第23話 夢、叶う

「魔王様! 彼の研究の為血を分け与えてください! お願いします!」


 隣の空き地に出たフィオナが放った最初の言葉がこれだった。

 頭を下げながらお願いするのはいいにしても声がデカすぎる。


「ちょっ、こんな所でそんな大声出しちゃダメだって! それにそれはお願いされても無理だ。俺が魔王ってオタメガに言うつもりなのか?」


 オタメガの薬が完成して欲しいとは思うけど、リスクは減らしておきたいのだ。

 仮にオタメガが誰かにばらさなくても、何かに巻き込まれる様になるかもしれない。


「それならご安心ください! 私に考えがあります!」


「考え?」


 どうせ碌でもないことだろう。


「はい、あのですね……」


 フィオナは耳元にやってきて考えを話し始めた。


「いや、無理があるだろ……」


 作戦を聞いた俺だけど無理がある様な気がする。オタメガもあの時の事は知ってたはずだし……


「お願いします!」


 なんでフィオナはこんなにやる気があるんだ? とはいえフィオナにこれまで助けられたのも確かだし……


「分かった。じゃあそれでやってみよう」


「ありがとうございます!」


 俺はポケットからスマホを取り出しあいなに電話をかけるのだった。



「ごめん、待たせた」


 あれから準備して再度オタメガの部屋にやってきた。


「大丈夫でござるよ、それより何故桜木殿がいるんですか?」


 と言うわけであいなに来てもらった。そしてあいなの手には血の入った瓶がある。

 ダンジョンの方は少しくらいなら魔物達でなんとかなるだろう。

 


「ふっ、ふっ、ふっ。太郎くんから小田くんが困っているって聞いてね。これを持ってきてあげたんだよ〜。ジャジャーン! 魔王様の血です!」


 その瓶に入っているのは勿論、俺の血だ。ちょっと前に採血してきました。


 滅茶苦茶痛かったなぁ!


 注射器なんてなかったから剣で軽く切ったのだ。

 そしたら予想よりも血が出てきて焦った。だが、傷跡は残っていない。回復魔法をつかったからね。


「おぉ!? 本当でござるか!? この品はどうやって!?」


 オタメガは興奮しながら瓶に近づいた。


「魔王様と会った時にちょっとね」


「? 配信を見ていましたが、魔王様と遭遇した時はボロボロだったはず……」


「実はあの後、個人的にまた攻略しに行って魔王様と戦ったんだよ〜。それはその時に魔王様が流した血だよ」


 その話を聞いたオタメガは無表情になった。それはどんな顔なんだ!? 疑ってるのか? それとも気づいてないのか……


「そうでござったか! よくぞ無事に戻られたものです。魔王様はその後どうなったのですか?」

 

 ふぅ、大丈夫だった様だ。


「その後結局負けちゃってさ〜。また入り口まで戻されちゃった!」


 顔色ひとつ変えずにここまで嘘をつけるなんてあいなさんマジぱねぇっす。


「それは残念だったでござるな。ですが桜木殿が無事で良かったでござる。その血はいくらで譲ってくださるのですか? 幾らでも出すでござるよ。魔王様の血など市場にも出回ってない希少品でござるからな」


 その言葉を聞いたあいながさりげなくこっちを見てきた。

 なので俺はオタメガにバレない様に手でバツを作った。


「ううん。これはタダでいいよ。太郎くんの友達の頼みだしね〜」


「本当でござるか!? 桜木殿ありがとうございます! そして盟友太郎殿にも感謝を」


「うん。気にしないでね〜」


「お、おう」


「それがあれば女体化の薬ができるのだろう?」


 痺れを切らしたようにフィオナが尋ねた。


「そうでござる。失敬、少しいいですか? ありがとうございます。これをこの薬と混ぜて……完成でござる! 試験薬162番! 太郎殿! いつもの準備をお願いします!」


「あー、分かったよ」


 懐かしい。まだ一月しか経ってないのにすごく昔のことだった様に感じる。

 タンスの中から雪風の衣装を取り出してアイマスクを付けた。


「ま、太郎様……何をしているのですか?」


 フィオナが若干引き気味に尋ねてきた。その横ではあいなが笑っているがあの笑顔はドン引きしているのを隠す為の表情だろう。


「ほら、もしオタメガの薬が成功だった場合裸になるかもだろ? だからアイマスクをするんだ」


「へ、へ〜。その際どい服は?」


「これはオタメガが目指している銀髪ロリ美少女雪風ちゃんの衣装だ。同人アニメの主人公でオタメガが今話しているみたいな口調で話すんだよ」


「そ、そうなんだ。そのアニメって太郎くんも見たことあるの?」


「ん? オタメガに付き合わされて見たけど中々面白かったよ」


「中々とはなんでござるか! 神作、もしくは名作と呼んでくだされ!」


「ごめんって……そういえば、フィオナとあいなの分のアイマスクはないけど大丈夫なのか?」


「ふっ、成功すれば同性になるのです。細かいことを気にする様な拙者じゃないでござるよ」


「分かった。じゃあ準備OKだ」


 アイマスクを付けて、サムズアップする。マジで懐かしいなぁ!


「それでは……参る! ごくっ、ごくっ……っぷはぁ!」


「……どうだ?」


「特に変化は……いや体が熱くなってきたでござる」


 おっ、今までにない反応だ。


「良さそうじゃないか! ついに成功するんじゃないか?」


「うっ、体が……痛いでござる……」


 ドタっと何かが倒れる音がした。


「オタメガ!」


 アイマスクを取って近づこうとするが誰かに止められた。


「た、太郎くん! 今は待って! 小田くんの様子が……」


「様子がおかしいから確認の為に取るんだろ!」


「魔王様! 今は行けません!」


「フィオナまで何言って…ん……だ?」


 アイマスクを無理矢理剥がすと、そこにはツインテールの銀髪美少女がいた。

 目が大きく瞳は紅く光っていて肌は真っ白な雪の様に白い。

 そして美少女はブカブカの服を纏っていた、そのせいで大事な部分が見えてしまいそうだ。


「太郎殿? 身長高くなりましたか?」


 そしてその少女は年相応のかわいらしい声を出した。


「……お前が小さくなったんだよ! やったじゃないか! 成功したんだよ! オタメガ!」


 俺は近くにあった鏡をオタメガに見せた。


 するとオタメガが自分の頬をプニプニと触ったあと、髪を持った。


「ぉ……おぉ、これは正しく雪風たん……」


「オタメガ!」


「太郎殿!」


 そして俺とオタメガが抱き合った。その感触は普段と違い骨骨強い者になってしまったが、オタメガの夢を隣で見ていた俺としてはとても嬉しい。


「そ、その。太郎くん。横から見たら犯罪者にしか見えないよ〜」


 あいなが引き攣った笑みで俺たちを見ている。


「あ、確かに……とりあえず服着ろよ」


「あっ……」


 オタメガと離れると何故か残念そうな顔をしている。


「俺、外で待ってから着替えたら教えてくれよな」


 それだけ言って俺はるんるんでラボを出るのだった。


 これからどうするんだとか色々言いたい事はあるけど、本当に良かった。人の夢が叶う瞬間って自分の夢じゃないのにこんなに嬉しいんだな。



 

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