第15話 僕の戦闘力は……8万です

 球体型の全能ドローンを起動し、まず如月が最初に行ったのはSNSでトレンドの確認とチャンネル登録者が増えているかの確認だ。


 Zゼットのフォロワーは昨日よりも2万人増えて5万人、トレンドにも『キズラキ』や『逆ギレ配信』などが上位に入っており、今回の配信がより色んな人の目に付いたのが分かる。



「1日でこんなに増えるなんて……異常ですよ!? 水華みずはさん……どうしたらいいですか……?」


 通知欄をスクロールしていくたびに手の震えが止まらない。


 当然、この増加具合に驚きを隠せるわけもなく、青ざめた顔で炎上しない方法を彼女に訊いてみる。が、水華はその場で落ち着いてスマホを向けてくるのみ。



「あっ私も増えてるー。ほら見て? 87万人」

「元の人数がすごい……あっ、じゃあ……ついでにフォローしてもいいですか?」

「ん、いいよ」


 さくっとアカウントを調べてフォローすると、隣の水華はニコリとフォローを返してくれた。


 アカウント名は『スイカ@ダンジョン攻略』と至ってシンプルな名前だった。



 続いて気になるのは、配信サイトのチャンネル登録者数。

 以前見たときは5万人もいたのだが、今回はどれだけ増えたのだろうか。



 浮き立つ心を表に出さないようにゆっくりと指先を動かす。


 そして、自分のチャンネルを押して登録者を目視する。

 すると、人数は前回より3万人も増え、登録者数は8万人に達していた。



 そのついでにスイカのチャンネルも見てみると、こちらは5万人増加しており、直前の配信の再生回数も100万再生を超え、お互いに人気の高まりを実感するのだった。


「昨日の配信、怒りの配信だったみたいだけど最終的に4万人くらい見てたみたいだよ! 途中から映ってなかったけどね」

「でも、時間的には完璧なアリバイですよね、僕があなたをあのタイミングで襲えるわけがないって視聴者も分かってくれただろうし」



 たしかにね、と賛同する水華。だがしかし、如月の疑問は会話するたびに増えていく。



「この家ってどこらへんですか? あとどうやって僕をここまで連れて来られたんですか……」

「君はドラゴンと戦ったときみたいにお姫様抱っこで家に運んだよ? 君のドローンは私の【能力】で収納してたし、家は道なりに進んでたらあったんだよ」

「色々とツッコミどころがあるけど……」


 背丈は同じくらい、なんなら如月の方が若干高いのに、意識がない彼を運べたのは超人すぎるけど、彼女なら出来なくもない……かもしれない。



「その間モンスターに襲われませんでした? 僕が戦った……『リビングメイル』? って奴はダンジョンで一度も戦ったことがないモンスターだったんです」

「あー何体かいたね! あれは距離取って戦わないと危険だよ? たとえば銃を使うとか――」


(先に知りたかったな)


 経験も実力もスイカに劣っていることを本人に分からせられているが、このままじゃ駄目だ。



「水華さん。今はまだ何も勝ってる点がないですけど、僕は必ずあなたを超えてみせます」

「お〜結構本気なんだね」


 この話はいずれ、視聴者や姉にも伝えることになるだろう。

 ただ、目の前の水華に対しては先んじて宣言する必要があるのだ。


 如月はまた嫉妬したことを伝えたように彼女へ思いを告げた。


「僕はこのダンジョンで生活するのが永遠じゃないって、いつか終わるって分かってたんだ。それもスパッと終わるんじゃなくて、緩やかに消えていくと」

「なのに僕は昨日までを何となく生きてきた。僕はいつの間にかこのまま終わっていいんだと……心のどこかで思ってたんです」

「そこに……スイカさんが現れた。まだ生きていたいと思える理由が出来て、ようやく決心したんです。このを終わらせたい、と」



 そう告げると彼女はふふっ、とうっすらと笑い如月のドローンを指で突く。



「なら、今すぐ……配信しよう?」

「はい! あ、でも昼は水華さんの枠だけで配信するんでしたよね?」

「……ぷっ、あははっ! そう、そうだったよね!」



 と、思ったら今度は豪快に笑う水華に如月は困惑し、何故笑うのかと聞き返した。


 「ごめんごめん、気付いてないんだなって思うと急に面白くなっちゃって。ところで、今が何時だか知ってる?」


 今が何時なのか、それを知るにはこの全能ドローンで調べたら一瞬だ。

 滑らかなタッチで指を動かし画面を表示し、如月は驚愕する。



 2024年4月22日、時刻は23時を過ぎていた。



「あの……僕達が森の中で話してから丸一日経ってませんか」

「そうだね。私がZに投稿したのは昨日だし、配信も私一人だけでおこなったよ」


 また一歩遠ざかっていく悔しさだけでなく、先程の宣言が水華視点ではどれだけ滑稽な様子に見えたのか、それを想像してしまいさらに顔が赤くなっていく。



「大丈夫だって! 私を超えようとキズラキ君がするなら、そうだなぁ……私も君が立派な配信者になれるまで支えるよ! お互い配信者として生きていけるようにね」



 ただそれでも、水華はこちらの目を見て優しくフォローを返してくれた。


(配信者として生きる……)


 彼女が言い放った言葉は如月にとって希望の光のようなものだった。


 そして、彼女が無言のまま差し出してきた手を握り返し、お互いに手を握りあったまま見つめ合う。



「……そろそろ配信してもいいですか」



 恐らくその状態は3分も続き、終わる気配もないので慌てて如月の方から切り出した。

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