36 星の竜の伝説
イヴが同行したいと粘ったりしたが、何とか説き伏せ、カケルは降下作戦を始めた。
作戦と言っても簡単で、グラスラが火を吹いてネムルートに穴を開け、竜になったクリストファーに乗って飛び降りるだけだ。
『穴が空いたぞ~』
クリストファーは竜に変身し、翼をたたんで後ろ向きに後退りする。グラスラの後ろから飛び降りるためだ。
「ホロウさん、反対しないんですね」
カケルは、ホロウとクリストファーがあっさりカケルの指示に従ったことに、疑問を抱いていた。
「確かに君のことはよく知らないし、敵のど真ん中に飛び込むなんて、無謀だと思うよ」
ホロウは問いに答えて言う。
「でも、ネムルートを破壊してしまうなんて……まだ、残っている人もいるかもしれないのに」
彼はカケルの目的に賛同したのではなく、ネムルート補給基地の破壊に反対だから、同行してくれるらしい。
「クリストファーは良いの?」
ふと気になり、竜の同級生クリストファーに話を振ってみる。
命懸けの危険な作戦に参加させているので、彼らがどう思っているか、知りたかった。
『細かいことは、分からん!』
「そうだよね……」
『だけど、ニーサちゃんの件は、お前との約束だからな。他の奴の言うことは聞かねえよ。それよりカケル、お前さ』
「うん?」
『生きて戻れよ。少なくとも、俺との約束を果たすまではな!』
敵だとか味方だとかに惑わされず、清々しいほど自分の目的に一直線な考え方だ。だけど、悪くない。
単純明快なクリストファーの答えに、カケルは笑った。
「それは責任重大だ」
翼を畳んだ竜は、空中に身を踊らせる。
自由落下の瞬間は、大丈夫だと分かっていても、肝が冷える。カケルはクリストファーの背中にしがみつき、思わず変身したくなる自分を抑えた。
クリストファーはすぐに翼を開き、風に乗る。
「あの枝に着陸して」
『言われなくても!』
グラスラの炎によって壁に穴が空き、ネムルート補給基地の内部が見えている。エファランと同じように白い巨木があり、竜が離着陸できそうだった。
クリストファーは、その枝めがけて、慎重に降下した。
特に
カケルは、ホロウと一緒に、枝に降りた。
枝から見下ろすと、戦火がくすぶる建物がいくつか並んでいる。ネムルートはエファランの縮図のような小さな村だった。竜の止まり木こそ大きいが、建物は数えるほどしかない。
「クリストファーは、ここで待っててくれるかな。ホロウさん、壁の開閉装置は、どこにありますか?」
「竜の止まり木の根元だよ」
カケルは『気を付けてなー』と言うクリストファーに手を振り、移動を開始する。
昇降機は壊れて無期限停止していたため、カケルとホロウは、竜の止まり木の枝を伝って地面に降りることになった。凹凸の少ない白い幹で足場を見つけるのは大変だった。
「うわぁっ」
「ホロウさん、大丈夫?!」
途中でホロウが落ちそうになって、カケルは慌てて彼を支えながら、最後の突起から飛び降りた。
無事に地面に降りたホロウは、へなへなと崩れ落ちる。
「死ぬかと思ったぁ……カケルくんは身軽だね」
「まあ、一応これでも竜なので」
竜になってから身体能力が上がっているため、小柄とはいえ成人男性のホロウを担いで飛び降りる事ができたのだ。
「……」
目の前には、戦火くすぶる崩壊した建物がある。
耳を澄ませても人の声や気配は無かった。
『……我の領域に踏みいる人間たちよ』
その時、抑揚の薄い子供の声が、どこからか聞こえてきた。
『星の竜の遣いたる我を恐れるならば、早々に立ち去るがいい』
カケルは竜の止まり木の振り返る。
止まり木の一番下の枝に、いつの間にか小さな竜がいた。
とても小さく両手で捕まえて握れそうな大きさだった。竜の鱗は純白で、滑らかでぬらぬら光っている。カケルはそれを見て、白餅みたいだと不謹慎にも考えた。
「星の竜?!」
ホロウが驚きの声をあげる。
しかし、カケルは首をかしげた。
「前から聞きたかったんですけど……星の竜って、何?」
「え?!」
知らないの?! という表情でホロウに見つめられ、カケルはふるふる首を横に振った。
「創世神話を知らない? 子供でも知ってるよ!」
「俺はエファラン生まれじゃないので」
「そうだった」
ホロウは呆れた顔をしていたが、カケルの言葉を聞いて納得し、説明を始めた。
「この星の始まりを知ってるかい? 何もない暗闇の中で、石がぶつかり合って団子みたいに大きくなり」
「微惑星が衝突しあって融合し、一つの惑星になったんですよね」
「?」
「続けて下さい」
たぶん子供向けの説明なのだろう、ホロウの説明に眉をしかめたカケルだったが、口を閉じて続きを促す。それにしても、この世界の初等教育はどうなってるのだろう。カケルがエファランにやってきた時は年齢が高かったので、エファランで生まれ育った子供と同じ教育は受けていない。
「石がぶつかったら火花が散るだろう。この星の始まりは、火の海だった。大地は炎に覆われて生物はいない……そこに、一頭の竜が墜ちてきた」
「!!」
「その竜の血液が火の海を鎮め、水を作った。その水から、生命は始まったんだ」
カケルは絶句した。
違う。これは自分の知っている星の始まりではない。それに神話と呼ぶには、あまりにも具体的過ぎる物語だ。
そして、辻褄が合いすぎる。
この世界に竜がいる理由が、説明できてしまうのだ。
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