Chapter3:Over Lord

 ルスヴン卿は皇帝ナポレオン・ボナパルトを手に掛け、代わりにフランスの将軍としてロシアに挙兵した。


 ナポレオンの代わりに将軍職についたルスヴン卿を脅威と見たロシアは、オーストリア、イギリスと同盟を組んだ。

 しかし、たとえ三国連合軍であっても、挙兵したフランスに勝つことは出来ないと考えたロシアの老将クトゥーゾフは、フランス軍の進軍先の物資や食糧を焼き払い、フランスの疲弊を狙った。

 クトゥーゾフは、兵站さえ封じてしまえば、慣れないモスクワの地で、フランス軍は豪雪の為にまともな進軍は出来ないと考えたのだが、その考えは打ち砕かれることとなる。


 食糧を失い、吹雪に会い凍傷にもなっている筈のフランス軍兵士達は、モスクワに到着した。


 疲弊している筈のフランス軍を迎え撃つつもりだったロシア兵は、全く士気を失っていないフランス軍の異様さを恐れたが、当初の予定通りに、フランス軍がモスクワに進軍したのを見ると、市内各所に火を付けた。


 街全体が業火に呑まれる代わりに、フランス軍も共に呑み込む。軍としての強さに勝てぬまでも、身を切る戦略である。

 だが、全てを擲ち、フランスに抗おうとしたクトゥーゾフのその奇策さえ、ルスヴン卿の軍には何の意味も持たなかった。


 月光と火に照らされ、燃えしきるモスクワ市内の中から、燃え死ぬ筈のフランス軍が這い出てきた為だ。


 その身を業火に焼かれながら、フランス兵達は進軍した。


 燃えるモスクワの地から、続々と現れる不死の一団。身体を燃やされても、月光を浴びながらその身体を再生させていく異形の進軍。

 後に世界中を震え上がらせることになる不死の軍隊アルメーイモーテルの初陣は、人々に恐れを抱かせるのに、これ以上ないものとなった。


 モスクワを占拠したルスヴン卿は、ロシアと同盟を組んでいたオーストラリアとイギリスと和平交渉を結び、これ以上の進軍を行わないことを約束した。

 自分たちが生き延びた混沌のフランス革命の余波もあり、各国で王政が滅び、人民の政府が建てられていく様を、ルスヴンは静観していた。

 ドイツ、オーストリア、イギリスといったヨーロッパ諸国は、不死の軍隊を有するフランスに立ち入ることはタブーとしながらも、発展を続けた。


 ルスヴンもまた、自身と不死の軍隊の存在が強大な抑止力として働くことを見越していたが、発展を続け技術を伸ばしてきたドイツは、1914年大量の新兵器を投入してフランスに侵攻する。


 時代を経ても尚、愚かにも戦火を広げようとする他国の様子を見て、

「抑止力では生温い。我が友ナポレオンは他者を信じずに変容したが、圧倒的な権威と武力をもってして各国を蹂躙しようとしたことは間違いではなかった」

 と、遂に世界各国へのを開始した。


 世界中に進軍する不死の軍隊は、その身を業火で焼かれようと、爆撃を受けようと、無数の弾丸に晒されようと、月の光を受ければ必ず復活し、世界中の国々の軍隊を蹂躙した。残っていた王族も、自分達で国を作ろうと奮闘していた人民の政府であっても関係なく、国の中枢にいる者達は皆処刑した。

 ヨーロッパのみならず、アジア、アフリカ、アメリカ、全ての大陸に侵攻を続け、1945年、遂にルスヴンはこの地球上の全ての国を治める総王オーヴァーロードとして名乗りを上げた。


「この世界は未来永劫、私が統べる。民はもう、愚かな王族や、国を混乱に陥れんとする為政者共に阿る必要はない。私が平和を作る。私が世界を永劫に平和と安寧の中、更なる発展を約束しよう」


 不死の軍隊の進軍の際に、既に世界中に拡げられた通信技術にその声を載せて。

 ルスヴンは名実共に世界の王になることを宣言したのだった。

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