第6話 HP5と徘徊モンスター


 いくら【自動治癒(オートヒール)】があるとはいえ、HPが5のままというのはまずい。


 パーティーを組んだら迷惑をかける未来しか見えない。


「もう一回レベルを上げよう!」


 さらにスライム倒すこと二時間。

 毒針さばきも手慣れてくると、倒すまでの時間が短縮された。


 ――レベルアップ! 見習い聖女がレベル3になりました!


「やった! 今度こそHP上がって!」


――――――――――

名前:アイミ

職業:見習い聖女 Lv3

HP:5/5

MP:67/260(最大MP130アップ!)

腕力:1

体力:1

敏捷:1 

器用:5

魔力:90(25アップ!)

精神:40(10アップ!)

スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】

【小さな祝福Ⅰ】

ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】

称号:【無手の博愛者】

装備:初心の杖、初心のローブ

所持金:150G

――――――――――


「あああっ! やっぱり魔力と精神しか上がってない!」


 愛美はのHPバーとMPバーを見て衝撃を受けた。

 MPバーが大きすぎて、HPが満タンなのに瀕死にしか見えなかった。


(バランス悪すぎでしょ……。【自動治癒(オートヒール)】があるから死なないけどさ。いいもんね、このまま回復無双してやる)


 愛美は【自動治癒(オートヒール)】に可能性を感じていた。


 スライムのクリティカルヒットで死ななかったのは大きい。


(ん〜、HPバーが5、4、3、2、1って減っていくんだけど、0になる前に回復すれば、死なないっぽいね)


 RLO2のダメージはアクティブ減算方式を採用している。


 例えば、HP100で100ダメージを受けると、他のゲームなら即死だが、0になるまで0.001〜1秒ほどタイムラグがある。


 HPが0になる前に回復をかければ死なない。というものであった。


 この、アクティブ減算方式のおかげで奇跡を起こすプレイヤーもおり、攻略組は戦略にも組み込んでいた。


 ただし、戦闘中に一秒を争うタイミングでヒーラーは回復を入れなければならず、シビアなスキル技術が要求される。


 敵からのダメージが大きければ減算速度も上昇するので厄介だ。


 現在、自動回復するスキルは設置型タイプしかなく、モンスターは発見すると真っ先に破壊してくる。しかも回復速度が遅いため、回復でゴリ押しする運用は不可能だ。


 個別に自動回復ができ、しかも回復速度が早い【自動治癒(オートヒール)】はヒーラーが求めて止まないスキルだった。


(【自動治癒(オートヒール)】って勝手に回復して死なないから最強じゃない?)


 愛美は実験してみることにした。


 結構な時間が経っていたので、ログアウトして夕ご飯を祖父母と食べ、お風呂に入ってからログインする。


 スライム狩りはやめて、もう少し強い敵が出る草原の奥へと足を進めた。

 不人気なフィールドなのか他のプレイヤーがいない。

 周囲は夜になっていて、月明かりが足元を照らしていた。


 安心して実験ができる。


「それじゃあ、【自動治癒(オートヒール)】」


 杖をかかげると、愛美の身体が金色に輝く。


 しばらくすると光は微弱になった。

 草原の奥へ奥へと進んでいくと、狼のモンスターが出現した。


(ウルフか。怖いワンちゃんって感じだね。よし)


「さあ、腕に噛みつきなさいな。ちょっと怖いけど」


 愛美が左腕を突き出すと、ウルフが思いのほか素早い動きで飛びかかってきて腕に噛み付いてきた。軽くつままれたようなぴりっとした痛みがした。


 ――12ダメージ


「……ッ」


 ダメージ量の多さに変な声が出そうになった。


 死んじゃうかも。


 HPバーがスライムのクリティカル5ダメージよりも速い減算速度で減っていくが、【自動治癒(オートヒール)】がHPバーを押し返すようにして満タンにした。


「よし! 死なない!」


 ウルフに腕を噛みつかせたまま、愛美がうなずく。


 ――11ダメージ


 ウルフがぐっと顎に力を入れたのか、またダメージが入る。


 HPバーが一気に減り、【自動治癒(オートヒール)】が0になる前に押し返した。


「わははは〜、無敵〜! 無敵〜!」


 ぶんぶんと腕にぶら下がるウルフを振り回して愛美は飛び跳ねた。


 シバイッヌにデスり、植木鉢と馬車で事故ってデスったのは、なんだかんだ結構ストレスだった。


 モンスターと対峙できるだけで楽しい。


 ――13ダメージ


「あ、これなら毒針で倒せるんじゃない?」


 愛美はウルフに噛みつかせたまま、抱きかかえるようにして座り込み、ぷすぷすと毒針を刺しまくった。


「えいえいえいえいえいえい」


 1ダメージの表記が大量にポップし、ウルフが悲しげな声を上げて光の粒子になった。


「やった! これならレベル上げできる!」


 草原を歩いてウルフを発見しては、肉を切らせて骨を断つ【自動治癒(オートヒール)】作戦で倒していく。


「スライムもこうすればよかった」


 最大で三匹のウルフを相手にしても、【自動治癒(オートヒール)】の回復速度が減算速度を上回っていた。


 ――レベルアップ! 見習い聖女がレベル4になりました!

 ――新しいスキル【レスト】を覚えました!


――――――――――

名前:アイミ

職業:見習い聖女 Lv4

HP:5/5

MP:47/430(最大MP170アップ!)

腕力:1

体力:1

敏捷:1 

器用:5

魔力:115(25アップ!)

精神:50(10アップ!)

スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】【レスト】New!

【小さな祝福Ⅰ】

ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】

称号:【無手の博愛者】

装備:初心の杖、初心のローブ

所持金:150G

――――――――――


 【レスト/状態異常を治す、または軽減する。味方の状態により効果が変動】


 新しいスキルは毒や混乱を治す、ヒーラーらしいスキルだった。


 魔力と精神しか上がらないのは予定調和だったので、まあ仕方ないかと前向きに考える。


 愛美は魔法の効果を確認して笑顔になった。


「聖女っぽいスキルだね。こうなると味方がほしいよなぁ」


 見習い聖女が地雷職だとまだ知らない。


(そろそろ街に帰ろっかな)


 区切りがいいので巨大都市ホープシティへ帰ろうとすると、ひやりとした空気が足元に流れてきて、周囲に霧が立ち込めた。


「なんだろ……?」


 立ち止まって周囲を見回すと、ログが流れてきた。


 ――徘徊モンスター出現! 流浪のスケルトン


 立ち込めた霧の向こうから、剣を装備した骸骨剣士のスケルトンが無機質な音を響かせてゆっくりと歩いてくる。目元は空洞になっており、その中で濃い紫色の不気味な光が炯々と輝いていた。


(凄く強そう……)


 愛美は杖を握りしめ、流浪のスケルトンと対峙した。



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