第19話【プレゼント】

俺はチルチルとワカバをコックランナーの村に残してアパートに帰ってきていた。こちらの世界はまだ昼間である。3時を過ぎたぐらいであった。全然時間が過ぎていない。流石は時の流れが十分の一である。


あっちの異世界は夜なのでチルチルたちは睡眠を取っている。当然ながら獣人のチルチルは睡眠が必須だ。バッタ人間のワカバもとりあえずは寝るらしくチルチルと同じテントで眠っていた。


ワカバは俺と戦って受けたダメージも残っているらしく睡眠でダメージを回復させないとならないらしいのだ。


だからその隙に俺は買い物に出ようと考えていた。下駄箱の上に置いた車のキーを取るとダサいジャージ姿でアパートを出る。


そして、3年前に3万円で買ったボロい軽自動車で家を出た。排気ガスを蒔き散らしながら近所のホームセンターを目指す。


俺はホームセンター内をダラダラと彷徨きながら商品を見て回った。まずはキャンプ道具売り場を見て回る。


折り畳みテント。寝袋。バーベキューセット。形態浄水器。クーラーボックス。様々なキャンプ道具を見て回る。どれが必要だか分からないので、本日は最低限要るだろうと思われる物だけを買って帰ろうと考えていた。その後に必要だと分かったものがあればその時に買い出しに出れば良いだろう。いつものパターンである。


軍資金は祖父ちゃんから貰った100万だ。これだけあれば何でも買えるだろう。ここで一気にキャンプ道具を買って帰ろうと考えていた。


とりあえず折り畳みテントと寝袋を二つ買う。俺の分は要らない。だって寝ないから。


更に電池式のランプと懐中電灯、それに替えの電池。そして、水筒二つと百円ライターを数個。あと、サバイバルナイフを一本買う。


その後に俺は大型工具売り場を見て回った。ワカバに武器を買うためだ。あのバッタ娘は戦闘民族らしく武器を欲していたのだ。だからここで武器の代わりになるような物を探していた。


そして、武器に転用できるような大型工具は沢山売られていた。大型の薪割り斧。スレッチハンマー。150センチぐらいの大型バールも売られている。更には電動ノコギリ。チェンソーなんてかっこいいかも知れない。


あの異世界で見た武器は粗末な物ばかりだった。木の槍や石の斧。人間の農夫たちが持っていた武器ですらクワやカマなどの農作業道具だった。しかも旧式で使い勝手も悪そうな農機具である。


村長さんの話からして冒険者たる職業の人間も要るらしいからちゃんとした武器も存在しているのだろうが、鑑みる限りろくな武器は揃っていないと思われた。それぐらいこちら側とあちら側では文化レベルが違うと思われる。おそらく機関銃一丁で天下が取れるのではないかと思えるぐらいだ。


さて、それよりもワカバはどのような武器が好みなのだろう。俺と戦った時は槍と盾を持ってたな。あんな感じの武器で良いのだろうか。


そんなことを考えながら俺が商品を見て回っていると、ショーウインドーに収納された変わった品物棚を見つける。それは護身用の武器だった。トンファー型警棒や二段式警棒などが陳列されていた。スタンガンやコンバットナイフまであった。おそらく店長の趣味なのだろう。危ない社会人だと思った。


俺はこれは珍しいと陳列棚を見て回った。そして、携帯用護身警棒が目に入る。二段式警棒と呼ばれている武器だ。


長さは数種類あった。一番長い二段式警棒で65センチまで伸びる物がある。これは面白いなと考えて俺はこれをワカバのお土産に買って帰ることにした。


更に変わったアイテムを見つけた。それはダイエットバーと呼ばれる品物だった。それは伸縮自在のステンレス製警棒である。


折り畳まれたサイズは手の平サイズの筒状で上の部分にボタンが付いている。そのボタンを押すと上下に伸びて1メートル程の長さの警棒になるのだ。まるで孫悟空の如意棒である。


元々はマジシャンの伸び縮みするステッキとして設計された物らしいが、後に軍用の携帯武器として改造されたらしい。二段式警棒の次世代型とのことだ。まあ、これも面白そうだったのでひとつ買って行く。


