第19話 薬のために

「多分この辺りだと思うけど……」


 新規商品が置かれている場所にやってきた俺とフィオナだが、オタメガの姿がない。


「ん? あそこにいますね」


 フィオナが指をさした先には四つん這いで涙を流しているオタメガの姿があった。

 公衆の面前でよくあんな事できるな。


「オタメガ、こんな所で何してんだよ」


「うぅぅぅ、キマイラの牙を目の前で購入されてしまったでござるー。これでは拙者の夢に遠のいてしまうでござるー!」


 今度は俺に抱きつき涙と鼻水を流しはじめた。


「うわっ、きたね! 落ち着けって、そして離れてくれ!」


 最悪だ、フィオナと遊びに行くからって1番お気に入りの服を着てきたのに……

 オタメガの鼻水がべっとりついてしまった。


「うぅぅぅ、拙者はこれからどうすればいいのでしょうか」


「ふむ。キマイラの牙なら私とま……太郎様が取ってきてやろうか?」


 は!? 何言っちゃってんの!


「本当でござるか! それならお金はいくらでも用意するので……」


 オタメガがパンパンになった財布を取り出した。


 いくらなんでも不用心だと思うけど、市場は基本的に現金のみだから仕方ないか。


「金はいらん。その代わりその研究に同席させてもらってもいいか?」


「それでしたら全然構いませんが、なにか申し訳ない気がするでござるなー」


「ならば、失敗した薬をこれからは私達にくれないか?」


「その様な事でいいのですか?」


「あぁ、問題ない。太郎様もそれでいいですか?」


 なんか勝手に話が進んでしまったが、断る理由もなさそうだ。


 最近はオタメガの薬作りに協力できていなかったし、ダンジョンを攻略するとなれば、先程話していたダンジョン拡張もついでにできそうだし、いい機会かもしれない。


「そうだな、俺達でダンジョン攻略してみよう」


 それにフィオナが居れば百人力だ。俺が何かをしなくても勝手に攻略してくれるだろう。


「ありがとうでござる! 拙者、この恩を一生忘れないでござる!」


 そんなことんなで俺達は一度解散するのだった。




「って事があったんだけど、キマイラが出てくるダンジョン知ってる?」


『なるほどね〜。それだったら渋谷のダンジョンがいいんじゃないかな?』


 というわけでオタメガと別れた俺達はあいなに電話していた。

 ダンジョンの事はダンジョンのプロに聞いた方がいいと思ったからだ。


「渋谷? それならここから近いし、すぐ行けそうだな」


『うん。それにしても小田くんがキマイラの牙を買おうとしてたなんてびっくりだよ。普通の学生が買えるような額じゃないからね〜』


「あぁ、オタメガの家は金持ちで結構お小遣い貰ってるらしいよ」

 

『へ〜、でもフィオナ様も勿体無い事するよね〜。キマイラの牙なんて売れば最低でも400万はする代物なのに実質タダであげちゃうなんて』


「400!? そんな高いの!?」


『そうだよ。キマイラはかなり強いし、東京であるダンジョンの中で1番難しいのが渋谷のダンジョンなんだから、それくらいは当たり前だよね〜』


 マジかよ。まあフィオナもいるし大丈夫か。


「そっか……そういえばダンジョンの方は変わった様子ない?」


『うん。聞いていた話よりかは冒険者の量が多いけど3階のオーク達で勝ててるね。ただ……』


「ただ?」


『ううん。これはまだ確定じゃないし、やめとくね』


 ん? 何か噂話でもあるのだろうか。まあ帰ってきけばいいか。


「分かった。じゃあ引き続き頼む。そのあいなも折角の休みだったのにごめんな。俺で良かったらまた今度埋め合わせするよ」


『お〜、それは楽しみだね〜。じゃあ今日はフィオナ様とのデート楽しんでね〜』


「うっ、はい」


 デートと人から言われると少し恥ずかしくなり俺は通話を切った。


「魔王様、あいなはなんと言っていましたか?」


 少し離れた場所で市場で買った焼きそばを食べていたフィオナが電話が終わった事を察して近づいてきた。


「渋谷にキマイラがいるらしいから、今から……残りも食べてから行くか」


 今から行こうと思ったがフィオナの手には他にも綿飴やかき氷、チョコバナナが握られていた。


「も、申し訳ありません! 魔王様、これはあとで食べますので……」


「いいって、今日はフィオナの羽を休めるのが目的なんだからそれを食べ終わってから行こう」


 俺は近くにあったベンチに座った。


「あ、ありがとうございます」


 そしてフィオナは少し恥ずかしそうにしながらベンチに座って、出店で買った品々を食べ始めるのだった。

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