第34話 眠れない夜と静寂の早朝。
スイートルームでの夜は寝られなかった。
(
風呂上がりの巡君は格好良かった。
以前見た半裸と違って体型がはっきりして。
だが、一点。目を背ける事が出来なかった。
直後、巡君は慌ててジャージを着た。
着た後は何事も無かったかのような態度で部屋の外に出てジュースを買ってきていた。
風呂上がりの水分補給と言って私にもリンゴジュースを買ってきてくれたのだ。
水分補給後は隣のベッドへと横になり寝息を立てている。私は寝られないのにね、いいな。
薄暗い中、巡君の寝顔を見ていると、
(なんだろう、身体が熱い・・・?)
風呂上がりを思い出したのか身体が熱を持ってしまった。今は顔も真っ赤だと思う。
(あ、あと、痺れて・・・ひぅ!)
そのうえ、例えようのない不可思議な感覚が肌の表面から脳に伝わってくる。ノーブラの胸とか巡君から丁寧に揉んでもらったお尻とか。
(な、なんなの、これぇ)
胸に触れると例えようのない刺激が伝わってきた。あまりに気持ち良すぎて思考が回らなくなった瞬間、私の意識は闇の底に沈んだ。
(眠気とは違う・・・あ、これ、ダメかも)
§
それに気づいた俺は興奮で寝られなかった。
その前から寝られなかったので寝たふりだ。
(こんなの寝られる訳がないだろう!?)
彼女となった恵が布団を蹴飛ばしてモゾモゾしているのだ。素数を数えても、恵の吐息と風呂上がりに見た素肌を思い出して頓挫した。
恵のモゾモゾはしばらくして止まった。
薄らと目を開けて見ると隣で寝転ぶ恵は呼吸こそあるみたいだがピクリとも動かなかった。
(もしかして、感じ易いのか?)
それが真っ先に浮かんだが、今のまま放置は風邪引くので、スーツケースからジャージの予備を取り出して横たわる恵に着せる事にした。
(まずは下半身から)
少しでも触れるとピクッと反応する恵。
(意識はなくても反応するって凄いな)
ズボンを穿かせ終えた俺は恵の上半身を起こして上着を着せようと思った。
だが、恵の下ろした髪がジャージに巻き込まれるので髪を左右で均等に分けてツインテールに結っていく。勿論、ゴム紐は緩めでな。
(ツインテールにすると幼く見える)
普段から頭の上で団子にしている所為か寝る時も髪を気にしていないように思える。
次は上着に腕を通していくのだが、
「んっ」
腕に触れただけで反応されてしまった。
これには理性が辛い事になりそうなので早急に終わらせようと思った。意識の無い女の子。
彼女といっても下手な事は出来ないからな。
(精神的に疲れた)
ジャージを着せ終えると布団をかけて自分のベッドに戻った。興奮よりも疲れが先にきて、
「眠っ」
横になっただけで眠気に襲われた俺だった。
§
翌朝、目覚めると大好きな匂いに包まれている事に気がついた。
(あれ? ゴワゴワする? 何が?)
目を開けると口元付近に黒い布が見えた。
身体を動かすと身体中のゴワゴワが増した。
疑問に思った私は布団を剥がし全身を見る。
そこにあったのは私の身体より大きなジャージだ。それが上下に存在していて暖かかった。
(これって・・・巡君の?)
まさか、寝ている隙に着せてくれたの?
(部屋の冷房が効いているから風邪対策で?)
巡君は隣で反対を向いて寝入っていた。
今は午前五時。いつもなら寝ている時間だ。
ベッドから出た私はダボダボのジャージを着たまま洗面所に向かおうとしたが、汚してしまうと悪いので、ベッドの前で脱いでいった。
(というか髪に違和感があるのだけど?)
両手を頭に伸ばすと、何故かツインテールだった。いつもは流して寝ているはずなのにね。
(これは巡君なりの配慮なの?)
それと何故だか汗だくにもなっていたので、ついでだからと髪を解いてシャワーを浴びた。
何故かパンツも汗で湿っていたので奇麗に洗ったのち乾かしていた下着の横に干した。
「冷房が効いているのに汗を掻いたのね」
Tシャツは湿っていないのに不思議だね。
「夕べは妙に火照っていたからかな?」
あの火照りだけは私も不可解だった。
私の身体が私の身体ではないみたいな。
不意に思い出して胸に触れるも変化は無かった。少し、先がピクッとなったくらいだ。
「あとで
あの子なら私の知らない何かを知ってそうだしね。夕べの経緯を語らないといけないけど。
シャワーを済ませると昨日使ったバスタオルで身体の水分を拭う。乾いた下着を身につけ、
「クマが出来てる。化粧で隠そうかな」
髪を乾かしたのちシニヨンに結っていく。
乾いた下着を回収したあとは下着姿のままベッドの隣に移動した。巡君は既に起きていて室内には居なかった。しかも私が脱ぎ捨てていたジャージもベッドの上から無くなっていた。
「お風呂の間に一階に下りたのかな?」
そうとしか考えられないよね。
本日の私服に着替えた私は巡君が戻ってくるまで持ってきていた教科書で予習を行った。
(公式が頭に入ってくる?)
