第15話 バレちゃった

 次の日、早めに教室に来ていた俺は震えていた。

 何故かって? ネットニュースの話題が八王子ダンジョンの話題ばかりだからだ。


 どの記事も俺の正体を探ったり、このダンジョンの危険性について言及するものばかりだ。

 そして、八王子ダンジョンは名前を変えて魔王城と呼ぼうなんてふざけた奴らがいるらしい。


「……はぁ、助けに行くんじゃなかなったかなぁ」


 あの時は咄嗟に出てしまったが、よくよく考えてみれば出たのは失敗なような気がする。

 桜木が助かったのは良かったけど、俺自身が行かなくても方法があったような気がする。


 そういえば、あれからオーガ達に話を聞いた結果あの暴走はスキルのせいだと言う事がわかった。なんでも興奮して我を忘れていたらしい。

 これからは蛮勇は使わないようにしよう。


「良き朝ですな、太郎殿」


 そんな事を考えているとオタメガから声をかけられた。

 周りを見ると他のクラスの奴らも来ているみたいで、殆どの生徒がいた。……桜木はまだ来てないようだ。怪我は治したけど、大丈夫かな?


「おはよ」


「おはようでござる。それより昨日の桜木殿の配信は見たでござるか?」


 げっ、その話題か。これだけ有名になってるし知らないほうが変だよな。


「魔王が出たってやつでしょ? ネットニュースじゃ有名じゃん」


「そうでござる。そして拙者は思いついてしまったのです」


「なにを?」


 ろくでもないことだろう。


「魔王の血があれば、拙者は雪風ちゃんになれると思うのですぞ!」


「んなわけあるか!」


 コイツにだけは絶対正体を知られたらいけないような気がする。もしも知られたら血がいくらあっても足りるかどうか……


「試してみないとわからないでござるよ。それに最近太郎殿が中々手伝ってくれないから進みが悪いのですぞ!」


「うっ、悪かったよ。でも最近忙しくてだなー。本当は手伝いたいんだよ?」


 そういえばここ1ヶ月まともにオタメガのラボに行ってない。

 俺も行きたいけど、これからさらに忙しくなるだろうし……


「なんの話してるの〜」


 そんな話をしていると突然横から声をかけられた。そこには桜木がいて、その後ろにはクラスの奴と他クラスの奴らもいるみたいだ。

 全員が桜木の心配をしていたみたいで大丈夫? とか言っているが全て無視だ。


 な、なんだ? 普段の桜木なら俺達に声をかける事なんてないはずだろ? それも取り巻きの奴らを無視してまで俺らに話しかけるなんて……


「桜木殿! 大丈夫だったのですか!? 拙者昨日は心配で……」


「うん。大丈夫だよ〜。魔王様に治して貰ったからね〜。それでなんの話をしていたの〜?」


「………」


 なに、魔王様って……昨日話した時は魔王って言ってたじゃん。


「太郎殿が最近拙者の手伝いをしてくれないのでござるよー」


「ん〜。銀髪ロリ美少女になる夢だっけ〜?」


 桜木は頭を傾げた後そんな事を言った。よく覚えていたな。……いや、インパクトが強すぎて忘れられないだけか。


「そうでござる! よく覚えてくれていたでござるな! も、もしかして拙者に興味が?」


 最後の部分は顔を赤くさせながら訪ねるオタメガ。


「田中くんが手伝ってくれなくなったのっていつくらいからなのかな〜?」


 そしてそれを華麗にスルーする桜木。


「……1ヶ月くらい前でござる」


 今にも砕け散りそうな顔でオタメガは呟いた。哀れオタメガ。


「ふ〜ん。それってちょうど魔王騒ぎがあった頃だよね〜」


 ぐわんとこちらを見てくる桜木。


 バレた? バレちゃったのか? いや、バレているならもっと直接言ってくるはずだ。

 でもなんでバレそうになってるんだよ。


「は、ははっ、その騒動を聞いてダンジョンに潜るようになったからな」


 苦しいか? 


「こら、あいな! 私達は沢山心配したんだぞ! そんな奴らと話してないでこっち見ろ!」


 俺の冷や汗が地面に落ちた瞬間、みーこが桜木に声をかけた。


 ん? 今桜木のハイライトが消えたような?


「ごめんね〜。でも大丈夫だよ〜。私は元気だから〜」


 振り返るといつもの桜木だった。見間違いか?


