第52話

「な、なんだこれは!!はぁーなぁーせぇー!!」



「動かないで、動けば動くほど、拘束がきつくなるよ。」



ロベリアの急の声に対し、冷静なリイナの声が聞こえてくる。


私は自分の足のスピードを緩め、廊下の角から体を覗かせた。


ここは当然皇宮の中、こんな青々しい植物が生えているわけがないのだけれど……

廊下の壁にはびっしりと太いツルがこびりついていて、あんなに捕まえるのに苦労したロベリアの小さな体が、その蔓に巻き付かれて身動きが取れなくなっていた。



「リイナ……あなた……」



「あ、ルナ。捕まえたよー」



リイナはロベリアが草の蔓に捕まっている場所よりも奥の方から大手で手を振った。

まぁなんと……呑気なこと。



リイナの使える魔法。

それは、枯木に花を咲かせたり、成長を促進させたり、疲れてる人を少しだけ元気にできる魔法。


なのは知ってたけれど……こんなことまでできるようになっていたなんて……知らなかった。



「くそーっ」



まぁそんなこんなで、ロベリアは草の蔓の梗塞から逃れようと、ジタバタと動いているのだけれど……まぁ、何本もツルがかなり体に食い込んでいるので、それが解けることはない。


そんな彼女に近づいて、リイナはロベリアに視線を合わせると、真剣な顔をして



「ルナにあんなことして……絶対に許さないから」



そう伝えた。

それを悔しそうな表情で見つめ返すロベリア。

しかし、ロベリアが何も言わないのを見て、言いたいことも言い終えたリイナは、彼女から視線を外し、今度は私の方に向かってリイナは歩いてきた。



「リイナ……あなた……これ……どうやって……」



私はまだ驚きを抑えられず、目を見開いて口をパクパクさせていた。

一方リイナは大したことないとでも言うようにニコニコしながら私にいう。



「あぁ、これ?あの子がここにくる前に枯れ草を巻いて、角を曲がってきたところで力を使ったの」



「で……でも、あなたの能力は植物を成長させる……こんなことできたの……?」



「うん、なんか聖女候補者に選ばれて、修行してたらできるようになっちゃった。ちょっとくらいなら私の意思で動かせるんだよ。だから聖女に選ばれたんだけど。」



そう言ってリイナが片手をヒョイって動かすと、ロベリアが『あぎゃー』と悲鳴をあげた。多分蔓の力が強くなったのだろう。


ちょっと哀れだわ。



「……もしかして、儀式の日も、私が助けなくても……自分で何とかできた?」



だとしたら余計なお世話だったかしら。



「んー……そうだよ、って言えれば『余計なことしないでよ』って思えたし、罪悪感ちょっとはマシになるんだろうけど……そんな簡単じゃないんだ」



「どう言うこと?」



「だって、自分の意思反映させるためには枯れ枝か枯れ草がいるんだもん。元気な植物じゃ、ただ花を咲かせたり、種を生み出してくれるだけで終わっちゃう。……あと魔法使う時の呪文長いから、発動までに時間かかっちゃうのよね……。だからルナがいなかったら、私はあの時助かってなかった。」



「そう……」



そう言われて私は少しホッとする。

余計なことして、こんな状況になったのでは各方面に申し訳ない気持ちでいっぱいになるからだ。



「それよりも」



話がひと段落すると、そんなことを言いながら、笑顔で寄ってくる彼女は、私の両側のほおをぐぐぐっとつねった。



「何でこんなことするかな……勝手に入れ替わってパーティーなんか行かないでよ!」



いとこの聖女が激おこである。



「ルナの作戦は姑息なのよ!皇宮にくる前に飲んだあのお茶!睡眠薬入れてたでしょ!バレてないとでも思った!?眠ってる間に勝手に入れ替わらないでよ!!」



あぁ……バレてたか。

実は前日にはもうその作戦を立てていた私は、リオスに頼んで睡眠薬になる薬草を探してもらって、その後こっそり摘みに行って、それを飲ませたのだ。


一時間くらい効果あるって言ってらのに、聞いてないってことは、飲んだふりして狸寝入りしてたな。


少し罪悪感。


しかしこちらにも言い分がある。



「な、何よ、そっちこそ、勝手に部屋でちゃダメじゃないのよ!自分がどれだけ危ないのかわかってる?あなたは狙われてるのよ!まだ!」



「だからちゃんと今日は準備万端だったんだよ!いつどこで襲われても自分の身の安全の確保と犯人の身柄確保くらいできたんだから、余計なことしないでよ!」



その言葉に私はカチンときたので、仕返しと言わんばかりに、私もリイナのほっぺをつねり返した。



「会場で何があったか知らないでしょ!?刃物振り回されたのよ!いくら魔法で出したクサで拘束しても、すぐに逃げられてたわよ!温室育ちは黙ってお部屋で寝てなさいよ!」



「何ですぐ人のこと閉じ込めようとするの!?」



「誰のためにやったと思ってるのよ!!だいたい、リイナだって同じことしたじゃない!」



そこからはしばらく、お互いがお互いに腹を立てすぎて、声にならない音を出しながら、互いが互いにお互いのほおをつねり合い続けた。



その間に、ロベリアを確保するために、フィリックがいつの間にか城の騎士たちを集めて連れてきた。


そして、私たちの喧嘩を尻目に指示を出しロベリアの確保に乗り出した。


その時に怪我の治療を終えたクロウもいつの間にか合流していたようで、フィリックを見つけると耳打ちした。



「何、どうなってんのこれ。あと何喧嘩してんの?」



「例の子供捕まえた、あの二人のことは知らない……何お前、怪我したの?」


しれっと声をかけてきたクロウに自然に返事をしたフィリックだったけれど、脇腹を抑えているのを見て静かに驚いた。

本人が普通にしているから余計に驚いたのだろう。



「何で鎧つけてないんだよ?」



「君が呼ぶから急いで会場行ったんだ。おかげで間に合った」



クロウは何を持って間に合っていると言ったのだろうか。

まぁ、本人が元気そうで治療が終わっているなら、何も言うことのないフィリックは、それ以上何も言うことなくロベリアを捕まえると言う自分の仕事に戻った。


そして、2人の喧嘩に混ざる気のないクロウもフィリックの仕事を手伝った。




さて、そんな2人の様子は置いておいて、私たちの喧嘩に話を戻そう。

もう捕獲段階に入っていると言うのに、今だ喧嘩が終わらない私たち。


騎士たちからしたら邪魔以外の何でもないだろう。

それでも喧嘩を私たちは続けていた。

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