第9話 学校にて

「太郎殿! 昨日は風邪をひいたと聞いたのですが大丈夫ですか?」


 次の日、学校に登校するとオタメガが席までやってきた。


 昨日は色々な事があって大変だったが、2日連続で学校を休むわけには行かず、フィオナに学校は行く必要を教えて登校してきた。

 フィオナも理解してくれたようで、元気に送り出してくれたのでフィオナの事は心配しなくても大丈夫だろう。


「……おう。心配かけて悪かったな」


 オタメガに少し悪いと思いながらも平静を装う。


「本当ですぞ! 何回メッセージを送っても既読にならいので、拙者がどれだけ心配したことか」


 ん? メッセージ?


 携帯を確認してみるとオタメガから36件もの通知が来ていた。


 いや、心配してくれるのは嬉しいけどこれはこれで怖いわ!


「あー、ごめん。昨日熱が高くてそれどころじゃなくてさ」


 そんな事を話していてるとクラスが騒がしくなった。

 なんでだろうと疑問に思っていると同じクラスの陽キャ達が集団でこちらに向かってきた。

 

「ちょっと、邪魔なんだけど」


「ご、ごめんなさいでござる」


 ギャルっぽい子がオタメガに文句を言いオタメガが謝罪して邪魔にならないようにズレた。


「オタクきもっ!」


「………」


 オタメガ強く生きろよ。


 ギャルを前に何も言えなくなってしまったオタメガに心の中でエールを送りつつ、隣の席を見ると何故陽キャ達がこっちにきたのか分かった。


「こらこら、そういうこと言っちゃダメでしょ〜。えっと……小田くんだったよね、みーこがごめんね〜」


 集団の中心にいるピンク色の髪にボブカットの美少女がオタメガに微笑みながら謝罪した。

 彼女の名前は桜木あいなと言って高校生ながらにモデルとダンジョン配信者として活動しているインフルエンサーだ。

 普段は仕事が忙しいのかあまり学校に来てないのに今日は来れたようだ。


「でゅ、デュフ。……別に気にしてないでござる」


 デュフて……そんな笑い方初めて見たぞ。


「昨日の配信見たけどあいなはやっぱり、つよかっこいいよなー」


 そんな事を考えていると隣で大声で話し出す陽キャ達。


「も〜、つよかっこいいってなんなの〜」


「強くてかっこいいの略だよ! 配信見てるみんな言ってるぜー」


 うんうんと頷く桜木の周りの陽キャ達。


「恥ずかしいからやめてよね〜」


「ん、そうだ。あいなは昨日、八王子のダンジョンで起こったこと知ってる?」


 ギャルが八王子のダンジョンと言った瞬間心臓が止まったような気がした。


「顔色が悪いようですが、大丈夫でござるか?」


「あ、ああ……」


 心配してくれるオタメガを適当にあしらって隣の会話に全ての意識を注ぐ。


「うん。知ってるよ〜。魔王を名乗る2人組に冒険者が瀕死にされた事件だよね」


「それ俺も知ってる! 冒険者が全治3ヶ月の怪我を負った事件だよな! つぶやっきーでトレンドになってるよな!」


 俺も、私もと次々と知っている人達がいて驚いた。


 なんでこんなに噂が広まってんだ。ダンジョンで怪我人や死者が出る事はよくある事だろ。


「あいなは大丈夫なの?」


「うん。私は大丈夫だよ。……みんな心配しすぎだよ。こんな事は言いたくないけど今回の事件デマかもしれないし」


「え? デマなの?」


「その可能性が高いって話だよ。だって魔王がいたって証拠もないでしょ〜。バズりたい人が適当に書いた嘘なんじゃないかな? 私も冒険者になりたての時に八王子のダンジョンを攻略した事あるけどボスは魔王じゃなかったもん」


 なるほど、確かに。桜木と同じ考えの人が多ければやがては忘れ去れるはずだ。


「確かに……」


「でも……みんなが気になってるなら今度配信しながら攻略してもいいかもね〜」


「ゴホッ、ゴホッ!」


「だ、大丈夫でござるか!?」


 平静を装うためにお茶を飲もうとした時そんな事を桜木が言い出したのでむせてしまった。

 そして陽キャが一斉にこっちを向いた。


「ごめん、風邪がまだ完全に治ってないみたいだ」


 俺がそういうと納得したのか陽キャ達は話に戻った。そしてオタメガは俺の背中を撫でてくれている。


 お前いいやつすぎるぜ。ちょっと痩せて、夢を諦めて、口調を変えればモテる事間違いなしだ。


「えー、心配だよ!」


「大丈夫だってあいなちゃんは強いから!」


「ふふっ、そんなに強いって言われたらプレッシャー感じるからやめてよね〜」


 一応、これからはそのネタを確かめに来た配信者に注意しておいた方がよさそうだ。


 そんな話を聞いているとホームルームのチャイムが鳴った。

 チャイムを聞いた陽キャやオタメガは自分の席へ戻っていった。


「……田中くん。手を出して」


 周りに人がいなくなってから桜木に話しかけられた。俺は少しびっくりしながらも右手を出す。


「これ、風邪に効果がある飴だからもしよかったら舐めてみて」


 右手の上に何か乗ったと思ったらのど飴が乗せられていた。

 

「あ、ありがとう」


 どもりながらもお礼を言うと桜木はウィンクをしてから前を向いた。


 こんなん、こんなの……惚れてまうやろ!


 俺は心の中ではちきれるほどの大声で叫ぶのだった。


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