「そういう話をしてんじゃないの! 私達は心配したって言ってんの!」


「あはは……ごめんって〜」


 よし今のうちにトイレに逃げよう。


「あっ、太郎殿。何処へ?」


「トイレだよ、トイレ!」


 俺は男子トイレに走るのだった。




「はぁ。なんでバレかけたんだ? わかんねぇ」


 個室の中で1人ごちる。


 少なくとも顔は見られていないはず。声か? でもあの時は気づいた様子は無かったし。


「と、とりあえず薬を……」


 ストレスで胃が痛い。念の為に持ってきておいた胃薬を3錠ほど取り出して飲み込む。


「バレてない、バレてない、バレてない。よし、俺が魔王って事は誰も知らない」


 思い込む事で自分を騙すことにした。

 

 そろそろ教室に戻ろうと扉を開けるとピンク色の髪の毛女子がいた。桜木さんだ。


「ッ!?」


 叫ぼうとすると口元を手で覆われて声が出なかった。そのまま桜木は個室に入り込んできた。


「静かにしてくださいね〜」


 なんでこんな所にそんな事を思いながら首を縦に振ると手を退けてくれた。


「っはー。なんでここに?」


「確認しに来ました。貴方が魔王様であるという事を」


「は、はぁ? 俺魔王じゃないんですけど? 桜木さんも勘違いする事あ……るん…だね」


 俺が言い訳をしていると先程自己暗示していた時の声が携帯から聞こえてきた。

 どうやら録音していたようだ。


 ええい、仕方ない!


「ッ!? ここは……」


 バレてしまっては仕方ない。ダンジョンまでテレポートしてきた。

 桜木は急に景色が変わり混乱しているようだ。


「あれ? 魔王様? 今日は学校があるんじゃ……その女は昨日の」


 最初は普段の調子で話しかけてきたフィオナだったが、桜木をみた瞬間2本の短剣をどこからともなく取り出して臨戦体制に入った。


「フィオナ、ステイ!」


「はい!」


 俺の言葉に短剣をどこかに投げ捨てて、後ろにやってきた。


「その女の人は昨日の……」

 

「悪いけど、スマホ出して」


 俺がそういうと桜木は逃げる訳でもなく素直にスマホを出してきた。

 抵抗するつもりはないのか?


 とりあえず先程の音声を消しておく。


「で、なんで俺が魔王だって気づいたの?」


 ここなら簡単には逃げられないし、いざとなればフィオナもいる。

 落ち着いて質問ができる。


「魔王様、正体がバレたのですか!?」


 後ろでフィオナが驚いた様子で声を上げた。


「うん」


「ならばこの女すぐに消しましょう。今なら誰にも気づかれず……」


「問題になるからやめようね。で、なんで分かったの?」


「昨日、小さな声でなにやってんだよ。って言いましたよね? その時の声がきっかけです。そのまえからなんとなく聞いた事ある声だなとは思っていましたけど……」


 そんな事言ったかな? あっ、桜木が腰を抜かした時か。それまではちょっと声を作っていたけど、その時に地声で喋ってしまったのか。


「はぁ。あん時かー」


 完全に俺の凡ミスじゃん。


「はい。家に帰ってから自分の配信を見返していたんですけど、そこで田中様の声ににていると気づいたのです」


「……ん? 様? ってかなんで敬語?」


 そこで桜木がいつもの口調じゃないことに気がついた。


「これから仕える主人にタメ口な訳がないじゃないですか!」


「……ナニヲイッテルノ?」


「貴様、魔王様の良さが分かるとは人間にしては中々やるではないか」


「勿論です。昨日は混乱していましたが、一晩明けて気付いたんです! 私は全員に好かれたいんじゃなくて、私よりも高位の存在に愛されたかったんだと!」


 俺を置き去りにして会話を始める2人。ってか待て!


「全員に好かれたいんじゃなくてってどういう事?」


「私ってかわいいじゃないですか?」


「お、おう」


 自分で言っちゃうんだ。


「だからみんなにも私の事をかわいいって思っていて欲しかったんです。その為に私は今まで差別することもなく、全員に優しくしてきました。その方がみんなからちやほやされるから! でも私気が」


「待て待て! じゃあ俺に優しくしてくれていたのは?」


 唯一だ。オタメガと一緒に変人扱いをしてくれていたのに優しく話しかけてくれていたのは唯一の女子なんだ。


「それは、私という存在を忘れさせない為に? でも今は違います! 魔王様の為誠心誠意仕えさせていただきます!」


 さらば、俺の青春。そして俺の馬鹿。こんな承認欲求の慣れの果てみたいな子にすぐに騙されやがって。


「貴様、名は?」


「桜木あいなです!」


「あいな。か、魔王様に仕える同志として仲良くしよう。私の名前はフィオナだ」


「よろしくお願いします! フィオナ様!」


 横で仲良く握手をする2人を見ながら俺はブルーな気持ちでいっぱいになるのだった。

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