第25話 心からの感謝と不快な心。
客間に戻った私は昨年の水着をスーツケースから取り出した。
大きさは胸以外は変化無しだけどね。
「改めてムダ毛処理が不要で助かるよ」
単に遺伝的に生えないだけだけど。
「どちらの遺伝なんだか。先輩も薄かったから
今のところ下野君と義兄だけしか魅せていないので忘れようと思った私である。
着替え終えた私は日焼け止めだけ塗って、
「檸檬先輩はスクール水着か。先輩と
ウッドデッキに戻ると下野君が呟いていたので問うてみた。
「先輩がどうかしたの?」
「おう。着替えてき・・・」
下野君は振り返りつつ固まった。
「た?」
「なに? どしたの?」
えっと、この反応はなんなの?
「いや、似合っているなって。可愛いぞ」
「あ、ありがとう」
私の水着姿に見惚れていたのね。
私はプール前で屈み、両手で掬って足から順に水を浴びていく。
「冷たい。でも、気持ちいい」
温いと思ったけど冷たかった。
おそらくこれもウッドデッキ上にある屋根が日差しを遮っているからだろう。
それでも薄らと日差しを通しているので日焼け止めを塗っていて正解だった。背中だけは塗ることが出来なかったから気をつけないとね。
下野君は私が微笑むと苦笑しつつ踵を返す。
「そうか。飲み物も用意してくるから寛いでいてくれ」
飲み物と言うから、キッチンに向かうつもりだろう。私は移動中の下野君にお礼を言った。
「ありがとう。
「その感謝、受け取っておく」
「うん!」
私は下野君の心配りに心から嬉しかった。
様々な変化で私の心は疲弊していたから今回の気晴らしを用意してくれた事が嬉しかった。
(水着を見て、可愛いと褒めてくれたよね)
胸とかお尻に視線が刺さらなかったし。
純粋に私の水着姿に見惚れていたようだ。
私の身体の部品ではなく総体としてね。
すると門扉の開く音が響いてきた。
「「おじゃましまーす!」」
そこに居たのは白いハイレグを着た先輩とスクール水着を着た
(えっと、その格好は何なの?)
というか水着を着たまま歩いてきたの?
道路を渡って? 一枚脱げば裸だよ?
私は混乱したままウッドデッキに腰をかける先輩達に声をかけた。
「せ、先輩!? なんで、ここに?」
「私の家から丸見えだったからね!」
「ああ、そういえば」
先輩の部屋から丸見えだったね。
すると檸檬先輩が、
「というか下宿してるって本当だったのね。
一緒に住んでいる事を問うてきた。
なので私は檸檬先輩の妹の名を出した。
「あ、はい。えっと、
「黙っておいてあげるわよ。あの子、口が軽いから、ワーワー言って盛り上げてしまうし」
「ありがとうございます。檸檬先輩」
美柑はすっごい口が軽いからね。
姉から見ても口が軽いと言われる始末だ。
それでも徹底した念押しをすると黙るから噂を拡げて良い事と悪い事の区別は付くらしい。
というか、
(檸檬先輩の水着、結構不味いよね?)
パツパツというか胸周りと背中、肩と脚の付け根にこれでもかってほど肉が出てきていた。
無理矢理着たような肉感だよ。
(ビリって音が響いたんだけど)
何処から響いた音なのか分からないけど。
檸檬先輩は私の頭を優しく撫でつつ、
「気にしないの。あ、あと、これも妃菜から聞いたのだけど、恵ちゃんのお父さんって私と」
問いかけてきた。
それは偶然なのか一致していたのだ。
「あ、はい。名字が一緒でしたね」
すると檸檬先輩が複雑そうな表情で語った。
「私も聞いて驚いたけどね。どうも恵ちゃんのお父さん、私の亡くなった伯父さんだったの」
「「「はい?」」」
え? な、何なの? 伯父、さん?
私だけでなく先輩と下野君もきょとんだ。
「お母さんが妃菜の叔母、お父さんが私の伯父って凄い偶然もあるわよね」
檸檬先輩も従姉なの?
そうなると美柑も従妹になるの?
(えっと、どう反応したらいいか分からない)
私の混乱は過去最高になったと思う。
思考停止を選びたくなる程にね。
「そのことを父さんに教えたら爺さんが会いたいって言っていたわ。孫が増えたって言って」
「そ、そうなんですか」
「色々あったけど後悔してるって」
「そうですか」
それを私に言われても困るかな。
母さんの許可が出れば会えると思うけど。
私の戸籍が
(もう、考えたくないかも)
そう、思えるくらい一杯一杯だった。
すると下野君が空気を読んだのか、
「それよりも、檸檬先輩。困ってませんか?」
檸檬先輩に問いかけていた。
これって話題そらしかな?
私が困っているから?
