Kentucky Home

紀 聡似

第1話 プロローグ (現在)

 僕は今、アメリカのケンタッキー州ルイビル近郊にあるチャーチルダウンズ競馬場に居る。


 今日はアメリカ競馬のビッグレース、ケンタッキーダービーが行われるとあって数万人の観客でそこらがあふれかえっている。


 でも僕はそんなことはどうでも良かった。


 ようやくこの地に来ることができたんだ。やっと彼女との約束の場所に来られたんだ。


 とにかく僕はチャーチルダウンズ競馬場のメインスタンド、この競馬場のシンボルでもあるツインスパイアーズへ向かった。レーストラックから向かって右側の尖塔へ。着飾った貴婦人がいれば、肌を大胆に露出している若人もいる。日本の競馬場とはやっぱり違うな。熱気と色んな香りをかぎ分けて、僕はその時だけ少し気分が上がっていた。


 しかし右側の尖塔へ歩み進めるにつれて、口の中が渇いていくような緊張感で胸が鼓動がどんどん早まっていく。外周にダートコースがあり、内側には緑が鮮やかな芝コース、広大なレーストラックが広がっていたが僕の目にはそんな光景は入って来なかった。


 ケンタッキーダービー当日の名物である「My Old Kentucky Home」の大合唱が始まる時間は、刻一刻と近づいていた。

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