらに攻撃源が静しかいないと読んだのだろう。
俺は思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。
読み通り。
第一クォータ、梨世と静だけに頼った戦略が功を奏した。
静は三人に囲まれながらも、器用にボールを動かして相手にボールを触れさせない。
「静!」
とそこで、静を呼ぶ鋭い声が響く。
静はその場で大きくジャンプして、片手で声のした方へパスを送る。
角度0度、ゴールライン際ギリギリのスリーポイントラインで、倉田は静からのパスをノーマークで受け取った。
倉田は迷うことなく、すぐさまスリーポイントシュートを放つ。
美しいシュートフォームから放たれたボールは、アーチのような綺麗な軌道を描いていき、吸い込まれるようにしてネットを揺らした。
「よしっ!」
作戦通りの攻撃が決まり、俺は思わずガッツポーズをしてしまう。
すると、倉田のスリーポイントシュートに動揺したのか、相手がイージーミスをしてくれて、再び攻撃のチャンスが巡ってくる。
倉田は、今度はティアにボールを託す。
ティアはゆっくりと相手陣内へとドリブルをしていく。
ドリブルを突きながら相手との間合いを計り、抜くタイミングを這い合っていた。
ちらりと24秒タイマーを見ると、残り10秒を切っていた。
視線に気づいた相手選手が、一気にボールを奪いにくる。
その瞬間をティアは狙っていた。
相手が突っ込んできたのを見て、上手く交わしてそのままドリブルを開始する。
ティアは直線的にはいかず、わざと大回りにドリブルを突きながらゴールへと近づいていく。
相手の陣形が崩れ、ティアのドリブルを阻止しようと、倉田についているマークが持ち場を離れた。
その瞬間を狙っていたかのように、ティアは倉田へとパスを送る。
相手のマークマンが「しまった!?」という表情を浮かべた時には、すでに倉田はスリーポイントシュートを放っていた。
ぶれることのない美しいシュートフォームとボールの軌道。
倉田のスリーポイントシュートが二本連続突き刺さり、第二クォーター開始一分で、一気に点差を二点差まで詰めることに成功する。
この攻撃を見て、すかさず
五人がしてやったりと言った様子でベンチへ戻ってくる。
「よくやった! 柚もティアもナイス!」
「いぇーい!」
「私はただ、大樹君の言う通りにしただけだよ!」
二人は異なる反応を見せるものの、どこか嬉しそうだ。
「にしても倉田はシュート上手すぎだろ」
「ふっ、あんまり舐めないで頂戴。これぐらいは当然よ」
そう言って髪を靡かせるものの、どこか表情か緩んでいて嬉しそう。
「ねぇ、私は⁉」
「よく何もしなかった」
「それって褒めてる⁉」
「さっきも言っただろ。温存だって」
「そ、そう言う事なら仕方ないね!」
梨世は鼻を高くしながらドヤ顔を浮かべる。
コイツ、さてはちょろいな?
「ただ油断はするな。相手もタイムアウトで対策を打ってくるはずだ。恐らく、倉田に徹底マークがつくだろう。柚とティアは、倉田と静にパスを出せないようなら、そのままシュートを狙っていけ」
「ラジャ!」
「OK!」
「静はオフェンスリバウンドを頼む。取った後強引にシュートにいってもらって構わない。あわよくばバスケットカウントを貰ってこい」
「任せて」
「梨世はこれ以上ファールをしない事。前半で三つはこの後のプランに支障が出る。攻撃は傍観でいい。ディフェンスもファールをしないよう程々の力でやってくれ」
「ほどほどってどれぐらい?」
「70%。いや、60%でいい」
「おっけい!」
「よしっ、この勢いを出来るだけ相手に渡さないようにしよう!」
タイムアウトが終わりを告げ、俺は手を叩きながら鼓舞して五人を再びコートへと送り出す。
相手の攻撃からスタート。
そして、タイムアウト明け、俺が感じていた予感が的中することとなる。
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