あやしげな後編

「おーい、ノエルー」


 馴れ馴れしく手を振ってくるルカに、ノエルは思わず後込しりごみした。


 自分は〈魔女狩り〉という素性を隠してクオの監視任務にあたっている。

 むやみに他の生徒と親しくする必要なんて──


「! ひょ、え、ノエル……!」


 と、そこへルカの膝枕になっていたクオが、驚いたように肩を跳ね上げ、首をブンと勢いよく下げて一礼してきた。

 反応が大げさだ。


「……どうも。何してんだ、あんたら」


 二人の視線を受け流すタイミングをいっしたノエルは、二人のいるベンチの前に立った。

 ルカがへらっと力の抜けた笑みで、クオのふとももにころんと寝転びながら、


「ふふー、いいでしょ。見ての通り、クオのふとももでフカフカしてるんだよ」

「よくわかんねえよ」

「あ、えとあの、のえ、ノエルこれはその……く、訓練を、しておりまして……っ」

「訓練だと?」

「あ、はい……えとあの、実は……」


 怪訝けげんな表情のノエルに、クオは何やら深刻な目で見上げてきた。


「じ、実はわたし、人前でひどく緊張してしまう、のです」


「……あ……?」


 ──いや、それ『実は』って話か? と内心よぎるノエルに、クオはさらにまくしたてた。


「ルカに相談をしてみたところ、克服するための訓練を、ひみつで──

 ふゃひゃっ」


「そうそう、それそれ。クオのための『訓練』だよ」


 ルカは相槌あいづちを打って寝返ると、クオのふとももに頬をこすりつけるようにしながら、


「クオが『ヒトとの接触に慣れたい』? みたいな感じのこと悩んでる? みたいだからさ、こうして色々触ってるんだー。

 悩めるともだちのために、ぼくは一肌脱いでるってわけ」


 と、指先でつぅっとクオの膝を撫でていく。


「いや、『一肌脱ぐ』って使い方違うんじゃ」

「まあまあ、肌を触ってるからいいじゃない」


 なにがいいんだ、と内心つぶやくノエルにかまわず。

 ルカはクオの黒タイツに指を滑らせ、スカートのすそへ、さらにふとももまで辿たどっていく。


 足から迫るぞわぞわする感触に、クオがびくーっと全身を振動させた。


「ふ、ふゃややややぅ……っ」

「こらこらクオ、ぼくただ触ってるだけだよー?」

 ルカはくすっと目を細めながら──今度はふとももから膝を、するりと撫でながらささやく。


「そんな声出しちゃだめなんだよ」

「~~~っ、んんん~……っ」


「こ……っ、こらああああああ⁉」


 とうとうノエルが声を荒らげた。

 真っ赤な顔でもだえているクオの足に、まだ指をわせているルカへと詰め寄る。


「ルカおいっ! 止めろそのヘンな訓練! つーか訓練じゃねーだろが!」

「ええー。ちゃんとした訓練だよ。こうやってクオのいろんな所を触って、クオの身体がびよよんって反応するのを眺めながら、クオのふとももでフカフカして、」

「ねぇよそんな訓練! おまえが楽しんでるだけじゃねえか!」

「そんなことないよー。ねークオー」

「ふゃっ、はいっ、あの、ノエルっ、そんなことはないのですっ」


 ルカの接触──いや、くすぐりに耐えつつ、クオはがやけに必死な表情で見上げてきた。

 色々こらえているせいか、力をこめた大きな目をうるませながら、


「る、ルカはわたしの相談を聞いてくれまして、こ、こうして訓練にも付き合ってくれまして、決してノエルが心配することはないのです、のでっ」


 なぜかクオは切実な表情でルカをかばうので、ノエルがたじろいでしまう。


「いや、心配っつーか、何か違うだろ、その訓練……」

「そ、そそそんなことは──ふゃっ」

「こちょこちょ」


 にんまり顔のルカが、会話を遮って本格的にクオをくすぐり始めていた。


「ぷふっ。クオってば、このくらいで反応しちゃだめだよ。

 接触に慣れるんでしょー?」

「ひゃ、ひゃい……な、慣れます……っ、ふゃ、ぅぅー……っ」

「よしよし、じゃあ次は脇腹をこちょこちょ」


 ルカはにんまり笑顔でさらにクオの身体中をちょんちょんとつついている。


「ひゃぅ……っ!」


 姿勢よく座った体勢を維持しつつ、真っ赤な顔で『接触』に耐えるクオ。


「──て、こんな訓練あるかあ!」


 なぜか見ているとむずがゆくなる──

 奇妙な光景に、とうとうノエルは大声をあげていた。

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