転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す

キサラギトシ

第一章 転生ポメラニアン誕生

1 吾輩

 吾輩はポメラニアンである。名前はまだない。

 どこで生まれたかとんと見当がつかぬ、わけでもない。どうやら茨城県の水戸近辺のブリーダーの元で生まれ、普通にペットショップで売られ、今日この家にやってきた。ちなみに性別はまぎれもないオスである。


 毛の色は白だが、背中に少しクリーム色が混じっているようである。

 以前自分の姿を鏡で見た時、一瞬自分の毛の色は全身真っ白だと思ったのだが、よくよく見てみると、なんだか少しだけクリームが混じっていると気づいた。

 とりあえずは白のポメラニアン、オスということで覚えてもらおう。


 吾輩自体の記憶は若干おぼろげだが、多分生後3ヶ月といったところか。

 まだ毛はそれほど長くなく、毛質も柔らかい。

 現に飼い主の家にやってきた時、飼い主の息子とおぼしき小学校低学年ぐらいのおかっぱの男の子に「うわっ、毛ふわふわ!やわらかい!」って背中を撫でながら言われたことを思い出す。


 ちなみに飼い主には昨日、吾輩が売られていたペットショップで現金一括購入された。

 ちなみにお値段は19万8000円。犬を飼ったことがない人は「高い!」と思うかもしれないが、吾輩は血統書付きだし、ケージと首輪、そしてリード紐をショップでサービスされていたので、まあまあお得な値段設定かなと思う。

 なにせ令和の世では、高いポメラニアン(白・子犬)は人気犬種で、一匹100万円することもあるらしいのだ。それはそれでボッタクリすぎだろと思うが。


 いま、吾輩のケージの前には4つの人間の顔が並んでいる。

 自分を連れてきたご主人様。その奥様らしき人。息子らしきおかっぱ。その姉と思われる制服姿の女の子。

 どうやらこの4人が吾輩のパートナーというか、家族になるようだ。


「名前は何にするの、パパ?」

 おかっぱの男の子が言った。


「うーん、まだ迷ってるんだよなー」

「白くてふわっふわだから、フワちゃんがいい!」

「いや、その名前はパパなんだか嫌だな。明日までに決めとくよ」

「ねえパパ、私はリリーがいいと思うんだけど」

「それは俺の実家の、死んじゃった犬の名前じゃん。同じ名前はやめようよ」

「えー?リリーかわいかったのにー」

「でもさ、私も小さい頃飼っていたポチって名前だったら嫌だよ」


 奥様、ポチって名前の犬飼ってたのですか?名前がベタすぎて笑えるんですけど。


 でも、家族はみんな笑顔だし、第一優しそうだ。

 ケージの周りを見渡す限り、裕福なお金持ちではなさそうだ。だが運んでこられた時の車はBMWだったし、家の場所はよくわからないけど、多分都内だ。少なくとも中流ぐらいの家庭だろう。

 子供も二人いるし、犬を飼う余裕はあるってことだろうしな。


 1時間くらい散々撫でられたり眺められたり写真を撮られたりしたあと、家族は吾輩のケージの前から去っていった。

 この家に来て以来、やっと自分の時間が訪れたというわけだ。



 さて、改めて状況を整理しよう。

 ごく普通の血統書つきポメラニアン。一般家庭での室内生活。少なくとも虐待されたり、多頭飼いされたりして毎日バトルロイヤル的な環境でもなさそうだ。これから家族と共に、きっとワンダフルな生活が待ち受けているはずだろう。ベタすぎてすまん。


 でも実は、吾輩にはとある秘密があるのです・・・

 そう、なんと吾輩は、元人間の転生者だったのです!

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