檸檬先輩はバツの悪そうな表情で答えた。
「こ、困ってるって、何が?」
「セクハラって言いません?」
「うっ・・・し、仕方ないわね」
「水着がパツパツ過ぎて破れそうですね。バスタオル使います?」
ああ、下野君も気づいていたのね。
このままだと檸檬先輩が素肌を晒してしまうから。ビリビリって小さい音も響いているし。
「使う! さっき、ビリって聞こえたから」
檸檬先輩は下野君が右手に持つバスタオルを奪い取って拡げたのち身体に巻いていた。
巻き終わった途端に大きな音が響いた。
「あっ! 間一髪だったぁ。良かったぁ」
檸檬先輩の足許には布きれが落ちていて何処の布が破けたのか判明した。水着が弾けた?
直後、先輩が舌打ちした。
「惜しい。あと少しで裸でプールだったのに」
「ちょ! 妃菜、アンタねぇ、わざとなの?」
「うん。それね、私の一年の時の水着だから」
「なっ! 叔母さんの水着じゃなかったの?」
「叔母からね。思い出の品を使わないでって注意されてね。仕方なく私の水着とすり替えた」
「道理で見覚えのあるスク水だと思ったわ。今年から競泳水着に変わったから忘れてたけど」
えっと、最初から晒すつもりだったの?
檸檬先輩の裸を下野君の前で?
先輩は微笑みながら檸檬先輩を揶揄った。
「良い思い出にはなったでしょ?」
「恥ずかしい思い出だけどね!」
「まだいいわよ。私と恵ちゃんなんて」
「「先輩!」」
揶揄うのはいいけどそれは言ったらダメ!
私と下野君の声は重なり、先輩の正面に居た下野君は先輩の口を両手で塞いだ。
「ふぁふぁふぁふぉふぃふぁふぇふぁふぁら」
それでも口にしてしまい、
「お昼抜きがいいですか?」
「ふぉふぇんふぁふぁい!」
下野君の説教があったにも関わらずバレたのだった。
「ごめん。何となく分かったわ」
「は、恥ずかしい」
水着と同じくらい顔も身体も真っ赤だよ。
そんな騒がしい気晴らしの中、私達は下野君の作ったサンドウィッチを頂いた。
「美味しいわね。料理上手?」
「ええ、生ハムの塩気が美味だわ」
「卵とマヨネーズが美味しいね!」
「それは良かった」
私が水浴びしてる最中に作ったと聞いたから手際が良いどころの話ではないね。それこそ事前に作っていたとしても不思議ではないよ。
思いつきで即行動って驚きだよね。
「下野君って超優良物件ね。料理上手とか」
「恵ちゃんのお相手は最高よね」
「私達の水着姿を見てもやらしい視線を向けないし。絶対、ゴールインまで突き進んでね!」
「「・・・」」
やらしい視線については同意だけど、ゴールインとか言われると反応に困るのだけど。
下野君も反応に困ったのか呆れているし。
食後、檸檬先輩がブルっと震えて私に耳打ちしてきた。
「借りていいかしら?」
「ああ、そうですね。案内します」
私は檸檬先輩の水気を拭ったのち家の中へと連れていった。下野君も気にしていないのか離れていく私と檸檬先輩に視線を向けなかった。
「先に脱衣所に行ってもらっていいですか?」
「脱衣所?」
「多分、弾けています」
「ああ、そうね。そこで裸になるしかないと」
脱衣所に着くと弾け飛んだ水着の欠片がバスタオルに付いていた。残ったのは股間だけだ。
檸檬先輩のおっぱいは大きかった。
この時の私は将来的な希望が持てた。
美柑のおっぱいも大きいしね。
「新たに巻いて向かいましょうか」
「そ、そうね」
檸檬先輩がトイレに入っている間、
「美柑に水着、頼みましょうか?」
『え? でも、いいの?』
「一応、先輩の家に住んでいる事になっていますし、交際の件もあるので」
『ああ、多少はバレても問題ないと』
「そうなります。母も同居してますし」
『了解よ。お願い出来る?』
「では持ってきて貰いますね」
檸檬先輩を裸のままにするのは申し訳ないので美柑にメッセージを飛ばした私だった。
(旦那の家でプール!? って驚かなくても)
プールっていっても子供用だし。
そこに自分の姉と先輩が居ると知って、姉の水着を持って行くと返事があった。
「先輩、美柑が持ってくるって」
『助かったわ。ありがとう』
一応、美柑だけきてねと伝えたけど、オマケで
そうなったらそうなったで下野君に丸投げである。男子の相手は男子にお任せって事で。
しばらくすると美柑が下野君の家に訪れた。
「「来ちゃった」」
気のせいか一人多いけどね。
美柑に似通っていて少し小柄な女の子が。
「何で、
「お姉ちゃん達だけズルいと思ったから!」
「ズルいって」
その子に気づいた下野君は呆気にとられた様子でポンポンと頭を叩いていた。
「柚澄って先輩の妹かよ」
「そうですよ。巡先輩!」
えっと、これってどういう関係なの?
何故か心の奥底からモヤっとする不快な気持ちが芽生えた私だった。何なの、この気持ち?
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