第15話 冒険者ギルド

 ブラッディたちが向かったのは冒険者ギルドである。案の定荒くれものがとしかいいようのない連中が昼間っから酒をあびている。

 そして、彼が一歩踏み入れると、視線が一気に集まる。



「失礼……ここが冒険者ギルドで大丈夫かな?」



 おそらくだがその視線はあまり好意的なものではないと思いながらブラッディは声をあげる。

 もしも、ブラッディが領主としていけばみんな委縮するかもしれないが、今の彼はジャスティス仮面として訪問している。

 冒険者ギルドにも所属せずに身元不明な人間がリリスをまもるためとはいえ、ジャスティス仮面は好き勝手やっているのだ。彼らとしては気分の良いものではないだろうと思いながらそのまま受付へと向かいながら隣のナツメにこっそりと声をかける。



「喧嘩とか売られちゃったらどうしようかな? かっこよく倒したらリリスたんに冒険者すらも倒すなんて素敵ですーーって言われるかな? それともあらっぽい人間だと幻滅されるかな?」

「さあ、どうでしょう? ですが、その心配は不要だと思いますよ」



 ブラッディがなんでって? ていう顔をしていると、早速冒険者の一人が近づいてきた。



 お、ラノベとかでよく見る喧嘩を売ってくるやつか!!



 ブラッディが見慣れた展開を予想しにやりとするが、魔法使いなのだろうローブに身に包んだ青年は少し緊張した様子だ。



「ジャスティス仮面さんじゃないですか!! この前はドラゴンを倒したんですよね!! 今度魔法をみてくれませんか?」

「あれ?」



 まるであこがれの人を見つけたとでもいう感じにブラッディが困惑しているとそれに他の冒険者も続く。



「ジャスティス仮面さん。まさか、冒険者としても活動するのか!! だったら時々でもいいからうちのパーティーにも入ってくれないか!?」

「あれぇぇぇーーー?」



 思ったような反応とは違って、気の抜けた声をあげるブラッディ。だが、それも無理はない。冒険者は実力主義の世界である。腕っぷしが立つ人間は評価するし、それに彼の領主としての統治はしっかりとしたものであり、不平不満もないのだ。

 それも、リリスが過ごしやすいようにと、領主として力とゲーム知識を使って必死に未然に災害を防ぎ、ジャスティス仮面としても様々な魔物の退治などをしており、命を救われた冒険者も両手は数えられないくらい多いため、ブラッディに彼らは敬意を表しているのである。

 これが本当に見ず知らずの人間だったら不信感もあっただろうが、ジャスティス仮面は自分のところの領主であると冒険者たちも知っている。貴族自ら前線に出て命をすくってくれたのだ。好感度は無茶苦茶高いのである。



「すまない、今日はちょっと急いでいるんだ。また来るよ。その時に色々と話を聞かせてくれ」

「はい、楽しみにしてます!!」

「ああ、絶対だぜ」



 ブラッディは困惑しつつも冒険者たちに慕われていることを知りまんざらそでもなさそうに手を振る。そして、それを見つめどこか誇らしげにしているナツメ。

 そして二人は受付の前に着いた。



「それで……ナツメ。受付はどうすればいいんだ?」

「はい、ブラッディ様から、面倒を見るようにたのまれていますからね。私にお任せください、変態仮面さん」

「変態じゃない!! 俺はジャスティス仮面だ!! ちがう仮面になっちゃうだろ」



 不安そうなブラッディにナツメがちょっと軽口で返す。

 そう、そして、今日のナツメはジャスティスレディーではなく、普段のメイド服である。これは彼女が駄々をこねたから……ではない。

 


