第42話 今度は私が


「おびき出す?」



「そう、だって、私はまだ害は被ってない、次の手を狙ってるのかも。なら……私が公の場に私が出て……一人になれば……また襲ってくるかも。」



「囮になるつもりかい?」



私はクロウのその一言で、リイナが何をしようとしているのかようやくピンときて、ガバッと体を起こす。


そして、リイナの肩をガバッと掴む。



「ダメよ!絶対!私そんなことして欲しいわけじゃ」



それに、そんなことして今度こそリイナに危害が加わったら?

そんなの絶対に嫌、せっかくリイナのことを守れたんだもの!

このまま行っても、確かに聖女は剥奪されるかもしれない、婚約破棄されるかもしれない。

でも、最悪な物語通りの結末だけは避けられる。


だから、それは許可できなかった。



「まだ時間はある、体調も悪くない。あなたが身を挺してそんなことする必要はどこにも」



「あるよ」



リイナは捲し立てる私に対して、冷静に静かな声でそう返事をした。

そして、私がぴたりと喋るのをやめると、優しくそっと私の左手に自分の手を重ねた。



「私のせいだもん、ルナがこんなことになったの」



ぽつりぽつりと話すリイナ。

そう話すリイナの顔は笑顔だったけれど……



「私のこと庇わなきゃ、こんなことにはならなかった」



後悔に塗れた悔しいという感情が、見え隠れしていた。



「それに長期戦だと困るんでしょ?うまく誘き出せれば、最短で捕まえられる。解決できるの。だから、私にやらせて!」



多分、私の感情の読み取りは間違ってなかったのだろう。

リイナは覚悟を決めたのか、真剣な表情でそう訴えた。



「どっちみち放置はできないでしょ?」



これはもう、説得してもリイナの意思は曲げられないだろう、というのがクロウの判断だったようで、こんな返事を返した。



「仮に、囮になるとして……作戦は?」



「クロウ!」



私は彼の意図が理解できたけれど、感情が追いつかず、諫めてしまった。

けれどクロウも考えを変える気はないらしく、首を横に振った。



「僕は賛成だよ。あの子の居場所を探しにいくより手っ取り早い。」



「だけど……!」



「ルナ、リイナの希望、聞いてくれないか?」



「フィリックまで……柄にもなくそんなこと言うの?」



「正直、ルナの言うこと聞かなかった俺たち全員罪悪感感じてるんだ。やれるだけのことはさせてくれ」



「……」


私は3人の顔を見回した。

皆が私に対して懺悔の気持ちを抱えているようだった。


何よそれ……ずるいじゃない。

儀式の前のこと持ち出されたら……。

そんなに私のこと気にしてるの?



何よ3人とも。

今まで、そんなんじゃなかったじゃない。

正直扱いリイナに対するものに比べて結構雑だったし。

リイナだって、もっと気にせず言いたいこと言い合うような仲だったじゃない。


説得できなかったのは、私が納得できるだけの材料を提示できなかったのと、信頼と話術がなかっただけなのに……みんなが背負う必要はないのよ。


なんなのよ……そんなこと言われたら……これ以上止められないじゃない。



感情がぐちゃぐちゃで、思いを吐き出すことはできなかったけれど……3人の気持ちを受け止めたことは伝わったようだ。


だからリイナが話を戻し、さっきのクロウの質問に返事を返した。



「作戦は……人が多く集まる場所で、私が一人になる可能性があるイベントに参加するのがいいと思う。相手が油断して、私を狙える場所。」



「なるほど、どのパーティーを考えてる?」



「今考えてるのは誰かのパーティー、できれば今疑いがかかってる3人のうちの誰かが主催のパーティーがいいと思う。今届いてるパーティーの招待状の中から一番早いのを選ぶつもり。」



「だったら明後日の皇女の誕生日パーティーの一択じゃないか?」



「クレム皇女の?」



まさかのフィリックの選択に一同は驚く。


ここまで何度も話したように皇女と聖女は立場上非常に難しい間柄で、親族にでもならない限り、


だから当然皇族と結婚して皇太子妃、皇后にでもならない限り、任期を終え権利がなくなるまでは皇族のパーティーには参加しないのがセオリーだ。


つまり、本来であれば、リイナもそれに倣っていかないのが普通である。


もちろん、本人もそのつもりだったのだろう。


だからフィリックから皇女のパーティーを候補に挙げられて戸惑ったようで



「招待状は届いてるだろ?」



なんて聞かれても



「で、でも、私が参加していいの?建前は……」



と戸惑ってしまうのだ。



「だけど、こう言うのはインパクトが大事だ。普通のパーティーに参加したって、向こうの行動が読めないぞ?もし、あの子供のことを知らない家のパーティーに参加したって、肝心のあの子がこない。シラミ潰しに毎週パーティーに参加しても、最低三週間かかる。」



「もしその間にこっちの企みがバレたら、もう罠にはかからない。できれば一回目で捉えたいね。」



「だったら本人や黒幕が『チャンスだ!』と思うような、それこそ聖女の儀式と同じくらいのインパクトがあるパーティーに参加する方が効果的だ」



それは間違いない。


リイナがいとこの件で聖女の座を剥奪されかかっている話は、貴族の中ではもうあの話は回っている。


まだ完全じゃない聖女がパーティーなんかに行けば、騒ぎにはなる。


そして、それが実行されるとなれば、新聞の一面を飾るに相応しいスクープになる。


安全面、おびき寄せるための話題性としては、これ以上ない。



「もし皇女なら、この好奇は逃さないし、他の貴族も参加するから、チャンスと思うなら、あの子供を連れてくる。もし逃げてるなら、汚名返上のため飛び込んでくる可能性がある。」



「申し分ないんじゃないかな、これで行こう。リイナ、今度こど危ないかもしれないけど、いいんだね」



「もちろん」




「……」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る