10.惨劇の残り香と凍える吐息


 今夜の宿に着いたとき、スイハは馬車から降りるのが億劫だった。

 先に降りていくロカを見送りながら、背筋を伸ばしてゆっくり深呼吸する。長時間揺られて尻は痛かった。本当はすぐにでも、たっぷりの湯で冷え強ばった体をほぐしたい。温かな食事で腹を満たしたい。こんな時間稼ぎは不毛だということもわかっていた。だがどうしても、あの人がいると思うだけで憂うつになるのだ。

 スイハは溜息をついて馬車を降りた。

 真っ白に染まった街道に、自分たちが通ってきた跡が刻まれていた。時間にしてみればたった一週間のことなのに、こうして見えない先まで轍が繋がっているのを見ると、途方もない距離を旅してきたかのように思えた。

 雪上に刻まれているのは車輪の跡だけではない。二本の線の外側、馬車のそれとは別に馬の足跡がある。これは数日前に現れた闖入者のもので、それこそがスイハの憂うつの種だった。

 宿の前でロカと話し込んでいる、長身の久鳳人。

「久鳳の軍人ってのは暇なのかね」ナサニエルが呆れた口ぶりで言った。「あのセン=タイラってやつ、国に帰らなくていいのか?」

「休暇を延長したんだってさ」

 スイハは姉の婚約者を苦々しく見やった。

 申し合わせなど、もちろんしていない。セン=タイラに馬車の行く手を塞がれたときは度肝を抜かれたものだ。当人の言い分によれば、ヤースン家の屋敷を再訪したおり使用人からメイサが塞ぎ込んでいるわけを聞いて、スイハを連れ戻しに来たのだという。

 スイハとて姉には心から悪いと思っている。黒い獣が出没する街道を通るのに護衛が魔道士一人というのは、見送る側としては心許ない話だろう。だがそのことについて部外者にとやかく言われる筋合いはない。

「こんな点数稼ぎなんかして。姉さんの気を引こうと必死だな」

 そう吐き捨てると、ナサニエルがおかしそうにくつくつ笑った。

「カリカリするなって。そんなに姉さんを取られるのが気にくわないのか?」

「なんでそうなるんだよっ!」

 ナサニエルはからかいを含んだ目つきでスイハを一瞥した。

 緑の瞳は色合いだけでなく感情まで鮮やかで、言葉以上に雄弁だ。図星を指されたこと、こちらがそれを自覚していることまで看破されているような気がした。

 スイハは腕を組んでナサニエルを睨んだ。

「ナサニエルだってあいつがいたら困るんじゃないの」

「はァ? なんで?」

「仕事がなくなる。久鳳の軍人は精鋭揃いなんだって」

「そいつはありがたい。適材適所。戦いはプロに任せるのが一番だ」

 仮にも護衛として雇われた者の口から出る台詞ではない。呆れるスイハの目の前で、言うが早いかナサニエルは足下から風を纏い、空高く飛んでいった。

 人目がないからといって大胆なことをする。

 小さくなっていく魔道士の姿を見送りながら、スイハは気持ちを切り替えた。

 セン=タイラが気にくわないことに変わりはないが、ナサニエルの言うことも一理ある。前衛と後衛で役割を分担できると考えれば悪くはない。何事も考え方次第だ。

 宿の従業員に馬車を預け、ロカのあとを追う。

「スイハ殿」

 素知らぬ顔で宿に入ろうとしたところを、横から呼び止められた。

 無視するわけにもいかず、スイハはセン=タイラの険しい顔を見上げた。濃い眉毛、鋭利な目つき、端正な鼻筋。この男を構成している、なんてことはない小さな特徴のひとつひとつが鼻につく。何を食べればこんなに背が高くなるのだろうと忌々しく思いながら、スイハはぶっきらぼうに尋ねた。

「なんですか」

「この先の辺境に、腐傷を治療できる医術師がいると本気で考えているのですか」

 この数日で飽き飽きするほど繰り返された問答だった。スイハはうんざりした。仮にも情報将校だというのなら、もう少し説得に工夫をこらしてほしいものだ。

 無視して中に入ろうとすると、彼はでかい図体を前に割り込ませてきた。

「本当に、自分の意志で始めたことなのですか?」

 妙な質問だと思ったが、ただならぬ真剣さに半ば気圧されてスイハは聞き返した。

「何が言いたいんです」

「ハン=ロカを疑ったことは?」

 何を言われているのか、すぐには理解できなかった。

 数秒遅れてスイハの胸中に怒りが湧きあがった。

「先生が僕を利用してるっていうのか」

「その可能性は十分にありえます」

 可能性、という言葉で濁してはいるが、ほぼ確信しているかのような口ぶりである。

「久鳳にいた頃のハン=ロカは奸計に長けた男でした。計略に巻き込まれて人死にが出たこともある。盲目的に信用するのは危険です」

 久鳳の軍人であれば誰でも知っていると言わんばかりだ。

 言われるまでもなく、ロカの過去が潔白でないことはスイハも薄々感じていた。

 だが、それがなんだというのだ。

「あなたはロカと親しいんですか」

「いえ」

「僕は十歳のときから一緒にいます。久鳳にいた頃のことは知らないけど、先生がどんな人かは知ってるつもりです」

 かつてロカはこう言った。

(――世界が生きるに値しないんじゃない。俺が、世界に値しないんだ)

 彼が自己嫌悪に身を焦がし、言葉の端々に後悔を滲ませるところを何度も見た。人に望みを持てと言った当人こそが、人生に何一つ希望を見出していないということも。

 だがそれでも、どれだけ過去に苛まれようと、ロカは生きることを選んだ。スイハは、そのことを心から良かったと思うのだ。

「先生は僕を助けてくれた」

 ロカがいなければ今の自分はいなかった。

「間違いを見過ごすのは見捨てるのと同じ。その人が道を踏み外しそうになったとき、それを指摘して正すことが信頼だと教わりました。先生がもし本当に何か企んでいたとしても、それを理由にそばを離れることはありません」

 セン=タイラは何か言いたげに眉根を寄せたが、不承不承という顔で頷いた。

「よくわかりました。そこまで言うなら、あなたの気がすむまで同行します」

「いや、帰って欲しいんですけど……」

「それはできません」

 きっぱりした口調でそう言い切ると、セン=タイラは一礼して道を開けた。

 スイハは受付から部屋の場所を聞き出して急ぎ足で向かった。

 ノックして戸を開くと、ロカは部屋の中央に備えられた火鉢の前に座ってボンヤリしていた。考えごとでもしていたのだろう。スイハが入って来たことに気づくまで数秒の間があった。

「遅かったな。外は寒かっただろう」顔を上げたものの、彼はスイハから不自然に目をそらした。「……セン=タイラと何か、話でもしてたのか?」

 ――ああ、この人は。

 過去に犯した罪が暴かれることを何より恐れている。セン=タイラが同行するようになってからずっと顔色が冴えないのもそのせいだ。スイハは火鉢の前に腰を下ろして、うつむいて目を合わせようとしないロカを見つめた。