早朝だから頭に入りやすいのかな?
そうとしか思えないよね、これ?
§
目覚めると午前六時だった。
隣で寝ていた恵は既に起きていて風呂場から水音が響いてきた。但し、恵に着せたジャージはベッド上に脱ぎ捨てられている。
「大きすぎたから、汚さないための配慮か?」
俺はベッドから出てジャージに触れる。
ジャージからは恵の匂いが漂ってきてクラッときた。このままだと身が保たないのでホテル内のコインランドリーに向かった俺であった。
別に汚いとかそういう意味ではないぞ。
「乾燥まで一時間弱か。朝食前には終わるか」
油断すると本気で恵を襲ってしまうので気を引き締めた俺であった。今はゴムも無いしな。
「おはようさん」
するとコインランドリーに
「おはよう、夕兄」
顔色は悪くないがお疲れ気味のようだ。
「元気な渚と遊んでいたのか?」
「ああ。元気過ぎて、三時まで続いたぞ」
「おぅ。それはまた・・・」
三時まで惨事が続いたのか。
渚の絶倫、恐るべしだわ。
夕兄は洗濯ネットに入れた制服を放り込む。
洗濯ネットとか何処にあったんだか?
「巡も洗濯か?」
「まぁな」
夕兄は洗濯機を動かすと隣に座る。
「恵ちゃんと頑張ったのか?」
「どうだろうな」
「なんだ、その反応?」
なんだって言われてもな。
俺はぐるぐる回る洗濯機を眺めつつ呟く。
「俺が頑張った」
「はい?」
「耐え抜いたと言っていい」
「耐え抜いた?」
「恵が隣でおっぱじめてな」
「・・・」
夕兄は絶句した。
「最後は一人で気絶した」
「おぅ」
あれは戸惑いつつも触れていった感じだ。
つまり、自分の変化に気づいていないと。
眠っているのに身体は正直だったしな。
「変なところで純情だから、恵って」
「ま、まさかとは思うが?」
「ああ、夕兄の考えた通りだろ」
「そ、そうか」
昨晩が初めてなのだろう。
それが何が、とは言わないが。
そんな子を襲えるわけないよな。
恐怖心など植え付けたくないし。
「まるで渚の最初を見ているかのようだ」
「見たのかよ?」
「ああ、あれは幼稚園」
「そ、そんなに前からかよ」
「俺だって戸惑ったぞ。親父の木刀」
「それ以上は言わないでくれ」
「なんでだよ?」
「渚に殺されるから」
「ああ、そうだな」
俺ではなく夕兄がな。
他人に話すなくらいは言うだろう。
渚は剣術部に所属している恐ろしい従妹だ。
滅多打ちだけでは済まない可能性が高い。
洗濯機はぐるぐる回る。
その物音だけが響き渡る。
沈黙の空気を打ち破るのは、
「乾いたみたいだな」
洗濯機の乾燥終了音だった。
ほかほかのジャージ。
ジャージを畳む俺は夕兄に宣言する。
「俺達は俺達の速度で育てていくよ」
「そうか。ま、そうだろうな」
「今は高一だ。焦っても仕方ないしな」
「そうだな。ただ、あれだけ可愛い子だから」
「身体を狙われるって言いたいんだろ?」
「世の中、寝取りを好む野郎も居るから」
居るだろうな。
未だに別れさせたいとする者も居るし。
例の事案は片付いたのに勘違い野郎が残っているのは確かだ。そんなに大金が欲しければ働けって言いたくなるがな。
「渚に関しては強すぎるから大丈夫だろうが」
「夕兄、恵も強いと言えば強いぞ?」
「そうなのか?」
「嗜みとか言っているが段位は俺と同じだよ」
「それはまた」
「寝技が得意だから色々と恐いしな」
「おぅ」
それでも女子なので心の強さは先輩達と大差ないだろう。恐怖に染められたら手も足も出ないはずだから。だからこそ俺が守らないとな。
ともあれ、ジャージを畳み終えた俺は時計を眺めつつ騒がしいフロント前に意識を割いた。
「さて、朝食が始まるから戻るわ」
「そうだな。俺も戻ってあとで取りに来るか」
「でも、渚の服がないだろ?」
「あっ」
「乾燥が終わるまで待つしかないよな?」
「そ、そうだな。制服プレイはやめとこ」
「昼休憩で洋服でも買ってやればいいさ」
「ああ、そうだな」
俺も恵と近くのデパートに行くか。
ラーメン屋の支店はデパートにもあるしな。
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