第2話 白花の行動力

黒蜜さんはラフな格好だった。

キャミソールにショートパンツ。いかにも部屋着オブ部屋着。

私の知っている黒蜜さんは黒髪だったのだが、今目の前にいる黒密さんは金髪だった。そしてところどころにあざがある。


黒蜜はちこ。

中学時代、彼女は優等生として有名だった。ベタにも黒髪ロングを三つ編みにして大きな丸メガネを使った容姿は一周回って黒蜜さんにふさわしい格好と言えた。

黒蜜さんは、成績優秀者で教師から一目置かれていた。それに加え、眉目秀麗で凹凸のあるプロポーションというおよそ欠点を見つける方が難しいのが彼女の欠点とさえ思えた。

個人的にはあの胸の半分でも私の胸に分けてほしいものだ。私もここ数年で結構成長した方なのだが…上には上がいると思うと私の細胞たちに喝を入れたくなる。

ガンバレおっぱい。


ところがそんな完璧な黒蜜さんはどこにもいなかった。

ギャルというか、ヤンキーのような容姿のお姉さんが目の前にいる。

これがあの黒蜜さんとでも言うのだろうか。

「黒蜜さん…。」と私がポツリと言うと

「あれ白花じゃん。」と返ってきた。

黒蜜さんの声だ。だが、なんというか私の知っている黒蜜さんではなかった。


「急にどした。なになにww まああがってよ。」

複雑な気分だった。

あざ…。それに無理に元気ぶっているように見える。


×××


玄関からすでに気付いていたが遠慮なく言わせてもらえば…汚かった。

あちこちにゴミ袋。靴も何足もあって靴の山が出来ている。

「…お、お邪魔します。」

「ふふ。遠慮しないで。汚い場所だから」

本当に汚かった。

もうすぐゴミ屋敷になろうとしているところだろうか。

脱ぎっぱなしの衣服。食べた後の皿。総菜もののパック。お菓子の袋。ペットボトル。エトセトラ…。

まだ、地面が見えるだけマシと言うレベルだ。これはよくない兆候なんだろうか。


黒蜜さんは足で床の残骸をどかすと立てかけてあったちゃぶ台をセット。そこに座布団を用意してくれた。私が座ると黒蜜さんも向かい側に座る。


…。


二人して黙る。

中学時代仲が良かったとはいうが…せいぜい話をするクラスメイトという認識だったし、実際高校に入ってから同じクラスだったのにろくに話をしていない。仲はいいけどプライベートで仲良くってほどではなかったと言えばいいのだろうか。卒業して会う機会がなければそのまま疎遠になるというありがちなパターンになるだろう…そういう仲だ。

まぁ途中から黒蜜さんが休んでいたから物理的に無理だったのだけど。


「ごめんね。お茶もなくて。」

「あ、いえ…お構いなく。」

「んで、なんかよう? 白花とは久しぶりに話する気がするわ。」

「あ、うん。…」目を逸らし伏せる私。

「?」それを不思議に思う黒蜜さん。

訊きたいことが山積みだ。別に訊きたいものなどなかったはずなのに。

ここに来てから山ほど聞きたい。

私は意を決して訊ねた。

「あ、あの前と雰囲気…変わったね。」

「あー…まぁね。ちょっとしたトラブルっていうかね。いわゆる家庭の事情という奴ですよ。」


…。

私はよくメンタルが強いなどと言われる。感情を表に出すことは少なく、冷静な判断ができる子だとさんざん言われてきた。

そういう自覚はないが、他人よりも冷めていると思うことがたまにある。

…それでも、私は鬼ではない。

黒蜜さんの身体にあるあざを見て思うことはあるし、家庭内で何かあったのかは明白だ。ただ、相手が濁して話を逸らしている以上追及は野暮だ。


世間話を少しした。最近熱くなってきたとか、流行のゲームやファッション。流行中の料理なんかについて教えてくれた。私はその辺の流行物に疎いのでいい刺激になった。有益な時間だったと言えよう。

その後、それとなく先生が心配していたことを伝える。これが本題なわけだし。

伝え終わると私は、その後すぐにアパートを出た。傍から見たらただ、お話をしに来たようなものだろう。黒蜜さんもそう思ったのか

「結局、話をしにきただけだったね。」と言ってきた。

私はその返事をせず、黒蜜さんにこう答えた。


「…また、明日。」


ふつふつと胸に何かを残したまま黒蜜さんのアパートを出た。









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