「先生。明日は夜明け前に出発しませんか」

 いつも通りの声で言えた。

「タイラのやつ、帰ってくれって言っても聞きやしないんです。こっちから引き離さないとたぶん、どこまでもついてきますよ」

「彼は優秀な軍人だ。この宿場には西州の兵もいないようだし、戦える人間がいてくれると心強い」

「タイラが戦ってる隙に逃げようって寸法ですね、先生」

 スイハが冗談っぽく言うと、ロカはようやく微かに笑った。

 地図を広げて明日の日程を話し合っているところに、ナサニエルが寒気を引き連れて窓から入って来た。彼は肩についた雪を払い、険しい顔で火鉢の前に屈み込んだ。

 不穏なものを感じた。スイハは窓を閉じながら尋ねた。

「何かあったの?」

「風に嫌な臭いが混ざってる」ナサニエルは苦々しく目をすがめた。「ろくでもないことが起きたようだぞ」

 その『ろくでもないこと』は、こちらから近づく前に向こうからやって来た。

 夜明け前、やにわに外が騒々しくなった。

 すでに起き出して出発の準備をしていたスイハは、ロカと顔を見合わせた。部屋の戸を開くと、玄関口のほうから揉めているようなやり取りが聞こえてきた。どうやら急ぎ州都へ向かう用事があり、換えの馬を用意してほしいと宿場の主人に迫っているようだ。必死な声音に、昨日聞いたナサニエルの不吉な発言が思い起こされた。

 とりあえず何があったのか確かめようと駆けつけたスイハは、宿の主人に詰め寄っている者の姿を見てあっと驚いた。そこにいたのは紛れもなく西州軍の兵士だった。

 黒い獣の討伐に出ていた隊の者だろうか。

「何かあったんですか」

 宿の主人と兵士の二人から怪訝な眼差しを向けられて、スイハはすかさず名乗った。

「僕は州都の執政官ラザロ=ヤースンの息子、スイハ=ヤースンです」

「ヤースン家の……?」

 半信半疑といった顔だ。

 上の兄たちと違って、三男のスイハは顔も名前もそう広く知られていない。官吏見習いですらない。疑惑の眼差しを向けられるのも当然だろう。

 かえって堂々と開き直れるというものだ。スイハは兵士に笑みを返した。

「所用でヒバリへ向かうところでした。西州軍は黒い獣の討伐に出ていたはずですね。この先で、応援を呼ぶような事態が起きているんですか?」

 兵士は葛藤で目を泳がせつつ、一縷の望みに縋るような青い顔で答えた。

「略奪が……」

 物騒な単語に心臓が跳ねた。

「どこで?」

「オホロ近辺の山の中に、小さな村があるんです。被害に遭った村から逃げてきたっていう村人の要請を受けて……隊の一部が救援に向かったのですが、半日経っても戻ってきませんでした。自分はこのことを報せに州都へ向かうところです。ヒバリの大隊長殿のところにも、今頃伝令が到着しているはずです」

 スイハは振り返ってロカに判断を仰いだ。

「どうしたらいいですか、先生」

「街道を封鎖したほうがいい。港町にもこの事態を報せるべきだ」

 被害を最小限に留めること。略奪者を逃さないこと。重要なのはこの二つだ。

 落ち着け、と、スイハは自分に言い聞かせた。ヤースン家の名を出したからには、相応の人物として振る舞わなければならない。

 深く息を吸って、吐いて。頭の中にかかる靄を払う。

 ――知っているはずだ。やったことはなくても、こんなときにどうすればいいのか、何をするべきなのか、自分は知っている。

 スイハは長兄を思い浮かべた。誰にでも分け隔てのない穏やかな物腰には、この人がいれば大丈夫だという絶対的な安心感があった。

「換えの馬が必要だと言っていましたね。乗ってきた馬は潰れてしまったんですか?」

「いえ。ただ、もうだいぶ年なんです。州都まで走りきる体力はありませんし、無理をさせたら死んでしまいます」

 一刻を争う状況でそんな年寄り馬を使わないでもらいたい。

 本音を胸の内に押し込めて、スイハはしばし考えた。

 ここから州都まで、馬を乗り継いでどれだけ急いでも三日はかかる。折り返して六日。ラザロが最速で応援を出したとしても、到着する頃には悪い意味で何もかも終わっているだろう。

 現場にいる人間でやれることをやるしかない。

 スイハは次兄を思い浮かべた。ホノエは状況を辛抱強く見極める忍耐を持ち、ここぞというときの判断を誤らない人だ。

「わかりました。ではそちらの馬を預かるかわりに、僕が連れている馬を貸しましょう。四歳の西州馬です。あなたはこのまま真っ直ぐ州都を目指して下さい。街道の封鎖はこちらで手配します」

「ですが、ヤースン家のご子息に何かあっては……」

 スイハは姉を思い浮かべた。兄たちが不在の今、誰よりも不安を感じているはずなのに、メイサは自分のことよりも常に他人を思いやる強さを持っていた。

「大丈夫。僕には精霊憑きがついています。村を助けるために、出来る限りのことをするつもりです。気にせず行って下さい。無事に州都へ辿り着くことを願っています」

 伝令の兵は頭を垂れ、若馬に乗って州都方面へと駆けて行った。

 それを見送りながら、スイハは息を吐いた。背中に汗をかいていた。

「立派だったぞ」

 ロカが嬉しそうにスイハの肩を叩いた。

「あんな物言い、いつの間に覚えたんだ?」

「兄さんたちの真似をしてみたんです」

「言葉は借り物だろうと、さっきの判断は間違いなくおまえの意志だ。俺も可能な限り力になろう」

 ロカはそう言ってくれたが、ナサニエルを巻き込んでしまうことにスイハは一抹の罪悪感を覚えていた。本来の目的から離れてしまうことを、彼は承諾するだろうか。

 部屋に戻り、寝起きのナサニエルに先ほどの出来事を話した。

「冗談じゃねえよ。勝手に決めやがって」

 予想していたとはいえ、取り付く島もない反応に肩を落とした。以前、方針に納得できなければ馬車を降りろと言ったのは自分だ。とぼとぼと部屋を出ながら、スイハは別れを覚悟した。

 しかし意外にも、朝食の席にやって来たナサニエルは出発の準備をしっかり整えていた。

「一緒に来てくれるの?」

「ふん、こんなことになるなら言うんじゃなかったぜ。おまえに降りかかる火の粉くらいは払ってやるなんてよ」

「ナサニエル……」

 義理堅さに感動していると、顔の前にすっとナサニエルの手が伸びてきた。なんだ、と思った矢先にバチン、と額を指で弾かれて、スイハは痛みに悶絶した。

 幸い他に宿泊客はおらず、宿場の主人も避難することになった。

 西州兵が残していった馬の手綱を引いて、ロカは言った。

「港町には俺が行く。久鳳大使のカイ=フソンとは旧知の仲だ。おまえはナサニエルとセン=タイラを連れてヒバリに向かえ」

「なんでタイラまで……」

「馬車の抜けた穴を埋めるために彼の馬が必要だ」

 二頭いるうちの片方を兵士に貸してしまったため、このままでは馬車を動かせない。雪が降り積もった街道を終日歩くなど、考えただけで気が遠くなる。

 意地を張っている場合ではない。スイハはセン=タイラのところへ行き、こういうわけで馬を借りたいと頭を下げて頼んだ。彼は二つ返事で了承した。

「スイハを頼むぞ」

 ロカはナサニエルに念を押し、宿場の主人と初老の馬を連れて先に出て行った。

 まだ昼にもなっていないのに、夜明け前からバタバタしていたせいか、すでに一日の半分が過ぎた気分だった。

「僕たちも行こう」

 二人にそう声をかけ、スイハは馬車に乗り込んだ。

 街道を進んで正午を過ぎたころ、次の宿場町が見えてきた。軍服に身を包んだ緑の群れがたむろしている。西州軍だ。しかし様子がおかしい。軍隊の規律はどこへやら、兵士たちは全員、途方に暮れたように右往左往している。

