第4話 魔剣

「おはようございます! 魔王様!」


 重い瞼を擦りながら目を開け、体を起こすとフィオナさんが立っていた。

 そこで昨日の事が夢じゃなかったんだと認識する。


 昨日話し合いが終わってからフィオナさんはてっきり帰るものだと思っていたのだが、魔王親衛隊の隊長として俺を1人にできないと言って家に帰らなかったのだ。

 幸い親の部屋が空いていたので、寝る場所はどうにかなった。

 問題は風呂に入った後でフィオナさんのサイズに合う服がなかったのだ。

 家にあった母さんのパジャマを渡したのだがキツくて入らなかった。

 仕方ないので俺のシャツとズボンを渡したのだが、フィオナさんのフィオナさんが大変な事になっている。

 今も耳を澄ませば、胸が苦しいよと言っているのが聞こえてきそうだ。


「おはようございます。ってわざわざ起こしにきてくれたんですね」


「はい! 昨日話した時に7時には起きているとお聞きしたのでご飯も用意しておきました!」


 そういえばあの後世間話をしていた時にそんな事を言ったかもしれない。


「ご飯まで? ありがたいですけど、食材の位置とか分かったんですか?」


「いえ、分からなかったので私が持っていた食材から作りました!」


 持っていた? フィオナさんって手ぶらで家に来てたよな?


「私はインベントリの魔法が使えるので、そこに収納しているんです。……こんな感じで欲しいものがあれば亜空間から直接取り出せるんです」


 フィオナさんは俺の考えている事が分かったのか説明をしてくれた。

 そしてフィオナが小さく何かの言葉をつぶやくと手のひらに昨日見た短剣が現れた。


「………」


 絶句だ。凄すぎて言葉を失ってしまった。そんな便利な魔法があるなんて。


「凄いですね……」


「そうですか? 魔王様に褒められて私も嬉しいです!」


「……あー。ご飯作ってくれたんですよね! 俺早く食べたいです!」


 フィオナさんの言う魔王はほぼ100パーセント俺ではない。

 なのにこんなに慕ってくれるフィオナさんに罪悪感が出てきてしまい俺は話題を変えたくてベッドから起き上がって移動するのだった。


 リビングに移動すると机の上に豪華な食事が並べられていた。

 サラダにスープ、パンやベーコンと目玉焼きが綺麗に並べられていて2人分にしても多い量が並んでいる。

 まるで高級ホテルの朝ごはんみたいだ。まあ高級ホテルに泊まったことないけど……


「ははは、凄いっすね……」


 昨日の夜は俺が作ったのだが、あんな物を料理として出していたのが恥ずかしい。


「いえ、魔王様の料理に比べたら私の物など大した事はありません」


 謙遜しすぎて嫌味に聞こえてしまう。

 まあここまで料理の腕に実力差があったら嫌味にも聞こえないけど。


「それじゃあいただきます……うまっ!」


 椅子に座り手をあわせてベーコンを頬張るが火入れが最高だ。物も高級な物を使っているのか普段使っているベーコンとは別物だ。


「勿体無いお言葉! ありがとうございます!」


 それから2人で食事を取ったのだが、料理があまりに美味しすぎて全部平らげてしまった。

 食事を終えたら学校へ連絡して休む事を伝え、服を着替えて家を出るのだった。



「まさか俺がダンジョンに入る事になるなんてなぁ」


 家を出てから電車に揺られて、俺達は八王子に来ていた。


 昨日ネットで調べた情報によると八王子にあるダンジョンが初心者向けだからと言う事らしい。

 フィオナさんにそこでもいいかと聞いたらどこでも大丈夫と言う事だったので八王子ダンジョンにする事にした。


 ネットに書いてあった場所に着くと石でできた塔があった。

 塔自体はそんなに高くないが幅があり東京ドーム3個分くらいはありそうだ。


 8年前ダンジョンが突然地面から生えてきた時の被害は凄かったそうだけど、辺りは最初からそこにダンジョンがあったかのように整備されていた。


 こんな事にならなければ絶対にダンジョンに挑戦する事はなかっただろう。

 まあでもこれもいい経験か。それに……


「魔王様、ついにこの時が来ましたね!」


 横ではしゃいでいるフィオナさんの誤解を早く解きたい。最初は困惑して意味が分からなかったが、今では罪悪感の方が強い。


「そうですね。でもダンジョンに入る前に武器を買わないと……」


 付近には武器や道具を売っている店も多い。ビギナー用の物が多いのか店の看板には地域最安値! や初心者も安心! と書かれていた。

 ネットの情報通りだったようで、付近にいる冒険者の装備も高価なものではなく皮装備が多い。


「魔王様が使っていた魔剣を私が持っているのでその必要はありません!」


 そういうとフィオナさんが何か呟くと地面に剣が現れた。

 その剣は素人目から見ても禍々しい物で、漆黒の刀身に血のように紅い装飾が不気味に施されていた。

 さらに鍔の部分には大きな目玉がある。そしてそれが突然こっちを見てきた、


「ひぇっ……これ握った瞬間呪われません?」


「そりゃあ呪われますよ、魔剣ですよ? 私も握ったことありませんからね」


 当然ですよと言わんばかりのフィオナさん。だから地面に出現させたのか。


「そんなの使うわけないだろうが!」


 なんて物渡してきてんだこの人。


「まあまあそう言わずに握ってください!」


 笑顔で俺の手を取り力尽くで剣を取らせようとするフィオナさん。


「いやですよ! アンタ鬼か! ってあぁぁぁ!?」

 

 そんなやりとりをしていると剣が勝手に動き出して俺の右手にスポッと入ってきた。

 特に何も感じないけど、触ってしまった。最悪だ……


 呪われるってどんな事が起きるんだ。


「魔剣の方から主人を選ぶとは……やはり魔王様は魔王様なんですよ!」

 

「全然嬉しくねぇよ! だって呪われるんだろ!?」


「大丈夫です! 呪われると言っても魔王様以外の者が握った時に生気を吸い取られ死に至る程度ですから大丈夫ですよ!」


 サムズアップをしながら答えるフィオナさんに殺意が湧いた。女といえど、この人の顔面を思いっきり殴りたい。


「それ死んじゃうじゃん!」


「レーヴァテインの方から魔王様を選んだんです。そんな事は起こりませんよ!」


「レーヴァテイン?」


「その剣の名前です。なんでも昔、レーヴァテインと言う青年を使ってその剣を作ったらしいのです。ですからその剣にはレーヴァテインさんの呪いと恨みが宿っているらしいですよ」


 もうやだ。帰りたい。この剣を作った奴は何を考えているんだよ。


「さっ、それでは早速ダンジョンに行きましょうか!」


 フィオナさんに背中を押されて無理やりダンジョンの入り口へと押されていく。


「ちょ、防具は!?」


 武器はこれを使えばいいにしても防具がない。


「大丈夫です! 魔物の攻撃なんて当たりませんよ!」


「どこからくる自信!?」


 そんなこんなで俺とフィオナさんはダンジョンに入っていくのだった。

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