俺だけ何か違う

つんくん

第一章

第1話『アレレ~、俺だけ何か違う』





 第一話『アレレ~、俺だけ何か違う』





「よくぞ参られた我が勇者達よっ!! 私はこの国を治める――」



『肉体の再構築完了。続いてmilfミルフスキー粒子の注入へ移行……完了。司令、本日のログインボーナスをお受け取り下さい』




 耳から入る男性の声と、脳に響く女性の声、かすんでいた意識が戻って来る。


 ここは……どこだ……?


 屋外ではない、声が聞こえた方向に目を向ける、視界に入ったあれは……玉座と……王?


 えり元にフワフワの白い毛皮の付いた長く赤いマントをなびかせながら、王冠を頭に乗せた金髪の中年白人男性が玉座から立ち上がると、眼前に並ぶ俺達に爽やかな笑顔を向けつつ勢いよく両腕を広げて歓迎を示した。



『司令、本日のログインボーナスです……記憶障害を確認、修正します』



 女性の声が頭に響く、うるさい……


 何が何だか分からない……頭と目を忙しく動かして周囲を確認。


 俺の周りには俺と同じように周囲の様子を探っている奴が多数いる、だがヤケに堂々としているな……それにしてもこいつらの格好は何だ?


 全員ファンタスティックな格好をしている……コスプレ集団か?


 そして、彼らとは別の集団だろうか、銀色の全身鎧を身に付けた存在が俺達を囲んでいる。抜剣している上に数も多い……アレは真剣か?



『約二割の記憶が消滅、完全な修復は困難、修正を終えます。司令、本日のログインボーナスをご確認下さい』



 先ほどから脳内に響く女性の声は何だ?……

 司令とは俺の事か? 俺は……


 いや待て、俺は何かの爆発で死んだ、それは覚えている……


 ……何だコレ、記憶から自身に関する事がかなり抜けている?


 自分の容姿すら覚えていない……

 黒い髪と瑞々みずみずしい白い手は視認出来るが……


 腕、胸元、下半身と目線を下げ、自分のナリを確認する。


 肩に掛けられた濃い灰色の立襟マントは床に届きそうなほど長い、その下に黒い……軍服か? そして黒いロングブーツ、頭には恐らく軍帽らしきものを被っている……こんな格好した覚えはない――


 ――が、不思議だ、何も覚えていないが現状に全く不安は無い……?




「――でありますから、我が王国の未来と皆様の安定した生活の為にも、先ずはステータスを見せて頂き、その能力に適した場所でご活躍を――……」



 俺がいささか困惑しつつ黙考している間、玉座の左隣に立つハゲた男が何やら言っていたようだが、ほとんど聞いていなかった。急いで耳を傾ける。


 いや待て、あれは日本語じゃぁないな、何語だ?

 そして何故俺はあの男の言葉を理解出来る……?



「それではステータスの確認をお願いします。ステータスはしばらく表示したままにして下さい、係りの者が確認して回ります」



 ハゲた男が聞き覚えの無い言語でそう言うと、コスプレ集団は皆一様にニヤリと笑い慣れた様子で『ステータス』と呟いた。


 すると、彼らの眼前に半透明の黒っぽいアクリル板の様な物が出現。それには何やら文字や数字が書かれている。アレは――


 ……クソ、アレを知っているはずなのに上手く思い出せん。


 頭の中が整理しきれていない感じだな、もうすぐ思い出しそうだが。


 歯痒い状況の俺を余所に、何やらコスプレ集団が騒ぎ始めた。



“よっしゃーーっ、能力値を引継いでるっ!!”

“ゲームデータがそのまま反映されてるね”

“装備もアイテムも同じだ、神様の言った通りだったな”


“これって強くてニューゲーム?”

“レベルもそのままだから違うと思う”

“これは序盤安心型の異世界転移だなっ!!”


“ちょ待てよっ、先ずは召喚された理由を問い詰めようっ!!”

“賛成、日本への帰還方法も、ですね……”

“たは~っ、俺は帰る気ねぇけどなっ!!”



 ……耳に入る情報の取捨選択に迷う、真偽の判断が出来ん。判ったのは奴らが知り合い同士らしいと言う事だ。俺と違って記憶障害は無いのか?


 異世界転移と聞こえたが……

 俺は爆死した記憶が有るぞ?

 神様とやらにも会っていない……


 チッ、情報が足りんな。


 ちょっと失礼して周囲のアクリル板をチラ見……

 なるほど、ガチガチの個人情報だな、う~ん……

 異世界転移だと言うのなら、秘匿すべき情報だぞそれ……


 大事な個人情報をみんな堂々と見せているが、何とも思わんのか?


 言動が反抗的な奴も従っている……違うな、見せつけている?


 俺的にはそんなモノを他人に見せたくはない、しかし長剣の切っ先を向けて囲まれているこの状況は、武力での強制が可能である事を理解しろと言っているに等しい。


 その武力がこちらに通用するかは知らんが。


 はぁ、面倒だが俺の背後でこちらをうかがう文官らしき男が『あくしろよ』とイラついているので、渋々ステータスを表示させ――


 ――あぁ~そうだ、ステータスだ、ゲームのステータスっ!!


 やっと思い出した、そろそろ頭が落ち着いてきたな。


 何となく状況も理解した、なるほど、クックック……


 さてクソ文官、俺の能力値に震えて脱糞しろ……っ!!




「ステータス」




 ……………………おや??



 ア、アレレ~?