 スイハは御者台から顔を出した。

「すみませーん!」大きく手を振って兵士たちの注目を集める。「ヤースン家の者です。ひとつ前の宿場で、州都へ向かう伝令とすれ違いました。ここの責任者は誰ですか。話を聞かせて下さい」

 兵士たちは顔を見合わせた。なかなか責任者が名乗り出ないと思ったら、隊長は先遣隊を率いて村に向かったきり、安否が知れないのだという。

 仕方なく、その場で一番階級が高い者から話を聞いた。

 指揮官不在で迎えた夜、彼らはヒバリの大隊長に伝令を出して現状を報告すると同時に指示を仰いだ。そうして待つだけの状況に変化が訪れたのは今朝のこと。なんと先遣隊のうち十七名が戻ってきたのだ。そのうち数人は銃創を負っていた。

「失敗したってわけだ」

 ナサニエルがぼそっと呟いた。スイハはゾクリとした。

 銃を持っているということは、村を襲ったのは西州の外からやって来た人間だ。まず間違いなく、傭兵だろう。

 黒い獣を狩るにあたり、国外からやって来る傭兵は頼れる戦力だが、いざこうして敵に回られると西州軍は手も足も出ない。いつかロカが言っていたとおりだ。実戦経験が桁違いなうえ、装備の質に差がありすぎる。

「その十七人は、よく生きて……」

 スイハがそれだけやっと言うと、兵士はしみじみと頷いた。

「しかも戻ってくる直前、雪崩があったんです。連中は本当に運が良かったんです」

 雪で白く染められた山を一瞥した。

 十七名以外、戻ってこなかった者たちの運命は、雪崩で決定的になった。取り返しがつかない現実に目まいがする。多くの命が失われた。

 スイハは地面を踏みしめる足に力を込めた。

 うろたえてなるものか、と気を引き締める。

「ご苦労でした。僕の仲間が今、北の港町に街道を封鎖するよう働きかけています。人の往来を制限すれば次の被害を防げるし、略奪者を逃さずにすむ」

「わかりました。ヒバリの大隊長殿にもう一度、伝令を出します」

「お願いします」

 命懸けで職務にあたる彼らに対してスイハが出来ることは、あまりに少ない。こうして労いの言葉をかけ、頭を下げるのが精々だ。

 そのとき唐突にナサニエルが言った。

「その十七人は話ができる状態か?」

 腰に手を当てて上から見下ろすような態度には、礼儀もへったくれもあったものではない。怪訝そうにする兵士に、スイハは慌てて自分の護衛だと説明した。

「どうしたんだ、ナサニエル」

「聞きたいことがある」

 先遣隊の生き残りは宿場の二階で手当てを受けているという。

 教えてくれた兵士に重ねて頭を下げてから、スイハは先に歩き出したナサニエルを慌てて追いかけた。

 中にいた軍服姿の兵士たちは、予期せぬ闖入者の姿に目を丸くしていた。無理もない。ヨーム人というだけでも珍しいのに、長い黒髪、刺繍入りのバンダナ、木彫りの腕輪といった、西州ではまず見ない珍妙な格好をしているのだから。

 ナサニエルは周囲の視線を意に介さずずんずん進んでいく。スイハは急いで先回りして彼の前に立ちはだかった。

「待って、ナサニエル。聞きたいことがあるのはわかった。付き合うから、ここから先は僕を通してくれ」

「おまえはヤースン家の坊ちゃんってだけで、軍に顔が利くわけでもないだろ」

 言葉に詰まりかけたとき、思いがけぬところから助け船が現れた。

「スイハ殿であれば、いくらでもやりようがあります」

 背後からそう応じたのはセン=タイラだった。いることを忘れていたわけではないが、まさか会話に入って来るとは思わなかった。

 ナサニエルがセン=タイラを鬱陶しそうに睨んだ。

「二人揃って邪魔する気か?」

「逆だ」

 セン=タイラは抑揚のない硬質な西州語で告げた。

「スイハ殿は今、周囲のあらぬ疑惑からあなたを守ろうとしている」

「は? 守るだと?」ナサニエルはスイハを凝視した。「そうなのか?」

 その問いかけに含まれていたのは揶揄嘲弄などではなく、素朴な困惑だった。

 セン=タイラに同調するのは癪だが、彼の言わんとしていることは正しい。

 スイハは咳払いして、玄関広間にいる西州兵たちのほうへ振り向いた。

「お騒がせして申し訳ありません。僕はスイハ=ヤースン。州都の執政官ラザロ=ヤースンの息子です。所用でヒバリへ向かうところでしたが、外で事情を窺いました。もし差し障りがなければ、怪我をされた十七名を慰問させて下さい」

「ああ、そういうことでしたか」

 うっすら警戒が滲んでいた空気がふっと緩んだ。

「そちらの方々は?」

「旅の同行者です。久鳳の客人セン=タイラ。そして精霊憑きのナサニエル。二人とも、優れた知見で僕を助けてくれます」

 精霊憑き、と口にした途端、ナサニエルに向けられる視線が好意的なものに変わった。

「こんなときに精霊憑きが現れるとは、これぞまさしく西州公様のお導きでしょう。こちらで少々お待ち下さい」

 すっかり歓迎ムードだ。こちらを正式に客人と認めてくれたらしい。

 とにもかくにも、これで一息つける。

 スイハはナサニエルの腕を引いて窓辺に身を寄せた。

「ほら、どうにかなったろ」

 ナサニエルはフンと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「ころりと態度を変えやがって」

「仕方ないだろ。さっきまで不審者そのものだったんだから」

 とはいえ、スイハもいささか呆気にとられたのは事実だ。まさか精霊憑きだと明かしただけで歓迎されるとは。

 それだけ、みんな不安を抱いているということだろう。偶然目の前に現れた、わずかな吉兆に縋りたくなるほどに。

「ところで、なにを聞きたいんだ?」

 ナサニエルは難しい顔で腕を組み、窓の外を見やった。

「生きて帰って来られた理由だ」

 なぜそんなことを気にするのか、スイハは解せなかった。

「運が良かったってことじゃないの?」

「銃で撃たれたが運良く急所は外れていた。たまたま黒い獣に襲われずにすんだ。そこまではまあいいさ。だがその上、雪崩に巻き込まれずにすんだって? それも一人や二人じゃない。十七人もだぞ。ただ運が良かっただけとは思えない」

