第9話【理解できない】
俺はスマホの時計を見て首を傾げていた。まだ、日曜日の13時なのだ。向こうの世界で10時間以上は遊んでいたはずなのに時間のズレが大きくある。部屋の壁掛け時計を見たがやはり13時だ。間違いない。
俺が郵便屋から小包を受け取ったのは日曜日の12時ぐらいである。だからあれから12時間は過ぎたはずなのに、こちらの時計では1時間か2時間ぐらいしか過ぎていないのだ。
それに、確かにあちら側の世界でスマホを見たときには月曜日の0時を回っていたはずだ。なのにこちら側に戻ってきたら日曜日の13時に表示が戻っていやがる。これは明らかに可笑しい。矛盾である。
俺はスマホを持った手だけを扉から向こうの世界に出してみる。しかしスマホの時刻は変わらない。
だが、気がついたことがある。それはスマホの電波が届いていなかった。アンテナが一本も立っていない。あちらの世界には電波が届いていないのだ。それでも俺がスマホを部屋に引き戻すとすぐさまアンテナが三本立った。どうやら扉の向こうには電波が届かないようだ。時空の扉を堺に電波が遮断されている。
これはどう言うことだろう。俺は腕を組みながら異世界に戻る。すると考え込む俺の髑髏面を見た時空の扉が話しかけてきた。
「流石は聡明たる御主人様であらせられる。早くもお気づきになりましたか」
んん、なんだろう?
「この時空の扉は時の流れも歪ませるのですよ」
歪ませる?
「この世では、あの世の十分の一しか時が進みません」
ええ、どういうこと?
「ようするに、こちらで10日過ごしても、あちらの世界では1日しか過ぎていないのですよ」
な、なんと!
「細かく述べますと、こちらで24時間過ごしましても、あの世では2時間と24分しか過ぎていないことになります」
なに、それは凄くお得だな!
「ただし、細かな条件もいくつか御座います」
なにさ?
「まずは、扉をキチンと閉めていること。二つ目は、御主人様がこの世にいること。この二つは絶対です。これを違えている間は更に時間が歪みます。誤差が生まれて、その誤差を次元が勝手に修正します」
そうなると、俺がアパート側に居たらどうなるのかな?
「もしも御主人様があの世に居る場合は、この世と時の流れが入れ替わります」
時空の扉が述べるあの世とは現実世界で、この世が異世界のほうだ。その言い方が少し面倒臭くて悩ましい。お馬鹿な俺では頭が混乱してしまう。
「この世の時の流れが十分の一に入れ替わるのです」
な、なるほど……。俺が居る方の時間が十分の一になるってことなのね。
「それが、不老の体と時空の扉との関係性になります」
良くわからないけれど、凄いのね。
全裸のまま四畳半に立つ俺はポンっと手を叩いた。
分かりやすく述べれば、要するに異世界で遊べる時間は10倍あるってことなのね。それってばラッキー。異世界を堪能しまくれるじゃんか。
そして、再び異世界に戻った。
「御主人様、御理解頂き感謝します。この手の数学的な話しを理解できない哀れな権利者も少なくないのですよ」
時空の扉が可笑しなことを述べた。
理解できない哀れな権利者?
それはなんだろう?
俺がひとりで悩んでいると再び俺の表情から察した時空の扉が話し出す。
「権利者とは、御主人様と同じようにウロボロスの書物を所有している人物のことを申します」
え……。それって……。
「そうです。ウロボロスの書物は一冊ではありません。数冊存在しております」
あの本が、何冊もあるんかい!?
「御主人様が所有している物が骨の書。骨や闇属性に特化した魔導書で御座います。他にも様々な魔導書が存在しているとか」
その話は誰が言ってたんだ!?
「骨の書の前回の持ち主。御主人様の祖父に当たる御方で御座います」
祖父さんが!?
やっぱり祖父さんが、この本を送ってきたのか。じゃあ、生きてるの。祖父さんは生きているのか!?
俺は再び部屋に駆け戻ると放置してあった小包を拾い上げた。しかし、以前にも確認したが送り先の住所は田舎の実家のものだった。そこからはなんの手掛かりも見つけられない。
その時であった。唐突にスマホが電話を着信して鳴り響く。そのメロディーに俺の体がビクリと震えた。
発信先は見覚えのない知らない番号である。スマホは卓袱台の上で震えていた。
一体誰だろう。休日の日曜日とはいえ、昼間っから呑気に電話を掛けてくるような暇な知人は俺なんかには居ない。だって俺はボッチな淋しい社会人なんだもの。だから俺は卓袱台の上で鳴り響くスマホが収まるのをただただ見詰めていた。
すると今度は玄関のチャイムがキンコーンって鳴った。今度は訪問者だ。
なんだなんだと俺の心が掻き乱される。俺はただじっと息を鎮める。居留守を決め込む。
キンコーンっと、またチャイムが鳴らされる。
誰だ!?
電話の着信も止まらない。鳴り響いている。玄関前の気配も消えてない。まだ誰か居る。
誰だ、誰だ、誰だ!?
俺が戸惑っていると、今度は玄関の扉が強く叩かれた。玄関の外で誰かが怒鳴っている。
「居るんだろ、ゴラァ。電話が鳴ってんの聴こえてるんぞ!」
チンピラ風の怒鳴り声。男性だ。それが借金の取り立て人のように怒鳴っていた。
俺の頭は混乱した。一体全体何が起きているんだ。理解できない。理解できない。理解できない。
ただ俺は全裸で震えるばかりだった。
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