第8話 続・練習 (9話「好き」は非公開)

「圭吾さあ、今泉に頼んでよ。チケット!」

「チケット?」

 俺を“圭吾”と呼んだのは、因幡鈴だ。なぜか修学旅行の後から俺を名前で呼んでくる、二人のうち一人。

「今泉のバンド、今度解散ライブやるんだって!そのチケット、ぜーんぜん手に入らないらしいよ?」

「そんなに人気なんだ?」

「うん。最近、今泉が彼女と別れたから、我こそはって女が群がってソールドアウト!」

「ん?じゃあ、因幡さんも我こそは、ってこと?」

「違うよ、私は単なるファン!ね、一緒に行こ!」

「え?!俺?!」

 因幡鈴は頷いた。ファン?そんなに好きそうな感じ、しなかったけど。

 それより…今泉、彼女と別れたんだ。だから最近、俺と遊んでだんだろうか?そんな話、何もしてなかった…。

「サイクロンていうライブハウスなんだけどね、女の子一人じゃ、危ないでしょ?ね、一緒に行こ!」

「でも、そんなにチケット取れないなら難しいよ…。」

 念の為聞いてみる。そう言ってその場は終わった。俺も、今泉の解散ライブが気になった。バンドが解散するから、俺をバンドに誘ったのだろうか?それに…。


 今泉がギターケースを背負っていない日、俺は今泉の家で、ギターの練習をするようになっていた。ギターの練習は、相変わらず、背中から抱きしめられる形で行われている。

 だいたい途中でキスの練習も始まってしまうのだが“キスの練習”はどんどん高度になっていった。長いキスのあと、ハアハアと息継ぎしていると、胸を弄られる。制服のシャツをズボンから引き抜かれ下から手を入れられると、隠れている部分の素肌をじかに触られた。手はすぐに乳首を見つけて、指で摘ままれる。俺は慌てて、今泉の手を握った。


「ま…まって。」

「なにを?」

 今泉はまた質問に質問で返して、首筋にキスをしながら、指の動きは止めない。首筋にも熱い息を掛けられて、胸も弄られて腰が甘くしびれた。これ以上はまずいことになる。


「や、やめよ…もう…。」

「なんで?」

「だって…」

 俺が涙目になって訴えると、今泉は俺を後ろからぎゅっと抱きしめて頬にちゅっとキスをした。


「今度、俺、ライブやるんだけど。」

「あ、因幡さんから聞いた。」

「そ…。来年高校三年で受験だから、解散ライブなんだ。それで、一曲だけ新曲作ろうと思ってて。」

「そうなんだ…。」

「曲はできたんだけど、なんかしっくりこなくて。」

「しっくりこない、って何が?」

「説得力がないっていうか…。」

「せっとくりょく…?」

「“抱きたい”って歌ってもさ、シタこともないやつが歌っても、歌詞に説得力がないじゃん?」

「うん?」

「だから、抱かせて。」

「え?」

「しよ、圭吾。」

「俺?!」

「うん、来週。」

「ら、来週?!」


 今泉はまた、とろけるような甘い笑顔で言った。

 イケメンはそういう顔しちゃダメなんだ…。だから俺はつい、うっかり頷いでしまったのだ。


 来週の土曜日は今泉の親が泊まりでいないらしい。というか、今泉の親は美容室を経営しているのだが、それが夜のお姉さんたちのヘアセットをする美容室らしく、基本的に帰宅は深夜のようだ。かき入れ時の金曜・土曜は泊まりになることも多いらしい。だから来週の土曜日に決行することになった。それに、今泉がいうことには、男同士でいたすには準備がいるらしいのだ…。

 その準備のこともあって来週になった。今泉は「いつも通りくれば大丈夫、いっしょにするから」と言っていたが、なんだか俺は嫌な予感がした。

 一体全体どんな準備なのか…気になりすぎて検索してしまった。“男同士”、の“準備”を。

 

 そしてそれを知って驚愕。

 そんなこと「いっしょにする」って…?!

 恥ずかしくて、耐えられない!いやそれを言ったらそもそも男の俺が、今泉に抱かれること自体が無理がある…!


 実際目にしたら、無理ってなるかもしれない。それを考えるとちょっと泣きそうになった。

 だから俺は、事前準備は自分で済ませることにした。現代日本では、必要なものはネットでぽちっとすれば翌日届く。親に見つからないかドキドキしながら、俺はその道具を入手した。

 そして当日万全の準備をして迎えた。


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