 ナサニエルの疑問は頭では理解できたが、まるで生きて帰って来たことがおかしいと言わんばかりの口調にスイハは思わず反感を覚えた。

「そうは言っても、実際に生きて帰ってきてるじゃないか。なにを疑ってるんだよ」

「おれは西州に来て二年になる。燃やされた村の跡地や、街道に転がった死体をいくつも見た。危険な目に遭って助かったやつらには、必ず理由があるんだよ。州都でぬくぬくと暮らしてたおまえには実感が湧かないだろうけどな」

「ぬくぬくって……州都だって絶対安全ってわけじゃない。誘拐とかされるんだから」

 勢いで反論してから、スイハは己の浅薄さを恥じた。

 過去の出来事は今もしこりのように胸に残っているが、理不尽に命を奪われた人々の不幸とは比べものにならない。誘拐など些事だと鼻で笑われるだろう。いや、いっそ笑ってくれたほうが気が楽かもしれない。

 ところがナサニエルは笑わなかった。

「悪い。今のはおれが無神経だった」

 彼は神妙な顔で謝罪した。

 驚き戸惑うと同時に、スイハは一気に頭が冷えた。

「僕のほうこそごめん。つい、ムキになっちゃって……」ふと、直感が囁いた。「十七人が生きて帰ってきた理由に、捜し物が関係してると思ってる?」

 ナサニエルは溜息をついた。夏草のように鮮やかな緑の瞳が憂うつに翳る。

「……見つかるのはいつも痕跡だけだ。今回も、そうかもしれない」

 そうぼやく横顔からは若干の疲れが覗いていた。

 西州に来てから二年になるとナサニエルは言った。季節が二度巡るあいだ、彼はずっと白い獣を捜してきたのだ。徒労に終わるかもしれない旅を、それでも続けているのはなぜなのだろう。

「なんのために捜してるのか聞いてもいい?」

 いつものようにはぐらかされるかと思ったが、ナサニエルも一人で抱え込むことに疲れていたのかもしれない。彼は外を見ながらぽつぽつと喋りだした。

「このままだと、取り返しがつかないことになる」

「状況が今よりもっと悪くなるってこと?」

「西州だけの話じゃない。異変の影響は、じきに世界中に広がる。白い獣は状況を変える鍵なんだ。そろそろ見つけないと……」

 ナサニエルはしばし逡巡するように目を伏せたあと、スイハをじっと見つめた。

「……おまえなら」

「え?」

「出会えるかもしれないんだ」藁にも縋るような、切実な声だ。「おれはその可能性に賭けてる」

 突然の告白にスイハは返す言葉もなく、戸惑うばかりだった。

 なんとなく気まずくなったところに、セン=タイラが近づいてきた。

 生還した十七人の西州兵は、四つの客室に分かれて収容されているという。言伝に来たセン=タイラに言葉少なに応じて、スイハは部屋をひとつずつ順番に回ることにした。

 階段を上がりきったところで、スイハは後ろを振り返った。

 この国を蝕む異変はいずれ世界中に影響を及ぼすという。それを阻止するためにナサニエルは二年間、白い獣を、西州公の遺児を捜してきた。

 一体どういった経緯で、彼がその使命を背負うことになったかはわからない。

 ただ、ひとつ確かなことがある。生まれや育ちが違っても、年齢が離れていても、力を合わせることはできるのだ。

「……僕たちは、利害が一致してる」

「ん?」

「前に言ってたろ。利害が一致してるって。ナサニエルの話を聞いて、確かにそうだなって思ったんだ。ここは任せて。うまくやるよ」

 二人を廊下で待たせてスイハは一人、兵士たちを見舞った。

 先遣隊の生き残りたちは一部屋につき四、五人ずつで割り振られていた。

 兵士たちは二十歳そこそこの若者ばかりで、一箇所にまとめられた背嚢や壁に掛けられた軍服がなければ、一般人とほとんど見分けがつかなかった。いずれも軽傷だったが、精神的にひどく打ちのめされていることが暗い表情に現れている。任務を果たせず、仲間の生死もわからない。今はとても、生き残ったことを喜ぶ気持ちにはなれないのだろう。

「よく生きて戻って来てくれました」

 労いの言葉をかけられた彼らは、気まずそうに顔をそらした。とても話を聞ける雰囲気ではない。

 うまくやると大見得を切った矢先にこれだ。

 労いもそこそこに、スイハは部屋を辞した。

「西州公様が生きていたら……」

 扉を閉めるとき、消え入るような涙声が聞こえた。

 死んだ人は戻らない。喪失を埋めようとしたところで、何もかも元通りにはならない。スイハは以前、遺児を求める父をそう言ってなじったが、多くの人がこうして悲しみを抱えている現実を見てしまうと、複雑な気持ちになった。

 二部屋目でもそれとなくいくつか言葉をかけてみたが、期待していたような手応えはなかった。

 やはり助かったのはひとえに幸運、あるいは単なる偶然で、これという理由なんてないのだろうか。

 ところが意気消沈して訪ねた三つ目の部屋で、やにわに風向きが変わった。

「雪崩に巻き込まれずにすんで良かったです。皆さんの日頃の献身と、西州公様のご加護の賜物でしょう」

 そう言葉をかけると、青年たちは他の部屋にいる仲間たちと同じように、後ろめたい様子で目をそらした。スイハが諦めて席を立とうとすると、窓際の寝台で俯いていた一人が絞り出すように言った。

「ち、違うんです。俺たち……」

 同室の三人が、声を発した一人を見つめて息を呑んだ。

 スイハははやる気持ちを抑えて椅子に座り直した。

 努めて冷静に。ゆっくりと、問いかける。

「なにかあったんですか?」

「……言わないでくれって、頼まれて。でも俺、もう……」

 青年は同意を求めるように周りの仲間を見た。暗く沈んでいた顔に血の気が巡っていくのを見たスイハは、彼らの抱える後ろめたさは生き残ったことではなく、ある秘密を共有しているためのものだと気がついた。

