第24話 魔女の小屋へ向かう道


「僕は今激しくデジャブを感じているよ。」



クロウはそう呟いた。

それもそうだろう。


だって、私は今、またしてもクロウの馬に乗せてもらうというこの構図が、儀式の日と全く同じだったからだ。


違いは私がドレスじゃなくて神官服を着てるってことだけね。



「いつも悪いわね、送り迎えしてくれて。」



「せめて馬車にして欲しいもんだね。」



「あなたの急ぎであなたの馬しかなかったし、馬車どこかで捕まえたら」



「これはリイナじゃなくて行くの止めたくなるよ。」



「でも文句言いながら送ってくれるのね」



私の言葉にため息を吐くクロウ。


神殿から少し外れたところ、とはいえ、ある程度距離はある。

この距離を文句言いながらでも送ってくれると言うことに感謝がないはずがない。


そうでなかったら、私は徒歩でここまで来ることになってただろうし。


そんな私をみて、実は私の頭の上に乗っている白い鳥リオスが話しかけてくる。



「僕、いる意味あります?」



「なんで?」



「送ってくれる人がいるなら、僕お邪魔かと。別にこの状態で力かせること何もないんですし、人前じゃ喋りかけるのもアレですし。」



「ダメよ、強気であの子の居場所わかるって言っちゃったんだから。道案内してくれないと!それに神様がいてくれた方が心強いじゃない」




「なんか言った?」



「なんでも?」



私は適当に誤魔化して口に手を当てる。


いけないいけない。

この鳥姿のリオスの声も姿も、私にしか見えないんだった。

話すなら小声にしないと。


リオスはリオスで、わかっていながら声をかけたのを悪いと思ったのか、私に『ごめんなさい』と謝られた。


まぁ、他の人にリオスが見えないのに、相乗りさせてもらってる状況で、大声で返事しちゃった私が悪いんだけど。


しばらく私が押し黙っていると、クロウがこんな疑問を口にした。



「あのさ、今更だけど、事件が起こることはわかってたんだよね?」



「そうだけど?」



「その上……住んでる場所わかってるなら、儀式の前に来れば食い止められたんじゃないの?」



何かと思えばそんなことか。

そんなの考えたに決まってるじゃない。



「森の奥ってこと以外今までわかんなかったの。それにね私は貴族令嬢。森に行く時間の余裕なんかないわよ。」



「騎士でも使用人にでも代理で頼む方法はあっただろう?」



「まだ起きてない事件の犯人のこと話して、誰が動いてくれるのよ。」



「……」



実際、リイナの身が危険だって話ですら、昔馴染みの誰も信じなかった。

ちゃんと候補者が襲われたからって理由をつけても、根拠がないからって。


聖女候補者の令嬢を襲った子供を捕まえるって名目で行けば、もしくは探してくれたかしら?


無理だわ。

どうせ、騎士団に行って状況を説明したって、それこそ根拠がない。

現場に居合わせたわけでもないのに、その情報をどこで手に入れたのかって話で問い詰められるわ。


言い訳はできるけど、ボロが出る。


結局、誰も動いてくれない。


だから、後手にはなるけれど、彼女に会うなら、事件のあった後しかなくて、今動いているわけなんだけど。


そのセリフを聞いて、何か思うところがあったのだろう。



「悪かったよ」



急にクロウから謝られた。



「何よ……改まって……」



「あの日、過保護だとか言ったけど、そこは訂正するつもりはないけど。結局君の情報は正しかった。真面目に取り合って、あの子供探してたらこんなことにはならなかった。」



意外にも、本人は本人なりに後悔があるようだ。

謝罪するなら、嘘でも全部ひっくるめて謝罪して欲しかったものだけれど。

でも……まぁ……そうね。



「確かにね、あの時私の話を真面目に聞いてくれてたら、防げたわよね。あなたはある程度情報教えていたし。せめて、儀式の時、入口だけじゃなくて、滝側にも警備を配置してくれてたら……なんとかなったかも」



「そこは気にしないでって言うところじゃないの?」



「信頼できる相手には嘘言わないことにしてるの。」



私はしれっとそう言い返す。

別に本気で怒ってないし、不満もないけど、謝罪する場合許して欲しいと思うこともあれば、せめて欲しいと思う時がある。


なんとなく今回は後者な気がしたから、クサしてみた。



「言い訳すると、あそこは聖域だから、聖女と神父以外は立ち入るなって言われてたんだよ。」



「謝罪の時に言い訳なんかいらないわよ。」



「……悪かったよ。これ以上言い訳はしない。とにかくあの話をまともに聞くべきだった。それこそ、聖女のいとこだ。予知夢くらい見てもおかしくないって思うべきだったよ。」



クロウは私の言うことを素直に聞き入れて、そう反省した。

このまま言い訳を続けるんだったら、もっといじめてやろうと思ったのだけど、これ以上は可哀想ね。



「……わかってくれたなら、もういいわ。それより、もうだいぶ森に近づいてきたわね」



「そろそろ森に着くけど……このまま道なりを進んでいいのかな?」



私はクロウにそう聞かれて、記憶をたぐる。


確か、ルナは森の中に入っていくシーンを描いたはず。

家には辿り着けなかったけれど、森の中でロベリアに会えったわ。


と言うことは、道は間違えてないはず。

道なりでいいはずよ。


だから私はその通りだと答えるつもりだったのだけれど……



「東にある大木に向かうよう伝えてください」



とリオスに声をかけられるのだった。

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