 何も出ない……


 も、もう一度、今度は少し声を大きくして――



「ステェィトァースっ!!」



 ………………何でッッ!!??



 クソ文官の舌打ちが聞こえる……

 ば、馬鹿なっ、何も出ない、これはどう言う事――



『司令、まず編成画面を開いて下さい』



 ッッ!!


 編成画面を、開く……?

 ……開く。


 なっ……!!


 視界の右側に映る何かの……いや、この映像が編成画面?

 そんな事より、眼前にステータス画面が出ない……


 そして、俺が見ている編成画面と自身との間には距離が無い、つまり編成画面は眼前に出現していない……これは脳内映像だろうか?


 とにかく、これは他の奴らの様なステータス表示ではない……


 ふぅ、なるほど……なるほどな?


 アレレ~、俺だけ何か違う……



『司令、本日のログインボーナスは初回特典の星3キャラ、アンドロイド秘書官の【レイディ】、つまり私です、プレゼントボックスからご確認を』



 ……あぁ、レイディな、知ってるよ、思い出した。


 まぁ、俺だけに見える見知った編成画面で予想は出来た……

 俺の薄れた記憶の中にもハッキリと刻まれている……


 放置気味だったとはいえ、ヒマ潰しに数年間続けたゲームだ、不人気だったが俺は好きだった。


 しかし、自身や家族の記憶を失っているのに古典的ブラウザゲームの事を覚えているのは微妙だな。


 で、そのゲーム設定が現実に反映されたと……意味が分からん。


 状況は受け入れ難いが、察するに召喚されて異世界転移したあのコスプレ集団も、プレイしていた何らかのゲームデータが自身に反映されて興奮している感じか。


 だがまぁ、俺とコスプレ集団とは違うゲームの様だが……



『司令、編成画面右上のプレゼントボックスをタップと念じて【レイディ】のキャラカードを入手して作戦を開始して下さい。では、本日も張り切って侵略しましょう』



 編成画面右上のプレゼントボックス……


 編成画面には左寄りに『レベル0の基地映像』が画面の八割を占めて表示されており、その基地映像は荒野と小さな建物、そして一本の道路しか表示されていない。レベルが低いのでかなり殺風景だ。


 基地映像の周りに何やら様々なアイコンや数字が表示されているが……右上にお目当ての宝箱が有る。


 この如何いかにも『何か入ってます』と飛び跳ねて自己主張しているピンクの宝箱がプレゼントボックスだ。


 この宝箱にタップするよう意識する……『ポ~ン』と可愛らしい音と共に宝箱が開く演出。編成画面中央にサブウィンドウが開き、宝箱の中身が文字とカードアイコンで表示される。


 どうやら上手く入手出来たようだ。

 入手したキャラカードは【貸し倉庫】の新入手アイテム欄へ。


 アイテム欄からアンドロイドっぽい女性【レイディ】のアイコンをタップ、何やら説明文が表示された。


 内政向けのキャラ、四枚重ねると強力なパートナーに云々……と書かれているが、レイディはゲーム開始日から五日連続でプレゼントされるお助けキャラなので、五日後確実に四凸、つまり完凸出来る。


 取り敢えず、入手したレイディを使いたいので、彼女のアイコンをタップするっ!!


 ターーップっ!!



『司令、チュートリアルが始まります、光るアイコンを追って下さい』



 お、おう。


 俺がボケッとしている状況なので、クソ文官の舌打ちが激しさを増す。クソう。


 タップした途端にアンドロイドのレイディが俺の横に出現して『げぇっ、この男が精霊を召喚したぞっ!!』的な流れになって生意気な文官が脱糞する事件は起きない模様。命拾いしたな貴様っ!!


 ステータス表示は無理そうなので、文官の舌打ちが止む何らかのサプライズを切に願う。


 ひとまず彼女の指示通りにチュートリアル開始。

 編成画面の左下、『部隊編成アイコン』が光ったのでタップ。


 別窓が開き部隊編成画面へ移行。

 部隊編成の『待機キャラ』からレイディをタップ。

 更に『配属アイコン』が光ったのでタップ。

 配属先の『秘書官』が光ったのでタップ。

 完了アイコンをタップして終了。


 編成画面に戻る、すると――


 何とっ、三等身のアンドロイドが基地内の荒野を歩き回っていたっ!!


 忙しく歩き回っていたのであるっ!!


 テクテク歩き回っていたのである……それだけなのである。


 ウソやろ……


 アンドロイドのレイディがポーンと召喚される的な期待は裏切られたのである。


 変なゴーグルを付けたツインテールでピンクヘアアンドロイドの三等身レイディが、白くてロボい女性型の肢体をワチャワチャさせて荒野をウロチョロしているのである……クッ。


 まぁ、いずれにせよゲームには無かった現象だが……



『秘書官が設定されました、データの引継ぎを開始します……』



 え?



『……完了。資源惑星制圧を終えた艦隊が現地で待機中です、第128宇宙域の母星並びに本拠地が消滅した為そのまま駐屯します』



 んんん?

 お、おう。



『……制圧した資源惑星へ派遣する大型輸送艦は母星と共に消滅した模様。大型艦建造のドックが必要です。現在の獲得資源惑星は中型が三、小型が七、未開発の小型惑星が一となります。得られる資源は各惑星の基地に貯蔵します』



 な、なるほどなー……


 ちょっと頭を整理させて下さい。


 宇宙艦隊かぁ……なるほどなぁ……


 召喚とか転生とかが瑣末事さまつごとになる話だなコレ……













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