第2話 アルブヘルムの光の王〜俺は煌然と輝く〜

(よそ者よ! 立ち去れ! ここは光の妖精が棲まう光の世界なるぞ!)


(な、なんだ! その光は! 我が妖精族の酋長でさえここまで煌めけないぞ!)



俺は王だ。

ここまでの経緯を読者にもわかるように伝えよう。

なぜならば、俺は王だからだ。


俺ことフレイが幼い頃、乳歯が生えたお祝いに、親から貰ったのが『アルブヘイム』という領土だった。いや、領土という生優しいものではない。世界樹『ユグドラシル』から生じた9つの世界の1つ、光の妖精の世界を俺にプレゼントしたのだ。


何を言っているかわからないだろう。安心してくれ、俺にもわからない。要するに、親バカここに極まれりってことだ。


俺は親の七光りで光輝燦然と輝く。そして、光の世界の王の座についた。




王として君臨した俺だが何となく居心地が悪くなって、『スキーズブラズニル(折りたたみ式の舟)』で、こっそりアースガルド(神々の世界)に戻っていた。理由は聞かなくても何となくわかるだろう。


では、何故ここにいるかって? 


俺は逃げてきたのだ。神々は気まぐれがすぎる。あいつらと一緒にいたら、俺はいつか『勝利の剣』を失うだろう。それに比べて光の妖精たちは純粋だ。心が洗われるようだ。



「王ちゃま〜! また、面白いお話を聞かちぇて〜。」


「よ〜しっ、今日はムキムキマッチョのトール(アース神族)さんが盗人に奪われた神斧『ミョルニル』を奪い返すために女装をしたという話だ。」


「わ〜い! 王ちゃまだいちゅき!」


こんなふうに、俺はここで平穏な日々を過ごしている。幸せだ。


初めからこうしておけばよかった。俺は天真爛漫な妖精たちに「王様」とちやほやされて、ラグナロクに備えておけば良かったのだ。これが正解だ。



「王ちゃま〜? ここに立てかけている剣って何? おもちゃでちゅか?」


「え〜、これどうやって遊ぶのかなぁ? こうでちゅかね?」


(Ljósa konungs sverð, vega min fiende, leiða til sigur、)ボワッ


「ちょ! やめろ! お前ら何で呪文を言えるんだ!? 返せ!」


「王ちゃまの意地悪っ! ふぇ〜〜〜〜〜ん!」


はっ、はっ、はぁ。間一髪だった。もう少しで俺はここで斬殺死体と化していただろう。無邪気というのは、得てして時に凶器となる。恐ろしいものだ。


ここに棲む光の妖精たちは純粋無垢で幼気ない。魔法を操る能力に非常に長けている。心も清く正しいのだろう。この『勝利の剣』を難なく扱える。誰かと違って。


俺はまた折り畳まれた『スキーズブラズニル』を広げる決意をする。まだ、アースガルドの方が安全かもしれないからだ。


「王ちゃまぁぁぁ! 隙ありっ!」


「や、やめろ〜〜〜〜!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る