06_嫉妬

「斉藤さん、新しい女の子入ってくるの今日っすよ。めっちゃ可愛い子だって。店長が昨日言ってました」


「そうなの? 山岡くんチャンスじゃん」


「いや、店長と俺、全く趣味合わないから。多分、俺好みじゃないと思いますけどね。アハハハ」


 カラオケのバイト、今日も中身は俺だ。バイトも今日で2週間ほどになる。ここ最近は、山岡との会話もかなりフランクになってきた。


「そもそも、その子26歳なんですって。俺やっぱ年下の方が好きだし」


「ああ、そうなんだ。彼女何時から? 山岡くんと入れ替わり?」


「ですです。18時からなんで、斉藤さん教育係たのんますよ!」


 店長と山岡は本当に仲が良い。とは言え、履歴書の内容まで漏らすのはどうかと思うが。それにしても、バイト2週間目で教育係になるとは思わなかった。まあ18時からは3人体制になるから、何とかなるだろう。



 17時40分頃、緊張した面持ちで一人の女性が入ってきた。きっと彼女が、新しいバイトさんなのだろう。


「こんにちは、今日からお世話になります白石と申します……」


「白石さんですね! 店長から聞いてます。どうぞどうぞ、更衣室こちらっす」


 俺の時と同じ台詞で、山岡が彼女を更衣室へ連れて行く。俺も目が合ったので会釈だけしておいた。


「どうっすか斉藤さん! やっぱり俺の好みじゃ無かったけど、めちゃくちゃ可愛くないっすか?」


 戻ってきた山岡が肘で俺を小突いてくる。


「う、うん、可愛いと思うよ。ウチって男性店員多いし、良いバランスになるんじゃない?」

 

「ええー、あの子でもその程度っすかー。どんな子がタイプなんだろ斉藤さん……あ、107号室出ましたね。片付け行ってきます」


 いや、俺が行くよ、と返したものの、「もうすぐバイト上がりっすから!」と言って山岡が行ってしまった。なんだかんだ言ってテキパキ仕事をする男だ。


 山岡にはあんな返事をしたものの……


 白石さん……ドストライクだ……



「初めまして、白石です。今日から宜しくお願いします」


 制服に着替えてきた白石さんは丁寧に頭を下げた。髪型はショートボブって言うんだろうか、頭を下げた時に、毛先がふわりと揺れた。


「初めまして斉藤です。俺も入ってまだ半月ほどなんで、分からない事まだまだありますけど。こちらこそお願いします」


 そう言って少し微笑んでみた。固い笑いになってなかっただろうか。


 平日にしては珍しく来客が重なり、18時から入ってきた沢田君と俺は、止まる事無く動き続けた。白石さんに教える時間は取れなかったが、彼女なりに空いた部屋の片付けや、注文があったドリンクなどを積極的に運んでくれた。普段から機転が利く人なんだと思う。


「すみません、出来ればいている時間帯に出勤して、最初は仕事覚えてって言われてたんですけど、どうしても18時からしか時間を空けられなくて……」


 やっと落ち着いたタイミングで、白石さんが話しかけてきた。


「いやいや! この店、研修に時間も割かないし、全然気にすること無いですよ。片付けやドリンクとか走ってくれて、ホント助かりました」


「いえいえ、そんな全然……」


 白石さんはそう言って、顔の前で小さく手を振った。


「とりあえず、105の部屋だけ見ておいてくれますか。今片付け終わったとこなんで、リモコンなんかの正しい並べ方だけ覚えておいてください。スマホなんかで撮っておくとラクですよ」


「はい! ありがとうございます!」


 そう言うと白石さんは105号室へと駆けていった。



 俺は20時に店長と入れ替わりで店を上がった。白石さんの上がりは22時だそうだ。タクと白石さんの話をしたい事もあり、帰路は自然と早足になった。


「なあ、タク。どうだった? 白石さん」


「どうもこうもドストライクでしょ。拓也と一緒だよ」


「前から気になってたんだけどさ、俺を差し置いてでもタクが付き合いたい! とか、あったりするの?」


「アハハ、ないない。コピー元のマスターが困ったり嫌がったりする行動はしない。説明書に書いてたでしょ?」


「ああ、読んだ事は読んだけど……じゃ、欲望とかそんなのは無いわけ?」


「んー、飯とかセックスの三大欲求は全く無いんだけど、承認欲求なんかは不思議とあるような気がする……俺自身もよく分からない事、結構あったりするんだよね」


 タクと会話してると「本当に俺のコピーなの?」と思う事が度々ある。


 FXの考察にしてもそうだが、俺より明らかに頭が良い。独り立ちして貰うにはその方が安心なのだが、ルックスも上のタクに対して、時々劣等感も覚えたりする。


 未だにタクを一人でバイトに行かせないのは、そのせいもあるのかもしれない。

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