もうすでに世界は救っています4

 はぐれとは魔物のことで群れからはぐれた魔物がたまに村に迷い込んでくることがある。


 村の中心から外れたところにあるリュードたちの家。

 鐘の音は近くてリュードたちの家の近くにはぐれが出てたことがすぐにわかった。


 リュードが振り向くと離れたところから魔物が走ってくるのが見えた。

 小さい恐竜のような二足歩行の魔物が2体。


「ルフォン!」


 まだルフォンは家の中に入っていない。

 リュードは走り出す。


「行かせるか!」


 ウォーケックが剣を抜いて魔物に向かう。

 剣が日の光を照り返して煌めく。


「しまっ……!」


 1体の魔物の首を切り落とした。

 けれどもう1体は何とか回避をして体を切り裂かれながらウォーケックの横を抜けてルフォンの方に向かった。


「させるかぁ!」


 リュードは家の前に立てかけられた剣を取って抜きながら飛び上がった。


「らああああっ!」


 真っ直ぐに剣を振り下ろす。

 リュードの剣は魔物の首をスパッと切り落としてそれでも止まらず地面に突き刺さった。


 ボトリと魔物の首が飛んでいって遅れて体も倒れる。


「ルフォン、大丈夫か!」


 ウォーケックが飛んでくる。


「う、うん、リューちゃんが助けてくれたから」


 幸い魔物がルフォンに手をかける前に倒すことができた。


「良かった……

 リュード、助かったよ」


「ルフォンに手は出させませんよ」


「すまない!

 魔物がこちらに逃げてしまった」


 村の見回りをしていた竜人族が駆けてくる。

 その姿は血に濡れていて戦いの後のように見えた。


 話によると小規模の群れが村の方に来たらしい。

 どこか他の魔物に追われて逃げてきたのかもしれない。


 おおよその魔物は処理したけれど途中で村の方に逃げ出した個体がいてしまった。

 それをリュードとウォーケックが倒したのであった。


「こちらは平気だ。

 ルフォンも無事だったからな」


「悪かった……朝だったのも不幸だったな」


「人通りが少なかったからな」


 普通ならもっと遅い時間で人通りが多かったら不幸だったというところであるがこの村に限っては逆になる。

 人通りが多かったなら、大人が外に出ていたならルフォンが襲われるまでもなく魔物は制圧されていた。


 それがこの竜人族と人狼族が住まう村なのである。


「ふぅ……今度はあんなことあったらすぐに家の中に逃げろよ?」


 リュードは腕にしがみついているルフォンの頭を撫でる。


「うん……ありがとう。

 カッコよかった」


 リュードの返事を待つこともなくモジモジとしながら顔を赤くしてルフォンはササッと家の中に走っていってしまう。


「リュード、お前も帰るといい」


「はい」


 帰るところだったのに飛んだ事件に巻き込まれた。

 魔物のことは大人に任せてリュードは自分の家に帰った。


「ただいま」


「おかえり、ご飯はもうちょっとよ」


「はーい」


 家に入ってみると何てことはない。

 はぐれが出ることなどたまにあることで村の人はそれで焦ることもない。


 この世界の日常においてただいまとかお帰りとかの挨拶はない。

 ないのだけれどリュードが癖で帰るたびに言っていたらいつのまにか家族やお隣さんは言うようになっていた。


 特に難しい言葉でもないし無言で帰って無言で迎えるというのもなんだか気持ちが悪いからいつか広まればいいなと思う。

 入ってすぐのリビングの向こうのキッチンからちょうど料理の盛られたお皿を持ってきているところだった青い髪の美しい女性はリュードの母親のメーリエッヒである。


 当然竜人族の女性であるが先祖返りではないので頭にツノはない。


「外で何かあったみたいだけど大丈夫だった?」


「うん、はぐれが来たけど大丈夫だったよ。

 だから血がついてるのね?


 汗を流して服を着替えてからでいいからお父さんを起こしてきてちょうだい」


「はーい」


 リュードの家には風呂やシャワーの設備がある。

 その仕組みは水属性と火属性の魔法が刻まれた魔石を組み合わせてお湯を出すシステム。

 

 魔法で作られた水やお湯は魔力を与えなきゃしばらくしたら消えるし魔石に使う魔力はあまり多くないので風呂は意外に手軽に入れる。


 シャワーも備え付けてあるので今はシャワーで済ませようと思う。

 このお風呂はどこにでもあるわけではなく、冒険者でもあったリュードの父が特別に備え付けたものらしい。


 このお風呂文化はちょっと広まりつつあるらしくて今やリュードの父はお風呂技師として少し忙しかったりする。

 普段角はあっても気にならないのだが頭を洗うときは若干邪魔になるなと思いながらシャワーを浴びる。


 リュードの父が顔ぞり用に置いてある小さい鏡を見る。

 黒髪、黒い瞳、黒い角。


 将来性を感じる美少年が鏡に映っている。

 目鼻立ちは整い、幼さはまだまだ残っているがもうイケメンのオーラがある。


 リュードの父も母も顔立ちはかなり良い。

 リュードは端正できれいな顔立ちの母をベースにどことなく父の優しい感じを受け継いでいた。


 もうちょっとキャーキャー言われても、なんて思わなくもないけれど魔人族の価値観が顔以外のところも大きいし竜人族も人狼族も美形が多い。

 見た目がいいからとチヤホヤしてくれる種族でもない。


 軽くシャワーで汗を流して綺麗さっぱりしたところで自室に行って着替えて2階にある父の部屋をノックして声をかける。

 でも反応はない。


 念のためもう一度強めにドアを叩いて声をかけてみるが当然の如く何の返事もない。

 大体これで起きたことなどないので遠慮なく部屋のドアを開けて中に入る。


 さほど広いわけでもない部屋は本で埋め尽くされ、その真ん中にリュードの父であるヴェルデガーが寝ている。

 見れば分かるがヴェルデガーは村でも有名な本の虫であった。

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