第22話 株価と『YAWARA!』

 むかしむかし、浦沢直樹の描く『YAWARA!』という漫画がありました。猪熊柔いのくまやわらはおしゃれや恋愛に憧れる女子高生ですが、彼女に秘められた柔道の才能を見抜いた祖父、猪熊滋悟郎から柔道の英才教育を受けています。柔道はダサいと、天才的な柔道の腕前をひた隠しにしてきた柔でしたが、ある出来事を通じてスポーツ紙の記者、松田耕作にそれを知られ、秘密にしていられなくなります。「将来、柔に柔道家として国民栄誉賞をとらせる」ことを目論む祖父・滋悟郎も、スポーツ紙にすっぱ抜かれる前に「柔のセンセーショナルなデビュー」を演出するため、柔には秘密のまま画策をはじめます――というストーリー。



 22日の東京株式市場で日経平均株価がバブル経済の当時につけた史上最高値を34年ぶりに更新した。(ロイター)


 これまでの日経平均株価最高値は、1989年12月につけた3万8915円でした。いわゆる「バブル景気」が最高潮に達した瞬間の出来事で、この日以降、日本経済は34年間という長期の転落期間に突入したのですが、昨日(22日)、ついにこれまでのを返済し終わる時がきたわけです。


 ところが、34年前のバブル景気と違い、いまの世間に好景気を実感できる要素はほとんどありません。わたしの年齢では給料の上がり幅はごく僅か(公務員のペースアップは若者に厚く、中高年に薄い)で、物価高をはじめ、高齢者や外国人の増加、不安定な仕事の増加、低所得者層の増大など社会的にネガティブな要素の方が多い印象で、まったく好景気の実感はないのです。


 むかしは日経平均株価の動向が、日本の景気動向と連動しており、株価=景気の指標だったのかもしれませんが、いま株価か上がって喜んでいるのは、株価の上がった会社と一部の投資家、証券会社くらいです。景気の指標としての株価の役割は終わったのじゃないかとさえ思います。


 投資家向けのニュースサイト以外で株価を毎日速報する意味はありません。一般向けに景気動向と直結した株価とは別の指標を報道した方がいい。そうでないと、生活実態と景気指標とがかけ離れていくばかりです。



『YAWARA!』は、株価が最高値を記録した1989年にアニメ化されました。わたしはアニメで『YAWARA!』を知ったクチですが、いいアニメです。なにより当時の楽天的でバブリーな雰囲気が画面にいろいろと現れていて、今見るとそういうところも楽しいです。昭和末期から平成初期にかけて、もっとも日本に勢いがあり、おしゃれでセンスが良かった時代を見ることができます。


 株価が最高値を更新しても、いまのこの国に『YAWARA!』のようなアニメを作ることはできないんだろうなと振り返ったのでした。株価じゃないの、景気が回復して欲しいのよ!


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