第32話 快進撃

『さて、敵が多いな』


『ここは拙者が』


 一階に飛ばした2人の様子を見ていると早速魔物達と遭遇したようだ。

 一階はとにかく物量でゴリ押しする設計で作っている。コボルト、オーク、ゴブリンなどの単体ではあまり強くない魔物達がオタメガとフィオナを囲う。


 するとオタメガが一歩前に出て印を結び出した。


「な、なにしてるの?」


「さ、さあ?」


 俺もあいなも困惑だ。だが、画面越しに見るフィオナは冷静そのものだ。

 なんでこんな奇行を止めないんだ。


『忍法! 雪時雨!』


 オタメガが印を唱え終わると細い氷の針がいくつも魔物達へ向かう、氷の針は魔物達の数をかなり減らした。

 そしてどこで手に入れたかもわからない忍者刀を構えた。


「なんで忍法?」


「それ以前にどうして忍法が使えるの!? おかしいでしょ!」


「た、確かに……」


 だがよく見ると氷に魔力が篭っている。


「あれは魔法だな」


「えっ、じゃああの印は……」


 それがわからないんだよな。雰囲気を出す為にオタメガが印を結ぶのはありそうなことだけど、それをフィオナが許すかなぁ?

 許さないような気がする。だとすれば、考えられる理由は印を結ぶことによって魔法の威力がアップする?

 そんなことあるのか?


「ちょっと……なにやってるの?」


 あいなからすごいジト目で見られた。

 理由は俺が印を結んでいたからだ。さらに言えばこの印は雪風が使う物なので、覚えている。


「忍法、雪時雨」


 全てのプロセスを合わせてオタメガと同じように魔法を放つが特に威力が変わった様子はない。

 ダンジョンの壁に穴が幾つも開いてしまったがな……


「どう? 威力変わってる?」


 一応側で見ていたあいなに聞いてみる。


「いやいやいや! おかしいでしょ! なんで小田くんの魔法より威力高いの!? なんで氷でダンジョンの壁に穴をあけれるの!?」


「えっ、普通にこれくらいできるんじゃないの?」


 フィオナとの特訓の時には壁を何回も直したし。


「普通じゃないよ! ダンジョンの壁って特殊でどんな衝撃も耐えるって話だよ! 現状ダンジョンの壁を壊せた人を私は知らないし……」


 マジかよ……この魔法も禁止かな……


 実のところ俺が使える魔法は沢山あるのだが、どれも凶悪すぎる為封印しているのだ。

 まあ、転移魔法が便利すぎてそれ以外使うこともないんだけどね。いざ対人戦になったら転移魔法で武器を奪えば勝てるし。


「そ、そうなんだ。今度から気をつけるよ……マジで」


 俺は心から魔法の使用について気をつけると違うのだった。


 壁を修復して画面に意識を向けるとオタメガ1人で魔物を葬っていた。


「それにしても、小田くん結構強いね〜。太郎くんの血のおかげかな?」


「まあそれもあるだろうけど、本人の努力の成果じゃない? ここ最近ずっと修行してたし」


 魔法を使えるのは俺の血のおかげかもしれないが、接近戦のスキルは本人の力だろう。


「剣を持って1週間以内にあの実力って妬けちゃうな〜」


 うっ、こういう時ってなんて言えばいいんだろう……


「気にすんよ。あいなには色々助けてもらってるんだから」


「30点だね〜」


「30!? 低すぎない!?」


 どうやらダメだったみたいだ。


 今度本屋で女の子の慰め方の本があれば買ってみよう。


「っとと、結構早いね〜。もう一階をクリアしたみたいだよ〜」


 画面を見たあいなは感心したように呟いた。

 確かにペースはかなり早い。普段ここに来る冒険者よりもいいペースだ。それにまだフィオナは後ろで腕を組んで戦闘を見ているだけだ。


「じゃあちょっと本気出すかなぁ」


「本気? あの時みたいな能力を使うの?」


「まあ似たようなもんだよ。『蛮勇』は使わないけどね」


 この階層は前衛のゴーレムに中衛のオーガ後衛のウンディーネが同時に襲うフロアだ。

 ウンディーネの矢に当たれば男女問わず魅了される厄介なギミックがあるのだが、この2人ならそれすら難なく突破するだろう。


 俺はスキル『濃霧』を発動する。


 すると2階に霧が充満し始めた。


 このスキルは魔物には効果がないが人には効果があり、霧を吸えば体がどんどん麻痺毒によって痺れてくるという凶悪な物だ。フィオナに効くかどうかは微妙だけど、これでオタメガは動きづらくなるだろう。


『霧?』


『魔王様のスキルか……この霧、毒が含まれているな』


『どど、毒ですか!? フィオナ殿! どうしましょう!』


 オタメガは慌てふためいている。

 あくまでも麻痺はおまけ程度だ。本来の狙いは……


『ふっ! 流石魔王様……この霧の本命はウンディーネの矢ですか』


 フィオナはオタメガに向いて放たれた矢を短剣で切り伏せると周りを見渡しながら呟いた。


 俺としても流石フィオナだ。戦闘面では本当に頼りになる。今のはオタメガ1人ならウンディーネの虜になって終わっていたはずだ。


「フィオナ様は凄いね〜。よくあの状況で戦えるよね〜」


「本当にな。本来ならこうなるはずなんだけどな……」


 と言って違うポップアップを見る。そこには地面に這いつくばりながらもウンディーネに抱きついている冒険者の姿がある。

 多分麻痺と魅了のダブル攻撃によってこんな事になってしまったのだろう。


「私としてはこれに巻き込まれた冒険者のみんなが可哀想だよ……」


 2階にいた冒険者達はフィオナ達以外次々とウンディーネの矢に撃たれてウンディーネに遊ばれている。


 ……後でゴーレムとオーガに冒険者を下の階に送り届けてもらおう。


「まあ、タイミングが悪かったって事で……」


 俺はそれらから目を逸らしてオタメガ達を見た。


『ふっ! はっ! せやっ! 援護しろ若葉!』


『承知! 炎炎炎!』


 凄いスピードで走りながら魔物達を切り伏せるとフィオナの後ろにピッタリくっついて走るオタメガは炎の球を幾つも浮かして奥にいるであろうウンディーネの方に向けて放った。


「2人とも息ぴったりだね!」


「ああ、そうだな」


 快進撃この言葉が今の2人に相応しいだろう。


 フィオナが多少加減しているようだが、それでも追いつけるオタメガが凄いと思う。


 もしかしたら魔法なしなら負けるかもなんで思いながら画面を見るのだった。


 

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