20.自ら掴む経験値。

「へぇ~……」


 やっぱり思う。


 意地でも黙っていればよかった。


 いくらメインが千草ちぐさとは言えども、俺にも関係がないわけでは無いイベントだ。ラピスの耳に入れておいた方がいいんじゃないか。その方が、神様の使いとしての任務を遂行しやすいだろうしなんて殊勝なことを考えていた十数分前の自分を思い切りひっぱたきたい。馬鹿!蒼汰そうたさんの馬鹿!どうして貴方はいつもそうなの!そうやっていつもいばらの道を歩むのね!


「で、で、どうなんですか?蒼汰さんとしては。やっぱり、幼馴染は幼馴染ですか?それとも、今日のイベントをきっかけに“女”に見えちゃったりしましたか?ねえねえ?」


 口元を抑え、にやつきながら、隣から肘で俺をぐりぐりと攻撃しながら俺をからかうラピス。お前、ホントに神の使いだよな?俺をおちょくって遊ぶ悪魔かなんかじゃないよな?エクソシストかなんか呼んだ方がいいとかないよな?


 ため息。


「はぁ……確かにあいつは綺麗だよ。それは認める。キスを迫られるのだって、そんなに悪い気分はしなかった」


「ほうほう」


「でも、それだけだ。それ以上じゃない。それに、もし俺がその気だったとしても、あいつにその気が無いんじゃ話にならないだろ」


 ラピスはやや素に戻り、


「ああ……えっと、今も彼氏がいるんでしたっけ?」


「そう。しかも、俺が覚えてる限りだと、この後もとっかえひっかえだ」


「とっかえひっかえですか」


「そ、とっかえひっかえ。比喩でもなんでもなく。そんだけ新しい男に乗り換えておきながら、俺に対してアプローチもしないやつだぞ?」


「でも、今日はしましたよね、アプローチ」


「それ、は……」


 そう。


 そこなのだ。


 異常事態といっていい。


 俺からすれば、朝風千草という存在は、正真正銘幼馴染以外の何物でもない。


 顔は整ってる。スタイルだって、決して悪くはない。なんだったら、富士川ふじかわも連れて三人でプールに行った時には、想像以上を記録した奴の水着姿に一瞬見とれたことだってあるし、それをからかわれたのもまた事実だ。


 でも、そこまでだ。それが俺たちの関係性。そこから踏み込むなんてことは、考えない。あいつもそう、だと思っていた。


 けど、


「もしかして、朝風さんは待ってるのかもしれないですよ?」


「あん?何を」


「アプローチをしてくれるのを」


「そんな馬鹿な。あの朝風千草だぞ。欲しい物があれば、なんとしてでも自分の力でつかみ取る女だぞ?ずっと一緒にいる幼馴染に対してアプローチ待ちなんてことあるか?」


「さあ?」


「さあって……また無責任な」


「仕方ないですよ。私に出来るはあくまでサポートですから」


「ずっと不思議に思ってたんだけどさ。なんでそんな大雑把っていうか曖昧なんだ?俺がこうやってリセットを食らってるってことは、過去に間違いとなるような選択をしてきたからだろ?なら、正解を教えればそれで解決じゃないのか?」


 それを聞いたラピスはじっ……と、俺のことを見つめ、


「蒼汰さんはアレですか?クイズ番組とかでも、分からないとすぐに答えを知りたくなっちゃう質ですか?」


「そんなことはない、と思う。思うけど、それとこれとは話が別だろ」


 そう。


 今俺が聞こうとしているのは、バラエティの特番で余興として行われている。何の益も害も無いクイズの答えではない。既に一度リセットがかかり、「青春が欠乏している」などという全くもって意味不明の理由でやり直しをさせられている俺の人生がスムーズに行くための情報収集だ。


 俺だけではない。何度も何度もやり直しとなれば、当然ラピスにだって負担が行く。神様やその使いに時間外労働みたいな概念が存在しているのかは分からないが、なんだってスムーズに行った方がいいはずだ。


 と、思っていたのだが、


「えっとですね……蒼汰さん。人間……いや、人類は一体何のために生まれてくると思いますか?」


「なんだそれ。それ、今の話と関係があるのか?」


「あります」


 断言するラピス。その表情は先ほどまで未成年が飲んではいけないジュースみたいな飲み物を飲みまくってはご機嫌になっていたのと同一人物とは思えなかった。あ、神様の使いだから、同一人物ってのはおかしいか。なんて数えるんだっけ、神様。一柱、二柱、だっけ?


 そんな些末なことを考える俺にラピスは、


「この世界において、人類というより、あらゆる生命体が誕生する理由、それは「魂としての学びを得るため」です」


「学びって……具体的には何をするんだよ」


「それは人によって様々です。この地球上で生きとし生ける生命体は全て、魂の学びを得るために生命としての姿を得ます。最初はほんの微生物として、次に植物、動物と、段々と生まれ変わる生命体を変化させ、最後に行きつく人類としての一生で、人類としての学びを得るのです」


「学びは分かった。いや、分かっては無いんだけど、取り合えず情報としては受け取った。けど、それと千草がどう繋がるんだ?」


「人類はこの地球上に、何らかの「課題」を持って生まれてきています。それをクリアすることで次の人生へと向かう。それが大まかな流れとなります。ただ、必ずしも、与えられた課題をクリアしきってから人生を終えるとは限らない。その場合は、死後、生まれ変わった先の人生で課題をクリアする場合と、もう一度人生をやり直して、課題をクリアする。基本的にはこの二つを経て、次のステップへと上がっていきます」


「なんだか現実味の無い話だが……俺はその後者ってことか」


「基本的には」


「なんだ基本的にはって」


 ラピスはやや視線を泳がせた後、


「蒼汰さんは人生をやり直す……リセットするパターンの中でもかなりのイレギュラーなんです」

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