第32話 確執と出禁



『エクティ公爵の後継でありながら、皇族のことを嗅ぎまわろうなんて、立場をわきまえるべきでは?』



『皇族のことを嗅ぎ回って、こちらになんのメリットが?』



『いくらでもあるじゃない。皇族を国のトップからその座から引き摺り下ろす作戦を立てている……とかね?』



クレム皇女はニヤリと口を歪ませたが、目は笑っていなくて……フィリックはこの時完全に疑われていることを察したと言った。


だからこれ以上、嘘を重ねるのはやめ、素直に謝罪し、正直に事情を話すことにしたのだそうだ。



『誤解です。少し知り合いがをしましてね。同じようなをした人間が過去にいて、治療のデータでもあれば……彼女を治す希望があるかと思いまして』



……ねぇ……』



クレム皇女は閉じたままの扇子を自分の口元に戻し、ポンポンと自分の口に叩きながら、フィリックの様子を疑ったのだとか。



『それなら、ちゃんと申請書出してくれれば、私に疑われることもなかったのに』



『受理されるまでに時間がかかりますから……』



もちろんそれ以外にも意図はあったらしいけれど、それ以上は答えなかったと語るフィリック。

まぁ、語らなくても皇女には伝わったということでしょう。


だからそれ以上は深く突っ込まれず、他の話に移ったようだ。



『聖女のいとこだったかしら?をしたのは。』



『それが何か』



『別に、ただ災難だったなぁって。でもよかったじゃない、婚約者が無傷で。』



『他人の不幸を喜ぶような、できた人間ではないので』



『お上手ね。まぁ、それを信じるとして、なぜあの怪我を受けた人間が、皇宮にいるって思ったの?』



『何かと狙われやすいでしょうから、前例があるのではと思いまして』



『嘘おっしゃい、誰かから聞いたんじゃなくて?』



『だとしたら、こんなところに来るより本人に問い詰めますよ』



『だとするならば、それは侮辱ではなくて?皇族の誰かが、同じ怪我の受けたと疑うなんて。』



『皇族の誰かがなんて、一言も言っておりませんが』



『そう言うふうにも受け取れるから、言動と行動には気をつけろと言ってるの。』



そして、皇女は再び扇子をバッと開いて口元を隠し、ニヤリと笑ったそうだ。



『聖女の座を狙うものは多いし、聖女を邪魔に思う人間もいる。』



『警告ですか?』



『忠告よ。今回は運が良かったわ、でも次は……ないと思いなさい。』



そういうと、言いたいことは全て言い終わったのか、皇女はくるりと体を翻し資料室を出て行こうとしたそうだけれど、フィリックはそれを止めたのだという。


一つ聞きたいことがあったのだとか。


聞きたいこと……それは……



『皇女、今回の件黒幕は誰だと思います?』



という内容だった。


本人は説明してくれなかったけれど、おそらくこの質問をした意図はなんとなく察しがつく。


きっとそれを皇女もわかったのだろう、足を止め振り返らずに言ったらしい。



『それを答えてどうするの?』



フィリックがいうには、返事をはぐらかされたそうだ。



『言ったでしょ?聖女を邪魔に思う人間もいるって』



そして、顔だけフィリックの方を向けて……



『所詮は聖女の親族、おまけ品。このままいけばいなくなる人間。そんな相手のために、こんなこと調べても仕方ないんじゃない?』



そう言い残して出て行ったらしい。


それからしばらくは資料を漁っていたようなのだけれど、結局見回りの騎士に出ていくよう忠告され、追い出されたのだとか。



これが、資料を調べている間にあった出来事らしい。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





まぁ、なんとなくの出来事はこれでわかったけれど……一言言いたい。



「嫌な人。」



っていうか、私に対する当たり酷くないかしら?

確かに聖女のいとこというだけの存在感かもしれないけれど、それ以外は平凡な伯爵令嬢かもしれないけれど……人の命がかかってるっていうのに。


っていうか、なんだかんだ『リイナじゃなくてよかった』ってなんなのよ!


