第4話 フリズスキャールヴからの偵察〜期待の二刀流〜

俺は社長だ。

ここまでの経緯を読者にもわかるように伝えよう。

なぜならば、俺は社長だからだ。


まず、俺が社長しているのは商才もあったからだ。富の神格もあるので当然だ。俺は世界の終焉を阻止すべく、会社を設立した。企業理念は「世界平和」だ。崇高だろ?


弊社は現在、有望な人財登用に力を注いでいる。そのため、俺は『フリズスキャールヴ(オーディンの高座)』から、こっそり世界を見渡していた。


そんな折、見つけ出したのがヨトゥンへイム(巨人の世界)に住む女巨人ゲルズだ。


彼女は海と山の巨人の子として生まれたため、海と山の加護を得た二刀流だ。来たる巨人戦に向けて、ぜひ彼女を起用したい。巨人軍のラインナップはパワー系が揃っている超重量級だ。それに対して、我がヴァン神軍は線が細すぎる。まだ荒削りだが、彼女はヴァン神軍の主砲となり、チームを引っ張る存在となるだろう。


俺はそう確信し、彼女の剛腕に一目惚れしたのだ。


弊社にはスキールニルという若いスカウトマンがいる。奴には早速、彼女の獲得に乗り出すよう指示を出した。


「契約金は前払いとして『黄金の林檎(神々の林檎)』11個を検討している。おまけとして、『ドラウプニルの腕輪(オーディンからパクった腕輪)』も支払っても構わない。どんな手段を使ってもいい! 我がヴァン神軍に引き入れろ!!」


「社長! これは難儀なプロジェクトやで。何たってゲルズは巨人や。通例やったら、巨人軍に入団するわけや。それにゲルズはヨトゥンへイムに在籍しとるんやで。出張するにしても遠すぎるわ。わいの残業代や出張費用はどうなるんや!」


「お前は何を言っているんだ! サービス残業は社会人の常識だ! もちろん、残業代も出張費用も出ない。弊社の決まりだ。諦めろ! 代わりに、私の最上級グレードの跳ね馬『ブローズグホーヴィ(フレイの馬) 』オプション盛り盛りVer.を貸し出してやろう。大事に扱えよ!」


「ちょ、ちょっと待てぃ! そんなんいつ買ったんや! そんな金あるんやったら、わいらの給料もっと上げられるやろ! こちとら休日を返上して働いてんねんで! ギリシャんとこなんか創世記以来、週1回は絶対休むって鉄則があるのに、うちはどうや!」


「何を言っているんだ! 世界平和のために弊社で働けているんだ。普通はそれだけで自然と会社に対して感謝の気持ちが芽生える。365日24時間、死ぬまで働くんだ! さぁ、今月のノルマがまだ残っている。行け!」


「もう、何言ってもあかんわ。しゃあない、そうや! 社長。あれを貸してくれや。」


そう言って奴は交渉材料に必要だからと『勝利の剣』の貸出し申請をしてきた。


何に使うかわからないが、俺は奴に全幅の信頼を置いている為、書類に一通り目を通し力強く承認印を押してやった。




そして、ヨトゥンへイムから帰還した奴は面接を受ける段階まで漕ぎつけたようだ。よくやった! 弊社の未来は明るい!


俺はさっそく愛猪『グリンブルスティ(金色の猪)』に跨り、面接会場のあるバリの森へ赴いた。


結果、ゲルズは晴れて我がヴァン神軍の一員となった。もはや、巨人戦はもう勝ったも同然だ!





俺は大将軍だ。

ここまでの経緯を読者にもわかるように伝えよう。

なぜならば、俺は大将軍だからだ。


と言っても、今回ばかりは俺も何がおこっているか、わかっていない。正直、戸惑っている。



結論から話そう。俺はゲルズと結婚した。


妻は常日頃から俺を大将軍と呼んでいた。自重せずに言うなら、我がヴァン神軍の最大戦力は俺だ。妻は大将軍である俺の元で武将となる決意をしたのだろう! なんという闘気だ! もはや来る巨人戦が待ち遠しくさえある。


だが、順風満帆とはいかなかった。妻は俺のことから、距離をとったり、近づいてきたり、偵察していた時に比べ動きが変である。俺はこの原因を知っていた。漫画で読んだ。間違いない! イップスだ!


彼女はヴァン神軍、いや、世界の宝だ。心の病であるイップスの治療は、中身は高校生である俺にとって手に負える代物ではなかった。これは世界の危機なんだ。だから、俺はやむを得ず姉ちゃんに相談した。


「姉ちゃん大変だ! ゲルズが心の病に犯されてしまった! 助けてくれ!」


「そんなの楽勝よ。私の得意分野だわ! まかせて♡ お代はあなたの体で結構だわ♡」


得意分野という発言に違和感を覚えつつも、とても頼りになる言葉だった。世界平和のため、俺は姉ちゃんとまぐわることを条件にアドバイスを受けた。



そして、今に至るわけだ。

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