残り3日の今年とお前

さすふぉー

第一話 残り3日のお前の記憶

 2023年12月29日。今年が終わる3日前になった。街へ出てみると、派手な垂れ幕がデパートに掛けられていたり、年末年始セールが行われていたり。皆今年が終わり、来年が来ることを待ち遠しく思っているんだろう。そんな中、俺は今年が終わらないでほしいと願っていた。

「もう今年も終わるね〜色々あったけど良い一年だったよ〜けど、来年になったら今年の事は全部忘れちゃうんだろうね〜」

「お前なんで当たり前のように俺の部屋いるし」

「ん?なんとなくだけど?」

俺に向かって話しかけているこいつは、幼馴染の西條有紗さいじょうありさ。記憶が365日しか保存されないという不便な体質をもっており、毎年自分の誕生日になると記憶がリセットされてしまうのだ。そんなこいつの誕生日は1月1日。あと3日後だ。消えた記憶は基本戻らないのだが、過去に一度だけ、ほんの少しだけだが記憶を戻したことはあった。俺の顔と名前、家族と自分の顔と名前、自分の誕生日、出身地、年齢、それと自分の記憶が365日間しか保存できないことだけだったが。どうやらこの記憶は、何年経っても忘れないらしい。

「しかし、本当に色々あったな。楽しかった」

「だよね〜夏祭り行ったり、海行ったり」

「学祭でバントやったな。キツかった」

「ギターだけ異常に難しそうだったもんね」

「お前のベースもキツそうだったけどな」

一応俺らは今年で高1になったピカピカの高校生なのだが、有紗が高校の勉強についていけるのか。そんな不安もあった。しかし幸い地頭が良かったので記憶が無くても2日程度で中学の勉強を終わらせ受験に挑み合格。しかも高校では常に成績上位者になっていた。

「てかお前、今のうちに記憶のノート書いておいたほうが良いんじゃねぇの?あと3日で今年終わるぜ?」

「ん〜今日の夜書こっかな。それよりも!デパート行こうよ!思い出作りにさ!」

有紗は毎年この時期になると、『記憶のノート』に1年の出来事を書き留めている。記憶を形として残しておくことにより、次の年に読んで今までの生活を再現できるからだ。

「そうか。金はどうするんだ?金欠とか言ってなかったか?」

「何言ってるの?もちろん君に出してもらうに決まってるじゃないか!」

「は?」

「さぁ行こう!お金の心配をしなくていい買い物へ!」

「心配してくれ」

そんなことを言いながら、俺らは外へ出かける準備を始めた。ちなみに俺と有紗は幼馴染なので、両方の家にお互いの私物が結構置いてある。俺は黒いコートを羽織り、サコッシュにスマホや財布などを入れた。服は…今着ている服でもいいだろう。しばらくすると、有紗が準備を終わらせて、俺の手を引き部屋を出た。


「金が…」

「よし!お昼ご飯食べに行こう!」

デパートにて、俺は歩く財布になっていた。デパートに着くなり服屋、雑貨屋、文房具屋など色んな所に連れ回されていた。色々買わされすぎてあまり余裕がない。

「いいけど…俺お前に奢れるほどの余裕がないのだが」

「大丈夫!流石にお昼ぐらいは私が出すからさ」

「助かる」

正直奢られるのは貸しができるので好きではないのだが…こいつも俺に沢山買わせたから特に気にしなくていいだろう。

「んで、どこで食うんだよ?」

「ん〜奢るって言っちゃったからね〜。なるべく安いところで…」

「ん?安い店?」

「うるさい。…あ、ファミレスとかどう?ファミレスなら色々あるし、安くて沢山食べれる!」

「だな。じゃあ行くか」

せっかくなら高い店に行きたかったが、ファミレスは普通に美味いので別に文句はない。


「美味しかった〜!やっぱファミレスは良いね〜」

「だな。コスパ最高だぜ」

俺らは超有名チェーンのファミレスに入り昼飯を食ったのだが、約束通り俺は払わずに有紗に奢らせた。他人の金で食うメシはいつもより3割増くらいで美味かった。

「じゃあ次ボウリング行こうよ!絶対負けないと思う!」

止めてほしい。これ以上払わされると本当に余裕がなくなる。なんでこいつの財布は重さほぼ変わってないのに俺の財布はどんどん軽くなっていくのか。

「お前まだ遊ぶのかよ…まぁ良いか」

「よし決定だね!そうと決まればレッツゴー!!」

「また俺の財布が軽くなる…」


あれから俺らはボウリングに行ったりゲーセンに行ったり…とにかく金を使った。お陰で俺の財布から札は消え、代わりにレシートが溜まっている。レシートぐらいは自分の財布に入れろよ。

「あ〜美味しかった!やっぱり外食よりも家の味の方が好きかも」

「俺が作った飯を家の味にするな。親が泣くぞ」

「だって私のお夕飯は大体君が作ってるじゃん。これは家の味って言って良いと思うよ」

「はいはいそうですか」

俺の家で夕飯を食った有紗は満足そうな顔をしていた。俺の家では大体俺がメシを作っているのだが、有紗はほぼ毎日俺の家に来て過ごしているので俺の飯を食うことは珍しくない。毎年この時期になると俺の親と有紗の親が一緒にドイツ旅行に行くので、毎年年末年始は家に俺と有紗だけになるのだ。

「そろそろ風呂沸かしてくるわ」

「ん。りょ〜か〜い」

コタツに入っている有紗の気の抜けた声を聞き、俺は風呂場で浴槽にお湯を張る。しばらく待つと熱いお湯が張られた。

「おい風呂沸いたぞさっさと入ってこい」

「えぇ〜?一緒に入るんじゃないの〜?」

「黙れ」

そんな軽口を叩きながら有紗は脱衣所まで歩を進め

「覗かないでよ!」

なんて言った。それに俺は

「あーはいはいそうですか」

と返しコタツに入った。

(あったかい…)


俺も風呂から上がりお互い寝る準備を終わらせた。

有紗は家に帰るのがダルいという理由で俺の家に泊まることになった。前にもこういうことは何度かあったので特別感は全然無い。

「そういやお前どこで寝るつもりだよ」

「ん?もちろん君の部屋だよ?」

「あ〜…そうすか」

このやり取りは何度もしている。こいつは距離感がバグってるので同じ部屋で寝るのに何の抵抗もないのだ。そんな俺も抵抗はないから有紗の事は言えないのだが。

「じゃあ寝る前にノート書いとけよ。俺は先に寝るから」

「ほ〜いおやすみ〜」

有紗は布団の上でノートを書き、俺はベッドにダイブした。

(今日は財布が軽くなったな…ってか今日思い出作りに行ったんだよな?苦い思い出ができたんだが?)

心の中で文句を言いながらも俺は眠りについた。

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