リイナは私にとっても可愛い存在だけど、助けられてよかったけど、そんなふうに言われたら流石に傷つくわ。


っていうか、私が執筆した時は皇女様がいるってことは決めてたけど、全く物語に絡ませなかったから知らなかったけど、そんな性格だったんだ。


がっかりだわ。



「だいたい、資料調べることくらいあるじゃないのよ。そんなに目くじら立てなくても…」



「まぁ、こっちも公爵家の人間が、皇宮関係のデータを無断で調べようとしてたら、謀反を怪しまれても仕方がない。」



「まぁ、ただの公爵家ならまだしも、暫定聖女の婚約者だからね……厄介に思われても仕方ないか。」



「とはいえ、流石に資料室の出入りは皇女の許可と立ち合いがないと入れなくなった。」



まさかの公爵令息、資料室出禁。



「ちょっと、そんなことになるくらいなら、申請書最初からちゃんと書いておいてよ!」



「だから、時間がかかるんだって言っただろ!他にもそう簡単に情報をだな……!」



「出禁になって資料探せないんじゃ意味ないじゃないのよ!役立たず!」



「あ、仮にも助けようと調べに行った人間を批判するのか!?」



「ごめん!」



間違えた時はすぐ謝罪、これ大事。


いや、ロベリアに会えれば呪い解いてもらえるだろうし、こっちの資料はさほど期待してないけど……かといって、あるかもしれない手がかりを探せないのは、なんかスッキリしない。



「じゃあ、もう調べられないの?」



「いや、まだチャンスはある。また別の機会に入ってみるつもりだけど……時間はかかる。」



フィリックは諦めていないことを伝えてくれたが、その言葉に首を横に振ったのはクロウだった。



「いや……でも、それなりの時間は探したんでしょ?なら流石に、資料自体が捨てられちゃったかな……もしくは記録なんかとってなかった可能性も……」



「どうだか……そう簡単に皇室に関わった人間の資料を消すとは思えないんだけどな。」



フィリックは頭をポリポリとかきながらそういう。



「まぁ、こんなところで悩んでてもしょうがない。リイナがまってるんだっけ。神殿に戻ろう。」



「そういえば、私たちを探しに行こうとしてたくらいには、リイナ気にしてるんだっけ……早く戻らないとね。」



そう言って私たちは、神殿の入り口に向かって歩いて行ったのだけれど……



「あら?何この馬車の数……」



入り口の前にはずらっと馬車が並んでいた。

最低3つ……違うな、4つだ。


ミサでもなんでもないのに、こんなに馬車が並ぶなんて珍しい。



「これ……何があったの?」



私はフィリックに、この異様な状況を聞いた。

そして彼の顔を向けると……それは絶句という言葉が似合う表情を浮かべていた。



「嘘だろ……まだ帰ってないのか?」



「な……何?なんなの?」



全く状況が理解できていない私とは別に、クロウは何か推測できたようだ。

だから額に手を当てて、フィリック同様絶句した表情を浮かべた。



「あぁ……あれか……そういう話はちらほら出てたけど……あちゃー……タイミングが……いつ来たの?」



「一時間前」



「長い……」



「え……なんなの?」



「……元聖女候補が来てるんだよ」



「聖女候補?何よ、揃いも揃って今更……」



私がそう尋ねると、2人は顔を見合わせた。

話すべきか、話さないべきか、決めかねているという表情。



「やっぱ、もう本人に話すべきじゃないのか?」



「まぁ……このまま投げやりでいられるよりは、真実を知った方がいいかもね。」



「な……何よ……怖いじゃないのよ……」



二人は心を決めると、頷いて私の方を見ると、事実を教えてくれた。



「実は……黙ってるように言われたんだけど……」



そう切り出された説明を聞いて、その結果……


私も2人同様絶句した。

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