しかし、12000円は少し高価だと思えた。どうやら強度が高い物から値段が高いらしい。俺は一番高い商品を買った。直ぐに壊れたら堪らんからな。


ホームセンターの買い物はこんなものだった。


そして、二人の朝食代わりに牛丼屋で二丁分の牛丼とサラダセットをお土産で買って帰る。たぶん二人とも牛丼なんて食べたことが無いからビックリするだろう。またチルチルのカルチャーショック顔が見れると思ってワクワクしてきた。キュンである。


それから俺がコックランナーの村に帰ったが、まだ異世界は夜だった。二人も寝ているしコックランナーたちも眠っていた。故に淋しい。ぐすん。


俺は村の外れで買ってきた二段式警棒をカチャカチャと伸ばしては折り畳みを繰り返して遊んでいた。振ったり突いたりして感触も確かめる。ダイエットバーも面白い。


これはなかなか良いな。振り心地も悪くない。硬いし軽いしリーチもバールよりある。ただ重さが少し心細い。生身を叩くならば十分な殺傷力はありそうだったが、バール程ではないだろう。たぶん甲冑などの防具を着込んでいる敵には効果が低下するのは間違いないと思えた。それに鋼の剣などを受け止めるのにも向いてないと思えた。直ぐに壊れそうである。


まあ、二段式警棒とダイエットバーのどちらかをワカバにプレゼントしてやろう。サバイバルナイフはチルチルようだ。彼女も護身武器ぐらいは必要だろう。


そんな感じで俺は朝が来るのを待っていた。やがて草原の向こうに日が昇り始める。眩しく清々しい朝だった。


最初に起きてきたのはコックランナーのメスたちであった。そそくさと朝食の準備を始める。どこの世界でも変わらないのかも知れない。朝一で動き出すのはオカンたちが一番なのだろう。


続いてチルチルとワカバがテントから出て来た。相変わらず寝起きのチルチルは頭が爆発している。それを俺から貰った家宝の櫛で溶かしていた。その笑みは満面だ。相当ながら櫛が気に入っている様子である。


一方のワカバなのだが、早朝からストレッチに励んでいた。股割りや背筋を伸ばして分けの分からないヨガのポーズを取って体を解している。なんか健康美に気を使ってる意識高い系のOLみたいであった。しかもかなり柔軟だ。インド人もびっくりなヨガポーズを取っている。


そんなワカバに俺が何をしているのかと訊くと彼女はストレッチを続けたまま答えてくれた。


「いずれ御主人様にリベンジマッチを申し込みますので、その時のために体を鍛えているのじゃ」


あ〜、怖い。この子はこういうことを言い出すタイプのメイドなのね。バイオレンス系だ。理解したぞ。注意しなければなるまい。


だが俺は、そんなワカバに買ってきたばかりの二段式警棒65センチとステンレス製ダイエットバー1メートルを差し出した。どちらかを選ばせる。


ワカバは折り畳まれた二段式警棒を見て首を貸し出ていた。使い方が解らないのだろう。だから俺は模範を見せてやる。二段式警棒を振るって瞬時に伸ばしてみせた。


そして、長く延長された警棒を見てワカバは驚いていた。伸びる鉄棒なんて見たことが無いのだろう。手品を見せられた子どものように目を丸くしている。


更にダイエットバーのボタンを押して瞬時に伸ばすと彼女は更に驚いていた。その顔が可愛らしい。いつも刺々しい顔ばかりしている彼女にも可愛らしい一面を見つける。


「こ、これは棍棒なのかえ。それとも鞭棒なのかえ!?」


警棒だからどっちだろう。知らん。


まあ、詳しいことは分からんが、どちらかをワカバに選ばせる。するとワカバはダイエットバーを選び取った。リーチが長い方を選んだようだ。


そして、この携帯武器をワカバは自分が貰えるのだと知った時には感激に打ち震えていた。宝刀でも貰ったかのように興奮しながら歓喜している。その様子から俺への敵対心が薄れたように伺えたのだ。これから仲良く出来そうである。


さて、今度は朝食だ。今度は牛丼でチルチルを打ち震わせる番である。こっちはこっちで楽しみだった。またチルチルの激カワ笑顔が見られるぞ。ワクワクなのだ。




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