「秘密は守ります。何があったか話して下さい」

 スイハがそう背中を押すと、青年は重い蓋が取れたように言った。

「俺たち、山の中で精霊憑きに会ったんです。助けられて……おかげで生きて、帰って来られたんです」



「久鳳人の親子連れ?」

「そう。傭兵の」

 宿屋の裏手で、スイハは期待と興奮、じわりと冷や汗が滲むような焦燥感を抑えながら兵士たちから聞いた話を繰り返した。

「あの人たちは仲間とはぐれて、雪山で散り散りになってたところをその親子に助けられたんだ。子どものほうが精霊憑きだって言ってた。その子は……」

 白い髪、白い肌。とてもきれいな雪ん子だったと。

 それを聞いた瞬間、体中の熱が高まると同時に、まだ決めつけるのは尚早だという理性が働いた。兵士たちが言うように、その子どもは本物の精霊憑きの可能性もある。

「雪崩からみんなを守ってくれたらしいよ」

「その子どもはどこに?」

「山に戻ったっていうんだ」

「なんでまた」

「村の様子を見に行った父親を捜しに行ったんだって」

「とんだお人好しだな」

 鼻で笑ったあと、ナサニエルは一寸考え込んだ。

「ヨウ=キキは久鳳人。その親子も久鳳人か……」

 彼が何気なく口にしたその符号は、スイハの心をざわざわと波立たせた。

 手の中の汗を握りしめる。

「僕たちが捜している人じゃないかもしれないけど、その子を助けたい。ナサニエル」

「まあ、いいだろ」

 ナサニエルは袖をめくり、木彫りの腕輪を撫でた。

「のんびりしてたら黒い獣に食い殺されるかもしれないしな」

 スイハは思わずエッと声をあげた。彼が今が言ったことは、さきほど兵士たちから聞いた話と大きな齟齬がある。

「精霊憑きは黒い獣に襲われないんじゃないの?」

 ナサニエルは腕輪の模様をなぞる指を止めて、怪訝そうにスイハを見やった。

「なんでそう思った」

「さっき聞いたんだ。精霊憑きの子は、そのために父親と離れてあの人たちに付き添ったんだって」

 突然、足下から風が吹きあがった。

 目を刺す冷気の鋭さに瞼を閉じかけたとき、狭い視界の中で、ナサニエルが膝を屈めて前傾姿勢を取ったのが見えた。飛ぶつもりだ。そう悟った瞬間、スイハは前のめりになるほど腕を伸ばして目の前まで浮かび上がった彼の足首を掴んだ。

 ナサニエルは空中で大きく体勢を崩して雪の上に胸から落ちた。空気の塊がつかえる鈍い音がした。地面に打ちつけた顎を押さえて、彼は怒りも露わに声を荒げた。

「殺す気か!」

「ごめん!」謝りつつも、スイハはしっかりとナサニエルの体を掴んだ。「でも、いきなり飛ぶのはなしだろ!」

 ナサニエルはよろよろと起きあがった。体に異常がないことを確かめながら雪を払う。赤くなった顎をさすり、何度か口を開けたり閉じたりしてから、彼は憮然として言った。

「その子どもが本物の精霊憑きなら、魔物避けにならない。逆に襲われやすいんだ」

 それは彼自身の経験に裏打ちされた言葉だったのかもしれない。妙な説得力があった。

 久鳳人の傭兵と一緒にいる子どもは、単なる精霊憑きではない。

「二人で行こう」

「おまえ邪魔だから待ってろよ。逸脱者っていうヤバそうなのがいるっていうぞ」

「ううん、行くよ。僕も確かめたいんだ」

 スイハが一歩も譲らない姿勢を見せると、ナサニエルはやれやれと首を振った。

「死んでも恨むなよ」

 彼らは迅速に行動した。

 スイハは馬車に積んだ荷物から携帯食糧や火種などを手持ちの鞄に移した。手のひらに収まるサイズの小刀を腰帯の裏に隠す。

「なんの準備だ?」

「捕まったとき自力で縄を切るくらいはできないと」

「馬鹿が。捕まる前に殺されるぞ」

「それはどうかな」スイハは鞄を体に密着させるよう帯を調整した。「ヤースン家の名前が役に立つ。身代金の交渉に使えるくらいはね」

 まず間違いなく父は自分を見捨てるだろうが、他人にそんなことはわからない。

 ナサニエルは呆れたように肩をすくめた。

「時間稼ぎをするから助けに来いって?」

「いざというときは頼りにしてるよ」

 スイハは笑って防寒着を羽織った。

 支度を終えていざ行かんと外に出たところで、セン=タイラに行く手を塞がれた。予想できたことではあったがスイハは微かに苛立ちを覚えた。

 二人の格好を見てセン=タイラは眉をひそめた。

「何をしに行くつもりですか」

 何をしに。的確な問いだ。行き先と目的を同時に聞き出すことができる。

「あなたには関係ない」

「あります。あなたの身に何かあれば、メイサ殿に顔向けできません」

 スイハは反抗心を抑えた。この数日間、否応なく不本意に行動を共にしたことで、少しばかり彼の存在に耐性がついたようだ。

 セン=タイラには、異国で自由に行動することを許される身分、階級、軍功がある。寡黙ではあるが他人との会話を忌避することはなく、真っ向から敵意を向けられてもそれを受け流せるふてぶてしさがある。

 目立った欠点がないことが憎たらしい。いっそどうしようもないほどの愚物であったなら、面と向かって罵倒できたものを。

 ――父を。

 スイハは目を伏せた。自分にとって一番気にくわない相手はセン=タイラではない。父をなじるだけでは晴らせない鬱憤を彼にぶつけていたのだ。

 もっともそれを自覚したからといって、態度を改めるつもりはないが。

「ついてきて欲しくないんです」

「あなたが私を嫌っていることは知っています。ですが、護衛一人では安全を確保するのに不十分です。外出は控えて下さい。あなたの行動は西州軍の責任問題に発展する可能性が……」

「――うるさいな!」

 スイハはセン=タイラを突き飛ばそうしたが、悲しきかな、圧倒的な体格差により逆に自分が後ろに弾かれるかたちとなった。

 一部始終を見ていたナサニエルがブッと吹き出した。スイハは羞恥心から来る震えを抑えて、唖然とするセン=タイラを睨んだ。

「タイラ。あなたがうちに来た日……姉さんが言ってた。話せて良かったって。安心した顔をしてた。それだけは、本当に感謝しています」

 カルグが床に伏せり、ホノエが姿を消してから、姉はずっと張りつめていた。兄たちが抜けた穴を埋めようとするかのごとく父の仕事を手伝い、〈狩り〉にまで行ったのだ。大変だっただろうし、打ちのめされることもあったろう。それでも、弟や妹に弱いところを見せまいと胸をそらして前を向く姉の姿は、痛々しいほどだった。

 姉の縁談相手がセン=タイラで良かった、とまでは言わない。だが彼の人間性に関しては、認めざるを得ないだろう。

「だけどやっぱり、僕はあなたが嫌いだ。あなたの言うことが正しいことくらいわかってる。覚悟の上でやってるんです。子ども扱いしないで下さい」

「国家の急務というやつですか」

「そうだと言ったところで納得なんてしないんでしょう」

「どれだけ立派な志も死んだら終わりです」

 歩み寄るつもりのない会話はどこまでいっても平行線だった。

 腕を掴もうとするセン=タイラの手をかわして、スイハはナサニエルにしがみついた。

「いいよ、ナサニエル!」

「はいよ」

 スイハは目をギュッと閉じて腕に力を込めた。

 足が地面から離れた。体が下に引っ張られるような感覚に襲われた。セン=タイラの声があっという間に遠ざかって、スイハはもう後戻りができないことを悟った。背中を掴むナサニエルの手だけが命綱だ。冷や汗が肌着を冷たく濡らした。

 耳元でごうごうと唸っていた風が、あるところでふと止んだ。

 肌を刺すような冷気に横っ面をなぶられながら、スイハはおそるおそる目を開いた。

 思わず感嘆の声が漏れた。

 薄い雲の向こうにうっすらと青空が広がっている。遥か彼方まで続く、一面真っ白に染められた西州の大地。スイハは恐怖も忘れて感じ入った。それらの光景は、地上にあるしがらみすべてを置き去りにしてしまうほど、目を閉じるのが惜しいと感じるほどに、美しかった。



