24 脱出成功

 床を這うように調べて、一時間ほど。

 予想外に早く、それは見つかった。


「マジかよ……」

 

 違和感のある床を、オルタナの馬鹿力でひっぺがすと、下に機械の装置があった。蓋を開けると、スロットのように数字が並んでいる。

 オルタナは呆れている。


「本当に解除装置が内側にあるなんて、ここの連中は馬鹿じゃねえか」

「まあまあ。普通の犯罪者は、探そうとしないでしょ。これ、八桁の数字を入れれば良いのかな」

 

 簡単な仕組みだが、厄介でもある。パスコードが無いと解けない。人類は電子計算機コンピューターを発明してから、さまざまな装置を仮想化したが、仮想化すると侵入破壊ハッキングしやすくなるという欠点があった。

 一周回って、こういった物理キーの方が難しいのだ。


「……」

「当てずっぽうでいけるのか?」

 

 カケルは少しだけ考えた後、迷いなく手を動かし、流れるようにスロットを合わせて、八桁の数字を入力した。

 手を止めた後、カチッと部屋の中央で音が鳴る。


「……ビンゴ」

 

 透明な壁は、軽い音を立てて床に収納された。


「なんで分かったんだ?!」

 

 オルタナが驚いている。

 カケルは後ろ頭をかきながら、ネタばらしした。


「いや、来る途中の会議室の白板に、書いてあったよ」

「……あんの馬鹿野郎ども~~!」

 

 エファランの軍部が、知能犯にとっては隙だらけだと分かった。

 しかし、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 カケルとオルタナは急いで地上に戻った。

 廊下を駆ける間に、軍部の飛空部隊と思われる連中とすれ違ったが、彼らはカケル達に見向きもしない。執務室は慌ただしい様子で、どうやら別の対応に追われているようだ。


「あ! カケルくん!」

 

 路面列車に飛び乗って、イヴの住む北区に向かう。

 駅で降りると、ちょうどタルタルが現れた。


「探してたんだよ! 打ち上げの件で!」

「今はそれどころじゃねえ」

 

 打ち上げ打ち上げとうるさいタルタルを、オルタナが一喝いっかつする。


「イヴさんと同じことを言うんやね」

「イヴと会ったの?!」

「うん。彼女、アヤソフィアの方へ駆けてったよ」

 

 タルタルの示す先には、真っ暗な住宅街と、その中央に不気味に佇む大礼拝堂アヤソフィアがある。

 カケルは、巨大な建物を困惑して見上げた。


「俺アヤソフィアに入ったこと無いんだよね。部外者は立ち入り禁止じゃなかったっけ」

「んなこと言ってる場合じゃねーだろ。行くぞ!」

「あ、オルト」

 

 オルタナはカケルの腕を掴んで走り出す。

 カケルは引きずられるように走りながら、聞いた。


「アヤソフィアって、王城だよね?」

「星の竜を祀る聖堂だろ」

「は? 星の竜?」

 

 エファランの中で、唯一、カケルが入ったことのない建物。

 ランドマーク的な威容を誇りながら、その由来について、誰にも聞いたことが無かった。

 星の竜? 俺が知ってる起源星アースの伝説に、そんな言葉は出てこない。いったい、この世界はどうなってるんだ。

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