第35話 『悪役令嬢物語』①【瑤視点】

――どことも分からない『真っ白』な世界。


 本当に白い空間以外、なにもなかった。二人・・を除いては。横たわる一人の女性。その隣には、背中に一本のナイフが刺さったままの男。


 かつて、“西蓮寺 瑤”とジョルジュと呼ばれていた存在だ。


 ジョルジュは一見事切れてるように見えたが、厳密には死んでない。ナイフを通して、瑤が魔力を流すことで『無理やり』生かされていた。

 父親を手に掛けたナイフで、散々利用していた巫女により『死ぬことすら』許されない。己の所業が、そっくりそのまま返ってきた。


 そんなジョルジュの頭を『優しく』撫でながら、瑤は『愉悦』に浸っていた。


「フフ……ジョルジュ、私が『創った世界』は気に入ってもらえたかしら? よかったじゃない、長年の『夢』が叶って。ここなら、だーれも『邪魔』は入らないわ」


 瑤の『封印』は絶対に近く、何人なんぴとたりとも侵されない『真の聖域』だ。


「さて、私の『計画』も無事に完遂したわ。多少の『誤差』はあったけど、修正の範囲内だったしね。え? 私の描いたシナリオが気になるですって? いいわ、じっくり話してあげる。時間はたっぷり・・・・あるしね」


 瑤はゆっくりと語り出した。



 ◇ ◇ ◇


 西蓮寺 瑤は、都内でも有数のお嬢様校に通う才媛だった。エリートの両親を持ち、幼い頃から何でも卒なくこなしてきた。

 親の敷いたレールの上を淡々と歩む。瑤自身も特に疑問に思わなかったが、若干『退屈』だな……と思っていた。


 そして、交差点に差し掛かった時……。


 会ったこともない娘と共に、異なる世界へと『召還』された。最初は何かの『冗談』かと思ったし、一晩経てば『夢』から覚めるだろう。

 だが状況は変わらず、これは『現実』だと認識せざるを得なかった。瑤はすぐに皇子ジョルジュに詳細を問い詰めた。


 返答は、昨日とほとんど変わらなかった。やはり『歪み』をどうにかしなければ、還してもらえそうにない。


 しかしここで、瑤に一つの『疑問』が生じた。皇子は口では還すと言ってるが、根拠はどこにもない。このままなし崩れで、利用されるのではないかとすら思う。


 そこで瑤は、表向きは従うフリをする『面従腹背めんじゅうふくはい』の姿勢でいこうと決めた。

 まずは『帰還方法』を探る為、この世界に『適応』する必要がある。ここでは『魔力や魔術』など、ゲームみたいな要素があった。


 瑤は最初は面食らった。なんせ家にゲームはもちろん、テレビすら自室になかった。だが瑤はものの一週間で、ほとんどの魔術をマスターした。

 講師からも「これ以上、教えることはない」と言われ、これには皇子も太鼓判を押した。瑤自身も魔力は、応用次第で『貯める』ことが出来ると知った。


 が、ここで『問題』が生じた。最初に浄化に赴いた際、怪しまれない為にも真面目にやってみた。予想外の魔力を消費して、今まで貯め込んだ魔力がパーになった。


 これは『計算外』だった。以降、瑤は適当な理由をつけて、浄化をサボるようになった。『帰還』が第一目的なので、別にこの世界がどうなろうが知ったことではなかった。



 そして、一月ひとつきほど経ち、あの『事件』が起きた。それこそ瑤の『今後の方針』を揺るがす出来事だ。


 皇子にしつこく頼まれて、瑤は気は乗らなかったが、ある湖畔の浄化に向かった。しかもどういう訳か、適性ゼロと判断された星見 結愛まで同伴していた。


……本当にこの皇子サマは、考えが読めないわね。


 瑤は内心、嘆息した。いかに魔力を温存すべきか? と考えてたが、状況は一変。まさか命の危機に直面するとは。

 そして、星見 結愛のあの力……王城に返ってから瑤は皇子を問い詰めたが、知らぬ存ぜぬの一点張りだった。


 その後、すぐに軍法会議が開かれ、星見 結愛は満場一致で王国を追放。あんな『得体の知れないモノ』を留めておくわけにはいかなかった。

 同時に瑤は、スマホを使い『あること』を熱心に調べ始めた。普段は連絡用にしか使わないから、充電がほぼフルだったのが幸いした。


 世界は異なるが、既存の情報ならネットで調べることが出来た。瑤は『異世界』や『追放』など、身近に起きたことを片っ端から調べ上げた。

 それによると、追放された側は一時的に不遇な状態になるも、いずれ成り上がるらしい。一方、追放した側は徐々に衰退していくとか。


「いかにも『創作』ね。クビになるのは、そいつが『無能』だっただけでしょ。会社が潰れたとか、聞いたこともないわ」


 まぁ一応、頭の隅には留めておこう。なんせここは、非現実ファンタジー世界なのだから。もう一つ、瑤が気になったのが『悪役令嬢』というワードだ。


 ヒロインのライバル的ポジションで、最終的には『破滅』を迎えることが多い。この時、瑤はして気にしなかった。


 自分がこの『属性』に当て嵌めると自覚したのは、もう少し後のことだった。 

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