第3話 慌てる二人


 見た目より、幼く無かった少女。ローブに隠れていたが、よく見ると色々と女性らしく育っている。歳はアベルの三つ下で、職業は薬士見習いだという少女ティアラ。自分の話を聞いてくれたが、その流れで彼女の話を聞くと、彼女も大変な人生を歩んできたらしい。アベルの話を聞き終わると自分もと、彼女は先程起こった出来事を泣きながらゆっくりと語り始めた。理不尽な目にあった者同士。この人なら私の話も真剣に聞いてくれるかもと、


「なら、もっと色々とお互い吐き出さないか?多少は楽になるかも?」

「そうですね……人に聞いて貰えるだけで気が楽になることもありますよね!」


そして二人は、お互いの愚痴や不満を言い始めた。二人共、余程溜め込んでいたのだろう。話は尽きず、あっという間に時間が過ぎく。


「う〜流石に寒いな〜〜〜」

「う〜〜〜そうですね〜」

「良かったら、場所を変えて続きを話さないか?」

「いいですね。私も不幸自慢は負けませんよ」

「なんか変な感じだな。ははは♪」

「そうですね。ふふふ♪」


王国は春に入ったばかり。日が暮れると肌寒く、ティアラが身震いして小さくなり、寒さを凌いでるのを感じ取ったアベルは、暖を取れる所に誘った。そして酒場に入り、引き続き、お互いの尽きない不幸自慢合戦に、酒も進み二人の時間はあっという間に過ぎていく。そして気がつくと、朝を宿屋の一室、同じベットで迎えてた。


「うう……頭が痛い……ここはどこだ?たしか……ティアラと話が尽きず、楽しく飲み続けていたら……あれ?途中から記憶が……」

「う〜ん……もう飲めません……むにゃ……」

「えっ!まさか!良かった。お互い服は着ていると。良かったぁ〜」


 朝と言うには日が昇った頃に眠りから覚め、昨夜を思い出すと後半の記憶が無かったアベル。すると同じベットから語り合った声が聞こえて驚く。先ずはと、一夜の過ちを犯してない事を確認し、安堵していると、


「ふぁ〜〜〜あっ、アベル。おはようございます……えっ!アベル?まさか!」

「大丈夫。なにもなかったみたいだ」

「で、でも同衾だなんて!そんな!私!これから!」

「落ち着けティアラ!先ずは深呼吸だ」

「ス〜ハ〜ス〜ハ〜 大丈夫です。落ち着きました」


起きて直ぐに考えることは同じらしい。しかし慌てふためく彼女を落ち着かせ、お互いの記憶を照合すると、どちらも後半は覚えてないことだけがわかった。


「それで、今後君はどうするんだ?」

「なにも……とりあえず本当に村が滅びたのか確認しに行くつもりです……」

「もし、良かったら二人でこの辺境伯領を出ないか?」

「えっ!私と?」

「ああ、これもなにかの縁だと思うんだ。同じ日に職場を飛び出した者同士。それに、こんなに話が合う人なら道中も寂しくないだろ?」

「そうですね。どうせここにいても見つかって前よりもっと理不尽な目に遭うよりは絶対にいいですよね」

「なら決まりだ。俺は旅の準備のために冒険者ギルドと商店に行ってくる。君はここで待っていてくれ」

「わかりました。もし可能ならお願いがあるんですけど、小瓶をいくつかと、薬草を数種類買ってきてもらえませんか?道中に調合して路銀の足しにしたくて」

「勿論そのつもりだよ。俺への魔力ポーションも作ってくれると助かるんだが、頼めるかな?」

「はい、任せてください」

「それじゃぁ、いってきます」

「いってらっしゃい。待ってますね」


(なんかいいな♪)

(フフフ、なんかいいですね♪)


出かける挨拶に、見送る挨拶。そんな当たり前のことに幸せを感じる二人。一人暮らしが長いと身に沁みる言葉の掛け合いに、それぞれがこっそり嬉しく思いながら、アベルは急いで戻ることを決意し、足早に宿屋から出ていき、ティラはその姿が、見えなくなるまで見送っていた。

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