「じっとしてろよ。暴れたら地面まで真っ逆さまだからな」

 起伏に富んだ山間の森林地帯も、上空からだと単純な地形に見えた。葉が落ちた黒い木々は地面に突き刺さった棘のようだ。地上に目を走らせていくと、山中にひっそりと佇む小さな集落があった。

「……ひどいな」

 ナサニエルの声は暗く、村がどういう状態かと聞くことがためらわれるほどだった。

 スイハは感覚のない鼻をすすった。カチカチと震える奥歯を噛みしめる。上空は寒いうえに空気も薄い。あまり長居しないほうがよさそうだ。

 耳鳴りまでしてきたとき、ナサニエルが言った。

「今の音、聞こえたか」

「え? 耳鳴り?」

「違う。あそこだ」

 何かを見つけたらしい。ナサニエルは予告なく滑空した。内臓が浮きあがる気持ち悪さを味わいながら、スイハは自分たちが向かっている目指す場所に目を向けた。

 その姿を見た瞬間、息が止まった。

 雪のような白い毛並みをした牡鹿が、首を伸ばしてこちらを見ていた。

 着地と同時に、スイハはどさっと雪の中に沈んだ。痺れた腕を振り回して、慌てて体を起こす。目を離した一瞬の隙に消えてしまうのではないかと思ったが、雪まみれになりながら起きあがると、牡鹿はまだそこにいた。

「……オリジン」

 ナサニエルが呆然と呟いた。

 驚きのあまりしばらく固まっていたが、スイハは牡鹿が妙な動きをしていることに気がついた。同じ場所をグルグルと歩き回り、こちらをチラチラ見ながら前脚で雪を掻く仕草をしている。

 何かを訴えているようだ。

 スイハはハッとして辺りを見渡した。

「ナサニエル!」

「でかい声を出すな!」

「ここ、雪崩が起きた場所なんじゃない?」

 雪が深い。近くに生えている木の幹もだいぶ上まで埋まっているように思える。スイハは雪まみれの足下を見ながら緊張して後ずさった。

「下に誰かいる……とか……」

 ナサニエルはすぐさま腕輪に手を添えて腕を前に突き出した。逆巻く風が厚く積み重なった雪を削り、少しずつ上空に巻き上げていく。

 スイハは雪の上に佇む牡鹿をまじまじと見つめた。

 真っ白い毛並みの上を光が走っている。きらきらと星が瞬く夜空のような瞳には、高い知性が宿っていた。二本の角は、気のせいだろうか、ほのかに光っているように見える。

 目が合った、と感じた。

 牡鹿がブルッと頭を振った。スイハは目を見開いた。

 ――角が、ない。

 一瞬のことだった。立派な角を戴いた牡鹿は瞬きをする間にその象徴を失い、一回り小さな牝鹿になっていた。

「ナ、ナサニエル!」

「出てきたぞ!」

 声が重なった。鹿のことはひとまず後回しにして、スイハは雪の上を這っていった。

 掘り返された雪の底に、人間がいた。

 男性のようだが俯せになっているので状態がわからない。助けなければ、と思ったが、手足が強ばって動かなかった。体が震えて言うことをきかない。喉がカラカラだった。スイハは雪を握りしめながら、穴の中に飛び降りるナサニエルを縋るような思いで見ていることしか出来なかった。

 ナサニエルが手を伸ばすより先に、その人物は自力で起きあがった。顔を覆っていた手を下ろす。スイハは目を凝らした。久鳳人だ。中年の男。灰色の髪は乱れ、顔色はひどく青白い。吐息が白くならないことから、体が冷え切っているのだとわかった。

 兵士が言っていた久鳳人の傭兵とは彼のことだろうか。

「おい! ぼさっとしてないで火を焚け!」

 ナサニエルに言われて、スイハは木の皮を剥ぎに走った。

 裂いた木の皮を燃やし、金属のカップに雪を入れてお湯を沸かした。

 久鳳人の男はどうにか自力で雪から這い出したものの、それ以上は一歩も動けなかった。

 ナサニエルは男の体を火の近くまで引きずり、紫色の唇にカップを当てて少しずつ湯を飲ませた。外と内から熱を加えて、死人のようだった顔に少しずつ血色が戻っていった。

 スイハは焚き火を挟んだ向かい側から男の背格好を観察した。

 服装は地味だ。旅の人らしく脚絆と手甲をしている。セン=タイラほどではないが平均以上の上背があるように見えた。体格はがっしりしていて、中肉中背のナサニエルが細く感じられる。血の気が戻りつつある人相は、一言で表せばおっかない。鋭い眼光は刃物の切っ先よりも物騒に見えたし、西州人とは身に纏う空気が明らかに違っていた。

 腰に差している鞘は空だった。雪崩に巻き込まれたときになくしたのだとしたら、直前まで誰かと戦っていたのだろうか。

 男は不躾な視線を向けるスイハのことを意に介さず、岩のように座り込んで湯を啜っている。九死に一生を得た直後とは思えないほど落ち着いていた。

 ナサニエルが、抜き身の刀を一振り手に提げて戻って来た。落胆した表情を見るに、どうやら白い鹿には逃げられてしまったようだ。

「あんたのだろ」

 男は刀を受け取り、数秒眺めてから音もなく鞘に収めた。

「感謝してくれよ。探すのに苦労したんだ」

「世話になったな」

 男が初めて口を開いた。低く落ち着いた、静かな声だった。見た目ほど恐ろしい人ではないように感じられて、スイハは勇気を出して言った。

「ゴジョウの宿場から来ました。スイハ=ヤースンといいます」

「ナサニエルだ。護衛に雇われてる」最低限の自己紹介だけして、ナサニエルは時間が惜しいと言わんばかりに本題を切り出した。「精霊憑きの子どもを連れた久鳳人ってのは、あんたのことだな?」

