44_再会

 15分後、吉田さんのスマホに着信が入った。080-58……花帆の番号だ。


「もしもし、吉田です。折り返しありがとうございます。はい、ええ……そうです。ええ……」


 吉田さんが懸命に説明してくれている。今なら俺とタクに会えると。実際会ったら、絶対に納得出来る話が聞けると。白石さんを後悔させたくないんです、と吉田さんは親身になって言ってくれた。


「今バイト上がったところだって。来てくれるって、彼女」


「ありがとう、吉田さん。何てお礼を言えばいいやら……本当にありがとう」


 俺は何度も礼を言った。


「もういい、もういい。それより白石さんとの結果の方が大事でしょ。……あと、タクさん。手首切るのはもうやめてね。心臓弱い子なら止まっちゃうよ、あれ」


 タクは笑顔で頷いた。



 花帆が来るまでの時間、俺たちの口数は少なくなった。ちゃんと信じて貰えるだろうか? そんな不安が皆にあるのだろう。


「結構、時間経ったね。来るの戸惑ってるのかもしれないね」


 とっくに着いてもおかしくない時間だが、花帆はまだ来ない。


 コン。 コン。


 その時ドアをノックする音が聞こえた。スニーカーを履いている事が多い花帆は、静かに階段を上がってきたのだろう。


「わ、私が出る。ちょっと待ってて」


 吉田さんが開けたドアの向こう側に、花帆が見える。消え入りそうな「こんばんは」という声が聞こえた。



 俺とタクは、部屋に入ってきた花帆を立ち上がって出迎えた。俺たちの顔を交互に見る花帆は、どう反応したらいいか分からない様子だ。


「白石さん、久しぶり。こんな事になって本当にごめん……俺と拓也の事、今から全て話すから。よかったら座って」


 そのまま座ろうとする花帆に、「コート脱ぎませんか? こっちに置いておくから」と、吉田さんが促してくれた。コートを脱いだ花帆の首元に、俺が贈ったネックレスは無かった。



「拓也よりは聞きやすいと思うから……俺から話すね」


 花帆は視線を宙に浮かせたまま、微動だにしない。


「話を始める前に、一つだけお願いがあるんだ白石さん。途中で席を立ちたくなるような、信じられない話が何度も出てくると思う。だけど、一つの物語、いや、一つの作り話と思って貰ってもいい。とにかく、最後まで聞いて欲しいんだ。俺の話が終わるまで」


 大きく息を吸った花帆は、一拍おいて小さく頷いた。


「俺はね……こう見えて人間じゃ無いんだ。……あ、お、落ち着いて白石さん」


 吉田さんが立ち上がりかけた花帆をなだめてくれた。


「生まれはどこだか分からないけど、中国のオンラインモールで売られてた。日本円で4万円くらいかな。それを拓也が買ってくれたんだ」


 タクは花帆の反応を見ている。


「これが、俺が入っていた箱。元々は30㎝くらいの大きさだったんだ。そして、拓也が俺を起動させた事で、俺は拓也のコピーロボットになった」


 RC-AVATARのパッケージを片手に、タクは続けた。


「昔の拓也を憶えてる? 俺と最初にカラオケに来た時の拓也。ここにいる吉田さんも一緒だったよね。コピーロボットになった瞬間は、俺も昔の拓也だったんだ。言い方は悪いけど、小太りの。でも面白い事に、このロボットは見た目を変える事が出来るんだよ。拓也は自分の理想を俺に当てはめたのかな。今、白石さんの目の前にいる、この姿に俺を変えたんだ」


 RC-AVATARのパッケージを隅に追いやり、今度はゴーグルのパッケージを花帆の前に置いた。


「あと、大事なことなんだけど、俺はこんな風に1人で動く事も出来るし、今は訳あって箱しか無いんだけど……この箱の中にあったゴーグルで、拓也は俺を操作することも出来た。……ここまで大丈夫?」


 花帆は何も答えなかった。

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