キミの隣が好き

一章 絶交中の幼馴染

第1話 告白現場

「水都（みなと）くん、好きです。私と付き合ってください！」

「無理」

「なんでっ⁉︎　その理由は⁉︎」

「好きじゃない」

「なっ⁉︎　そ、そんなの、付き合ってみないとわからないじゃない！！　お試しでいいから、私と付き合ってよ。絶対に楽しいから。好きだって思うから！！」

「無理」

「無理なことなんて……。ねぇ、もしかして、好きな人いるの？」

「…………」

　わたしは今、告白現場に遭遇している。驚きのあまり絶叫したい衝動を、必死に抑えている。

　放課後。バイトの時間までの暇つぶしとして、図書室で雑誌を読んでいた。そろそろ時間だと腰を上げ……そういえば喉が乾いたぞ。ということで、購買部の前にある自販機コーナーに立ち寄ることにした。

　わたしの家は貧乏。けれど昨日バイト代が入ったので、今日は豪華にぶどうジュースを飲むぞ！　なんて、ウキウキ気分で自販機に向かった。人様の告白を盗み聞きする気なんてまったくなかった。

　自販機のところに来てみれば、美男美女の告白現場に遭遇。予想もしていなかった展開に、自分が告白されているかのように緊張してしまう。

　わたしは自販機の真横に隠れながら、スマホを打った。声が出せないなら、SNSで叫ぶしかない！

【ゆり＠yurarinko・1分前

　ドラマみたいな展開。告白現場に遭遇しています！！！！！】

【ゆり＠yurarinko・30秒前

　あ。告白はわたしじゃないよ。学年一の美男美女！　絵になる二人！！】

　この美男美女を、わたしは知っている。どちらも同じ一年生だから。

　告白をしているのは、一年三組の女子。名前は高梨（たかなし）ひな。彼女は、アイドルグループに入れそうなほどに可愛い。他クラスの生徒に疎いわたしでも、高梨ひなのことは知っている。

　告白されているのは、わたしと同じ、一年一組の男子。名前は由良（ゆら）水都（みなと）。

　わたしは自販機からこっそりと顔を出すと、二人の様子を窺った。

　廊下の突き当たりにいる二人。背景となっている窓の向こうにあるのは、ゴミ捨て場。

　アイドル並に可愛い女子と、無愛想なのでアイドル向きではないがイケメンな男子。

　ドラマや映画に出てくるような見た目のいい二人なのに、背景がゴミ捨て場だなんて残念すぎる。

　またスマホを打つ。

　わたしが利用しているSNSの名前は、【つぶやきランド】。略して【つぶラン】

　気軽につぶやくことができるサイトだ。

【ゆり＠yurarinko・30秒前

　告白場所が残念すぎる。屋上がいいと思うんだよね。あ、ダメだ。鍵がかかっている】

　感情の豊かな声で押しまくる、高梨ひな。

「三ヶ月。ねっ、とりあえず、三ヶ月でいいから付き合って！　絶対に楽しいから！！」

「やだ」

「即答すぎない⁉︎　ちゃんと考えて！」

「……考えた。やっぱりやだ」

「なんでどうして！！　私のどこが気に入らないわけ⁉︎」

「他の男と好き合えば？」

「私は水都くんが好きなの！　水都くんよりも、かっこいい男子なんていないし！！」

　それまでの水都は、渋々答えているといった口調だった。それが、不機嫌に変わった。

「かっこいいって、どこらへんが？」

　高梨ひなは鈍感ではないらしい。水都が怒っていることに気づいて、慌てて言葉を付け加えた。

「クールなところがかっこいい！　なにを考えているのかわからないミステリアスなところも素敵だし、男子とつるまないで一人でいるのもいいなって思う。私もね、顔がいいから、水都くんの気持ちわかるよ。可愛いって言われると、この人上部だけしか見ていないんだって、がっかりするもん」

　水都は黙り込んでいる。怒りの圧を感じたのか、高梨ひなは早口になった。

「でもね私！　顔だけで好きになったんじゃない。そこは誤解しないで。水都くんの全部が好きなの。そ、それよりも、好きな人がいるなら教えてよ。名前を言いたくないなら、いるかいないかだけでもいいし！」

　盗み聞きはよくないって、わかっている。けれど、足が一ミリも動かない。だって、わたしも聞きたい。

　——水都（みなと）の好きな人って、誰？

　スマホを握りしめる。

　いないって言って。

　……SNSでそうつぶやこうとして、止めた。わたしにそんなことを言う権利なんて、ない。