 男は表情を変えないままナサニエルとスイハを見やり、短く名乗った。

「トウ=テンだ」

 久鳳人は姓を先に名乗る。トウが姓、テンが名というわけだ。

 トウ=テンは強ばった指をほぐすように手を揉んだ。

「誰から俺のことを聞いた」

「西州軍の兵士です。あなたに助けてもらった……」

「子どもはどうしている」

 スイハが動揺して言葉に詰まると、彼は眉をひそめた。

「兵士たちと一緒に山を下りたはずだ」

「おれたちが宿場に着いたときはいなかった」ナサニエルが早口で答えた。「雪崩が起きたあと、あんたを捜しに山へ戻ったらしい」

 険しい面持ちで立ちあがったトウ=テンを押しとどめて、彼は立て続けに言った。

「さっきまで、ここに白い鹿がいたんだ。埋まってたあんたの居場所を教えてくれた。逃げちまったがな。どういうわけだ?」

 トウ=テンは怪訝な顔をしたあと、何かに気づいたようにナサニエルを凝視した。

 スイハは身震いした。寒かったからではない。トウ=テンから言い知れぬ圧力を感じた。背中に冷や汗が流れた。全身が粟立つような緊張感が、ビリビリと肌を刺す。

 ナサニエルもそれを感じたのか、ゆっくりと後ずさった。

 トウ=テンの手が刀の柄を握った。

「おまえたちは、なんだ」

 スイハはヒリつく喉から声を絞り出した。

「なにって、あの……そう言われても……」

「そこのヨーム人をコヌサで見た覚えがある」

 ナサニエルはまじまじとトウ=テンを見つめて、アッと声をあげた。

「あんた、あのときいた傭兵か!」

「まんまとヤースン家に取り入ったようだが、あの手の仕事を引き受ける人間を俺は信用しない」

 スイハはピンときた。〈狩り〉が始まる前、父は遺児の捜索を傭兵にやらせるよう姉に命じていた。しかし、ナサニエルが依頼を受けていたとは初耳だ。

「ナサニエル。どういうこと?」

「前金が欲しかっただけだ。そんなこと今はどうだっていいんだよ」

 ナサニエルは鬱陶しそうにスイハの質問を退けて、再びトウ=テンに向き直った。

「いつからオリジンを連れてる」

「なにを言っている」

「コヌサにいたときあんたは顔に腐傷を負ってた。治してもらったんだろ。ただの子どもじゃないってわかってるよな。どういう関係だ。ヨウ=キキに託されたのか?」

「やめるんだ、ナサニエル!」

 らしくもなく声を荒げるナサニエルを押さえて、スイハは真正面からトウ=テンを見上げた。緊張で息をするのも辛い。こちらを見返す眼差しの冷たさ、威圧感に気が遠くなりそうだ。しかし目をそらすわけにはいかなかった。

「僕たちは……」臆するな、と己を鼓舞する。「精霊憑きの子が一人で山に戻ったって聞いて、捜しに来たんです。ヤースン家は関係ありません」

「慈善家ぶるな。目的はなんだ」

 変に誤魔化したりすれば、彼の信用を得る機会を永遠に失う予感があった。

「腐傷を治す方法を捜すために、ヒバリへ行くところでした。あなたは……ヨウ=キキさんをご存知ですか。十六年前まで、西州公専属の医術師だった方です」

「……西州公?」

 呆然と呟く声が動揺で掠れていた。

 彼はヨウ=キキを知っているのだ。スイハは強気を出した。

「あなたが連れている子は、ヨウ=キキさんの子どもなんじゃないですか」

「知らん」

「嘘だ」ナサニエルが即座に言った。「あんたは知っている」

 トウ=テンは射殺すような目でナサニエルを睨み、二人に背を向けて歩き出した。

スイハは焦った。

「薬師のコスという人に会いたいんです」

 トウ=テンは振り返らなかった。

「――兄が、腐傷で死にかけています! 助けてほしいんです!」

 必死の訴えも、彼の足を止めることはできなかった。追う者を振り落とすような速さで進んで行く。

 スイハは急いで荷物をまとめて火を消した。

「追いかけよう」

「ああ。間違いなく当たりだ」

 視線でトウ=テンを捉えたまま、ナサニエルは乾いた唇を舐めた。

「あいつにはオリジンの加護がある」

「加護?」

「話はあとだ。急ぐぞ」

 言うが早いかナサニエルはスイハを担いで跳躍した。

 森は静かだった。静けさの中に内包された不穏な気配が、進むほど濃くなっていく。

 途中、遠目に西州軍の軍服を着た兵士が何人か雪の中に倒れ伏しているのを見かけた。まだ息があるかもしれないとスイハは希望的観測から訴えたが、ナサニエルは首を振って、もうどうしようもないのだという現実を少年に突きつけた。

 気持ちの上では努めて平静であろうとしたが、脇や背中に汗がにじんだ。

 スイハは倒れている兵士たちの姿をひとりずつ目に焼きつけた。自分は人に命令できる立場ではないが、要請を出すぐらいはできる。宿場に戻ったらヒバリにいる大隊長に連絡を頼んで、雪の中に取り残された遺体を回収してもらおう。そして必ず、家族のもとへ帰そう。

 漠然とした不安は、この先で何かが起きているという確信に変わっていた。

 空気に嫌な臭いが混ざった。略奪に遭った村に近づいている。もう目と鼻の先だ。前方を行くトウ=テンが、立ち止まって木の陰にしゃがんだ。彼はそこで初めてスイハたちのほうを振り向き、右手を下げた。

 スイハはナサニエルから降りて姿勢を低くした。膝上まで積もった雪の中、体を起こさないようにしながらトウ=テンのいる場所まで進むのは結構な重労働だった。

 トウ=テンは囁くように言った。

「迂闊に出るな。逸脱者に見られたら死ぬぞ」

 首を縮めながらスイハは困惑して尋ねた。

「戦うんですか? 子どもを捜すんじゃなくて?」

「無事ならとうに合流できている。捕まっている可能性が高い」

 確信を持って答えるトウ=テンの表情は険しい。

 ナサニエルが身を乗り出した。

「手を貸す。まずはどうする?」

 一瞬の間を空けて、トウ=テンは振り返らずに言った。

「略奪者の頭目はカーダンという傭兵だ。知っているか」

「カーダン……どこかで聞いた覚えがある。確か……」自身の記憶力に悪戦苦闘するナサニエルの姿は、どうにかトウ=テンの信用を得ようとしているように見えた。「何年か前……そう、サナンだ。賞金首だった。商隊を襲って積み荷を奪ったとか……」

「奴隷の売買にも手を出している男だ」

「反吐が出るね」

 さっきは一触即発だったのに、今はまるで仲間のように話をしている。切り替えが早すぎる二人を見ていると、スイハは自分だけ置いてけぼりをくったような気持ちになった。

 ナサニエルに倣って、スイハは内心ビクビクしながらトウ=テンに話しかけた。

「賊はまだここにいるんですか?」

 トウ=テンは風上の気配を窺いながら右手を握ったり開いたりした。

「やつは助けを求める仲間を雪崩に巻き込んで殺した。カーダンのような男が今まで捕まらずにいられたのは、その都度仲間を切り捨ててきたからだ。トカゲの尻尾のようにな。逃げるとしたら残りを始末してからだ」

 トウ=テンは立ち上がり、刀を抜いた。銀色の刀身に光の筋が走る。肩越しにナサニエルを見下ろして、彼は言った。

「命を救ってくれたことは感謝する。ここから先はついてくるな。仮にも護衛を名乗るなら、自分の主人を守ることだけを考えろ」

 スイハは引っかかるものを覚えた。

 この男は、本当にただの傭兵なのだろうか。

 子どもの安否がわからない状況で、焦りや苛立ちを完全に抑えている。言動や行動に無駄がなく、周囲に対する視野を失っていない。鉄の自制心だ。彼から受ける印象は粗野な傭兵というよりもむしろ、セン=タイラのような軍人を彷彿とさせた。