「それでは依頼をみせていただけますか? 私たちで受け付けられる魔物の討伐依頼をお願いいたします」

「は、はい!! 最上位のSランク冒険者である『絶影』のナツメ様たちならばどんな依頼でも受けることが可能です!!」



 ナツメに話しかけられた受付嬢が緊張しながら魔物のリストをみせてくる。それはこの地方で目撃があった強力な魔物や人に害をなした魔物がかいてあるのだ。

 その中でブラッディ領に接近する可能性のある魔物を片っ端チェックしていた時だった。



「おいおい、お嬢さん。あんたはSランクなんだって? 。そんな変質者と行くよりも僕とパーティーを組んだ方がいいと思うよ」

「あなたは……?」



 声をかけてきた奥で一人で酒を飲んでいた黄金色の鎧を身にまとった無駄に顔の整った青年である。厭らしい視線んでナツメを下から上までなめるようにみつめる。



「僕は最近この街に来たSランクパーティーの『アルゴーノーツ』のリーダー!! イアソンさ!! 美しい女性が身の程知らずの不審者と一緒にいて、危険にさらされるのは見ていられないからね。お礼は今晩ちょっとお酒でもつきあってくれればいいさ」

「最近はこういうのもなくなってきたと思っていたのですが……」



 きざっぽくウインクをしてくるイアソンとやらの言葉にナツメが大げさにため息をついた。そして、それは彼女だけでなく、他の冒険者たちも同様だった。

 これからおきる結果がわかっているようかのように彼らはテーブルを片して隅っこに避難する。そんな雰囲気にイアソンと、ブラッディだけが気づかない。



「ふっ、こういうイベントをまっていたんだ。それにメイドを守るのは主の仕事だからな」



 ナツメをかばうようにして立ち上がろうとしたブラッディだったが、彼女はその腕をつかんで制止する。



「いえ、もう決着はついています。イアソンとやら……冗談はその無駄に金ぴかで悪趣味な鎧だけにしてください。私がお食事を一緒にする男性はブラッディ様だけなのです」



 そして、彼女はそのまま、散歩でもするようにイアソンに近づくと、彼も警戒して構えようとするが……



「一体何を……な、動けない……」

「てい!!」

「ほげぇぇぇぇぇーーー」



 パチンという乾いた音がして、そのままイアソンがビンタされて吹っ飛んでいく。



「Sランクというのも困ったものですね。規格外だからと言ってあなたごときと私が同格と言われるなんて……そろそろ行きましょうか」

「あ、ああ……てか、ナツメなんで怒ってるんだ?」


 

 いつものように無表情ではあるが、その瞳に怒りの色があることを付き合いの長いブラッディは気付いていた。だが、彼にはその理由がわからない。

 


「そんなの決まっているじゃないですか、あなたが馬鹿にされたからですよ」

「いや、お前の方がいつもぼろくそ言っているだろ」

「私はいいんです。ただあなたをよく知りもしない奴に侮辱されたのがイラっと来たんです。」

「いや、お前も侮辱して良くはないが?」

「それと……かばおうとしてくれたのは嬉しかったです」

「え? なんだって?」



 最後は小声だったので聞き替えるがナツメは答えずにつかつかと歩いていく。その顔は真っ赤で嬉しそうにちょっと顔がにやけていたことをブラッディに伝えるような命知らずはここにはいない。

 ナツメが普段は冷たく接しているのにブラッディを悪く思っていないこともまたここナイトメア領では周知の事実だから……

 そもそも、Sランク冒険者のナツメが何らかの事情があるとはいえ男爵家のメイドなんてやっていることを少し考えればわかりそうなものだが。



「おい、ナツメ、置いてくなよ」

「……早く魔物を狩りますよ。そして、約束通り高級レストランでご飯をおごってくださいね」



 もちろん、ブラッディはそんなものには気づいていない。そして、ナツメもこの関係性が心地よいのかすすめつもりもないのだろう。

 いつもの光景に冒険者たちはにやにやと見守るのだった。




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カクヨムコンテストようのこちらも読んでくださるとうれしいです。



『せっかく嫌われ者の悪役領主に転生したので、ハーレム作って好き勝手生きることにした~なのに、なぜかシナリオ壊して世界を救っていたんだけど』


本人は好き勝手やっているのに、なぜか周りの評価があがっていく。悪役転生の勘違いものとなります。


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