第30話 調査中ではあるのだが


寄り道を済ませ神殿に戻り、クロウが馬を小屋に戻していると、そこでフィリックに出くわした。




「お前たちどこ行ってたんだ?特にルナ!」




そして顔を見るなり激怒される。


なんか話を聞くと、ちょっと前に神殿内で私たちがいなくなったと騒ぎになったので、フィリックが探しに出るところだったらしい。



「ごめんなさい、ちょっと……」



「あの例の子供に会いに行ってたんだよ」



あまりの勢いと騒ぎになっていたことに少し罪悪感を覚え、シュンとなって謝罪した。

そしてなんとか説明しようとした私の言葉を遮って、クロウが代わりに説明してくれた。




「子供?居場所わかったのか?」



「まぁ、かなり信ぴょう性の高い目撃情報を手に入れてね。だからルナをしからないでよ。自分の命がかかってるから必死だったんだよ」




「……そう言われると……わかったよ、これ以上は言わない。」




なんか庇ってくれているつもりらしい。

クロウのその説明を聞いて、反論ができないでいるフィリック。

フィリックも無断外出した追求をやめた。




「でも、情報ったって、どうやって仕入れたんだ?」



「まあ、色々と。まぁ結局家らしきものは見つけたけど本人はいなかった。多分あの日から帰ってない。」



まぁ、私が説明をしていないのだから、それ以上説明はできないわよね。



「手掛かりはなし……か。」



「これは長期戦になりそうだよ」



「長期……か……」



フィリックは少し顔を曇らせる。

クロウとは対照的の反応……もしかして長期では何か困ることでもあるのだろうか。


気長にやろう派のクロウは何かを察したのか察していないのかわからないが、こんなことを言い出した。



「そんなこと言っても、情報がないんだ、どうしようもないよ。だいたい君だってまだ例の資料見つけてこられてないじゃないか。」



そのクロウの追求に、私はハッと思い出した。



「そうよ、フィリック……資料どうしたのよ!私が目を覚ました日に調べに行くとか言って話の途中で部屋でてっって、今日までそのままじゃない!」



「あぁ……あれ……か」



「あれかじゃないわよ、私あれ信じてまあまあ待ってたのよ?」



「嘘だよ、忘れてたくせに」



「うるさい!」



なんて怒ったけれど……


はい、ごめんなさい。忘れてました。

っていうより、資料はないと思ってたのよ。


でも、私が忘れるほど長い間(と言っても一週間だけど)なんの連絡もないってそいうことじゃないんだろうか。


現にバツの悪そうな顔をフィリックがしている。



「悪い……まだ……」



「まさか……何もしてないとか言わないわよね!?」



私はびっくりして聞き返し、思わず掴み掛かりに行きそうになる。


行きそうになる、というのはその前にクロウに止められたからだ。


見つかるとは思ってなかったけれど、探してないなんて返事は予想していなかったからだ。


まぁでも流石にそういうわけではないらしい。



「それはない、ちゃんとあの後すぐに資料を探しにいったって。」



「じゃあ何よ?」



「いくら資料を調べるって言っても、今生きてる国民だけで膨大な量が保管されてるんだ。それが何年も前に死んだ人間となると……探すのは難しいんだ。」



なるほど、一理ある。

前世みたいにパソコンがあるなら、検索で一発ポンって探すことができるかもしれないけれど、この世界では紙で書類は管理されている。

もちろん見やすく整理されてはいるだろうけれど、……どの階級のだれ人のか……ということがわからなければ、調べるのに難航するであろうことは、想像に難しくない。


とはいえ、それでも比較的調べるのは楽なはずだわ。



「皇宮にいる人なんでしょ?庶民よりは多少は調べやすいんじゃないの?」



この質問にはフィリックが答える前にクロウが答える。



「別に皇族だとは言ってないよ。皇宮にいる人間なら、資料が保管されてるかもって言っただけ。」



そうだ、確かにそう言っていた。

じゃあ、皇族とも限らないのね……となると、むしろ余計に探すのに困難するのも無理ないわね。


ちょっと責めすぎたかしら。

反省した私は、素直に頭を下げた。


フィリックはそれを受け入れると、自分の話に流れを戻した。



「まぁ、それでもなんとか見つけようと、手がかりが少ない中資料を漁ってたんだけど…………その時、クレム皇女と鉢合わせてな」



「クレム皇女?何か問題があるの?」



「何、嫌味でも言われた?いろんな方面のこと。」



「そう言うんじゃないけど」



フィリックはその時のことを話してくれた。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




——それこそ、これは私が目を覚ました直後、フィリックが部屋を出て、その足で皇宮に行った時の話らしい。


フィリックは皇宮で働く知り合いに、頼み資料室の入室を手伝ってもらったらしい。

公爵家の人間のフィリックは、入室自体は問題なく可能なのだけれど、それには手続きが必要らしく、急いでいたフィリックは手続きをすっ飛ばして鍵を開けてっもらったのだそうだ。


それから本棚に大量に敷き詰められている資料をある程度当たりをつけて漁ったのだそうだ。


もちろん、そんなにすぐには見つからないのは想定済みだったけれど……



『何をされているの?フィリック卿』



さっきの会話にもあったように、皇女様とここで鉢合わせるのは想定外だったらしい。



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