第3話 たぶん死んじゃいますよ

 雪山のペンションのことだった。


「なんてこった……」宿泊客の一人、小太りの男が言う。「雪山のペンションに宿泊しに来たら、殺人事件が起きて、さらに警察にも連絡ができなくて、吹雪のせいで下山もできないとは……」


 殺人鬼がこのペンションの中にいるかもしれない。殺されるかもしれない。


 その恐怖がペンションの談話室を支配していた。


 そんな中、恋人である女性が小さく僕に耳打ちをした。


「俺は部屋に戻る!」その声はあまりにも小さくて、聞き取りづらかった。「ねぇ俺は部屋に戻る!……私たち、生きて帰れるのかな……」

「きっと大丈夫だよ」僕は彼女を元気づけるために、「こうやって全員が一箇所に固まっていれば、犯人だって手出しできないさ」


 ペンションにいる全員が、今は談話室に集まっている。


 この中に犯人がいても、動けないはずだ。動けば多勢に無勢である。


 こんなところにいられるか! 俺は部屋に戻るぜ!なんて死亡フラグを立てるやつがいないことを願うばかりである。


 その悪い予想は的中してしまった。


「俺は部屋に戻る……」小太りの男が小さく言った。「ここには殺人鬼がいるかも知れない……こんな部屋にいるより、自分の部屋で鍵をかけていたほうが安全だ」

「ダ、ダメですよ……」僕は思わず反論する。「こうやって一箇所に固まるのが最善です。なにかあれば僕が……」

「お前が犯人じゃないという保証もないだろう? 俺は部屋に戻る!」


 何も言えなかった。そうだ。僕が犯人じゃない証拠なんてない。恋人の証言なんて証拠にはならないだろう。


 僕だって容疑者の1人なのだ……

 

 結局僕は彼を止められなかった。鍵をかけて一人でいるほうが安心だという彼の意見を無視することはできなかった。


「だ、大丈夫さ……」オーナーが心配そうに。「1人くらい部屋に戻ったって状況は変わらない。他に部屋に戻るなんて言い出す人がいなければ大丈夫だよ。俺は部屋に戻る!」

「……そうよ俺は部屋に戻る!……」恋人も僕を励ましてくれる。「きっと大丈夫だって、さっき言ってくれたじゃない。私は俺は部屋に戻る!を信じるわ」

「……ありがとう……」


 本当にありがたい言葉だった。


 そうだ。弱気になってどうする。僕がこんな体たらくで、誰が彼女を守るんだ。


 必ず彼女を守り抜いて見せる。ここが踏ん張りどころだ、俺は部屋に戻る!!

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