有名になった途端に連絡を寄越してきた元カノを弄ぶ。直接手をくださない復讐劇

ALC

第1話直接手をくださない復讐劇

誰にも苦い経験というものはあるだろう。

そう。

俺にもあるし君にもある。

俺の場合は恋愛での出来事だった。

有名配信者を目指して夢ばかりを追っていた俺を元カノは馬鹿にして去っていった。

「もう大人なんだから夢ばっかり見るのはやめなよ。真っ当に生きていないとみっともないよ」

そんな言葉を残して彼女は俺の前から姿を消した。

あれは二十歳になった頃のことだ。

そこから五年が経過して俺は巷では有名な配信者へと成り上がっていた。

ある動画が若者の間でバズって世界中に拡散されていった。

俺は一日で有名配信者へと階段を登っていく。

その間に沢山のファンが付き収入も安定して俺の人生は昔とは遥かに変わっていった。

「久しぶり。別れた時に言った言葉は撤回するわ。立派になったんだね。今はフリーなの?動画でその様な発言を耳にしたけど…」

ある日、昼夜逆転した生活を送っている俺は夜に目を覚ますとスマホに表示されているその文言を目にする。

別れた元カノが俺の動画を知ったらしく唐突にチャットを送ってきたのだ。

「なんだこいつ…面倒くせぇ」

返事をするのも面倒で無視を決め込もうとも思ったのだが…。

そこで俺の悪意全開の心が首をもたげて顔を出した。

「今が復讐の時だぞ!馬鹿にしてきた奴らを見返す時だ!」

そんな言葉が脳内の隅っこの方で鳴り響いていた気がした。

だから俺は元カノに返事をすることにした。

「久しぶり。そんな昔のことは覚えてないから気にしないでいいよ。たしかに今はフリーだね。だけど…それがどうかしたの?」

全く相手の意図に気付いていないとでも言うように素知らぬ顔で返事をするとすぐに既読がついた。

「良かった。ずっと謝りたかったから。じゃあ昔みたいに過ごしたいんだけど…」

「ん?元サヤに戻りたいってこと?」

「うん。都合良いかな…」

その返事を目にして俺の中の狂気のようなものが顔を真赤にして怒気を隠そうともしなかった。

「確かに都合良いね。それにあの時とは俺も立場が違うから…簡単に恋人とか作れないんだよ」

「やっぱりそうだよね…。でも…友達としてなら相手してくれるかな?」

「まぁ…南がそれで良いのなら」

「良かった。それだけ聞くことが出来て…」

「そう。またそのうち連絡して。これから配信だから」

「うん。頑張ってね」

そこで連絡のやり取りを終えると俺は配信で元カノの話をすることになる。

だが…。

それはメンバーシップの限られたガチ恋勢たちにだけだった。

もちろん元カノである南翠みなみあおいがメンバーでないことは分かっている。

元カノのアイコンやハンドルネームを今でも覚えているからだ。

「皆に聞いてほしいことがあるんだけど…」

そんな話の切り出し方でメンバーの全員に今日の話を言って聞かせた。

「めっちゃ都合良いよな。ってかあんな振られ方したら復縁なんて考えないだろ…。どんな神経しているのか…図太いと言うか鋼鉄の心臓でもしているんか…」

呆れたような態度で過去の話も交えて話をしているとガチ恋勢の怒りに火が着いていった。

「やっちまおう!」

「麒麟児を傷つけた罪は深いぞ!」

「業の深い女だ!罪を償ってもらおう!」

「麒麟児。大丈夫だよ。私達がどうにかするからね?♡」

「ってか麒麟児と付き合っておいて理解のない振り方したなんて…マジで見る目無いだろ…」

麒麟児と言うハンドルネームで活動している俺のガチ恋勢はかなりの熱の入りっぷりで危うい発言までも飛び交っていた。

「皆。庇ってくれて…代わりに怒ってくれて嬉しいけど…メンシで話した内容は公開しないでね?俺達だけの秘密の話だよ?」

「分かってる。麒麟児には迷惑かけないから」

「安心して。私達がついているからね」

「私達に任せて。麒麟児は何もしないでいいからね。またチャットが届いたら報告してくれるだけでいいよ」

「さて。どんな方法で苦しめようか…」

「配信が終わったらメンバー限定のフリーチャットで相談な」

そんな俺のガチ恋勢達はやる気に満ち溢れていた。

麒麟児ことこの物語の主人公である深沢慎吾の直接手をくださない復讐劇は始まろうとしていた。

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