 スイハは根拠のない想像を急いで振り払った。

「僕たちも行きます。トウ=テン」

「駄目だ」

「邪魔はしません。あなたが戦っているあいだに、僕たちはその子を捜します。見つけて必ず守ります。そのほうが集中できますよね?」

 怜悧な眼差しからは感情が読めない。逆に、こちらの心の内を覗かれているような気持ちになる。

「賊はあと五人。その中に逸脱者がいるかもしれん。途中でかち合ったら、どう切り抜ける」

「おれが何とかする」ナサニエルが言った。「これでも一応、護衛だからな」

「力の使いすぎは命に関わるぞ」

「舐めるな。師匠の名にかけて、そんな無様な死に方はしない」

「師とは誰だ」

「〈竜殺し〉」

 トウ=テンはナサニエルを二度見した。

「わかった。殺しはするな」

 竜殺しの意味も、トウ=テンが納得した理由もスイハにはわからなかったが、ナサニエルに人殺しをするつもりがないことにホッとした。

「注意を引きつける。そのあいだに生存者を捜せ。見つけたら連れてすぐに離れろ」

 言うなり、トウ=テンは矢のように飛び出した。膝の高さまで積もった雪の上を音もなく駆けて行く背中は、あっという間に見えなくなった。

 信用してくれたのか、それとも、子どもを無事に助けられる可能性が高い方法を選んだだけなのか。

 スイハは隣から肩を叩かれた。

「おれたちも行くぞ。離れるなよ」

 二人はこそこそ村に近づき、民家の裏に身を潜めてトウ=テンが行動を起こすのを待った。じきにパン、と、辺りに乾いた破裂音が響いた。遠くから痛みにうめく声、言葉にならない不明瞭な叫びが聞こえた。

 ――はじまった。

 ナサニエルと顔を見合わせて頷き、スイハは立ちあがった。

 住民の消えた村は、不気味に灰色がかって見えた。

 雪が殺戮の痕跡を覆い隠したとしても、起こってしまった悲劇を消し去ることはできない。近くの家屋の玄関から、赤黒い染みが広がっていた。ナサニエルの制止を無視して中を覗いたスイハは、絶望的な気持ちになった。そこには、色を失った、かつて人間だったものがいくつも転がっていた。

 女子どもに至るまで一人残らず、殺されたというのか。

 掻きむしりたくなるほど胸がムカムカした。喉が張り裂けんばかりに叫びたい衝動にかられた。もしも一人でこの光景に直面していたら、とても正気を保てなかっただろう。

 スイハは死体の山から顔を背けて、大きく息を吐いた。

「……次に行こう」

「前に出るな。離れずについてこい」

 その家屋を離れる寸前、ナサニエルが異国の言葉で何事か呟いた。死者への祈りだろうか。そうであればいいなとスイハは思った。

 一軒、二軒と、彼らは素早く順番に家々を回っていった。どこもかしこも、床板までひっくり返したような有様だった。食糧を奪うだけでは飽き足らず、金目になるものを探して根こそぎ荒らし回ったのだろう。

 五つめに入った家屋は、他の家より比較的広かった。火を焚き、飲み食いをしたあとがある。村人を虐殺した賊がここで寝泊まりをしていたことは想像に難くなかった。

 ここは念入りに調べたほうがいい。顔を見合わせながら頷いて、スイハはナサニエルと手分けして家中を調べた。

 居間の奥は炊事場になっていて、村中から集めたであろう食糧や金品が乱雑に積まれていた。人の姿は見当たらない。スイハはしゃがんで、床に散らばった穀物の粒を摘まんで眺めた。いわゆる種籾というやつだろうか。ほつれた麻袋を拾い、ふと気づく。床板に仕切りのような切れ目がある。

 スイハは略奪品の山を脇に除けた。思った通り、貯蔵庫の取っ手が見えた。実家の氷室は複数人が入れるほどの空間があったが、ここはどうだろう。

 床をコツコツと叩いて反応を窺った。何も聞こえない。さもありなん、こんなところに人がいるわけがない。ただ、何かを隠すには打ってつけの場所に思えた。確認だけはしておこうと取っ手に指をかけた。

 蓋を開いて中を覗いた、次の瞬間。全身の血の気が引いた。

 貯蔵庫の底に、誰かいる。

 暗闇の裾から生白い足が覗いていた。素足だ。地下は暗く深く、生きているか死んでいるか、ここからは判別できない。確かめるには梯子を降りなければ。

 心臓が激しく波打った。さきほど見た凄惨な光景が瞼の裏に蘇る。どうしても一人で行く勇気が出なくて、バクバクと音を立てる胸を押さえながらスイハはナサニエルを呼んだ。

「下がってろ」

 スイハを後ろに下がらせて、ナサニエルは貯蔵庫の中を明かりで照らした。横からでは何も見えず、スイハはもどかしく尋ねた。

「どう?」

「……下りるのはおれだけだ」穴の中を凝視する横顔は、強ばっている。「おまえはここで誰か来ないか見張ってろ。いいな」

 スイハは開け放たれた貯蔵庫に背を向けた。炊事場の入り口から居間を眺めながら、ナサニエルが戻るまで、誰かが家の中に入って来ないことを願った。

 自分の心音が耳のすぐそばで聞こえる。ふとした瞬間に、息の仕方を忘れそうになる。

 ――びびってるんだ。

 村人のなれの果てを見てからだ。気持ちが萎縮して体が竦んでいる。

 深呼吸しながら、自分がなぜここにいるのか目的を反芻する。少しだけ落ち着いた。とはいえ、怯えは抜けない。貯蔵庫の中にいる誰かは、生きているだろうか。死んでいるのだろうか。死んだ人を見るのは怖い。それがヨウ=キキの子どもだったら最悪だ。生きていることを願うしかなかった。

 一分一秒が果てしない長さに感じられた。今にも、そこの戸を蹴破って誰かが入って来るかもしれないと、想像しただけで膝が震えた。

「おい、手を貸してくれ」

 スイハはビクッとした。振り返ると、ナサニエルが穴から頭を出していた。

「どうだった」

 平静を装おうとしたが、みっともなく声が掠れた。

 ナサニエルは笑わなかった。

「いたぞ。オリジン……白い髪の子どもだ」

 反射的に尋ねた。

「無事?」

 ナサニエルは一寸、口ごもった。

「――一応な。ただ、足を撃たれてる。下から持ち上げるから引っ張り上げてくれ」

スイハは呆然と、梯子を下っていくナサニエルを見送った。

 ――生きてる。

 痺れた頭でその意味を理解するのに数秒かかった。

 よろよろと貯蔵庫を覗き込む。ナサニエルが灯した明かりが暗闇を照らしていた。

 深さは目算でおよそ二メートル半。広さは四畳ほど。崩れないよう木枠で最低限の補強はされているようだが、床は土が剥き出しになっている。炊事場に積まれている食糧の一部は、ここから運び出されたものなのだろう。頬に触れる空気は外より冷たい。

 ナサニエルに抱えられた人物は小柄だった。髪色は暗がりの中でもわかる白さだ。怯えているのか寒さゆえか、体をギュッと縮めている。撃たれたのは左足だろうか。衣服に血のような染みが広がっていた。

 貯蔵庫内にナサニエルの声が響いた。

「両手で梯子を掴むんだ。おれが下から押し上げるから、あと少しだけ頑張ってくれ。そうしたらスイハが引き上げる」

 穴の淵で待機していたスイハは、梯子を掴んだ華奢な指に動揺した。

 ――女の子?

 うろたえているあいだに一段、また一段と近づいてくる。

 心の準備をしている暇はない。

 スイハは意を決して手を伸ばした。

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