第6話 『歪み』

 私が召還されてから、一ヶ月ほどが経ったある日のこと。私は大臣に呼ばれて、とある仕事を半ば押しつけられた。

 内容は巫女のはるかと皇子のジョルジュが、近場の森に『浄化』に向かうので同行しろだってさ。


 もちろん断ったけど、皇子の勅命ちょくめいだかなんだかで従うしかなかった。私の仕事が減るわけじゃないから、本当にイヤになっちゃう(;-ω-)


 大臣によると、皇子が「曲がりなりにも、光の巫女と同時に召還されたのだ。何かあるハズだ。ハルカの『浄化』をの当たりにすれば、新たな能力に目覚めるやもしれぬ」だって。


 当日は瑤と皇子は馬車で移動、私は最後尾で『荷物持ち』だ。少しでも遅れると、護衛の兵士に文句を言われるし。

 おまけに他のメイドからは、いいよねぇサボれてとか陰口を言われてる。なんなら、代わってもいいよ?


 ◇ ◇ ◇



 やっと『現場』に着いた。馬車は鬱蒼うっそうとした森の中を淡々と進んでいく。昼間なのに薄暗いし、本当にここで合ってるの?

 ちなみに瑤は、既に何度か浄化を成功させてるみたい。たったこれだけで、贅沢な暮らしを送ってるんだからいいご身分ね┐(´д`)┌


 やがて、開けた場所に出た。そこで、私は目を疑う光景を目撃した。


「何……これ…………?」


 目の前には、静かな湖畔こはんが広がっていた。ただし、湖面は何やら『得体の知れないモノ』にむしばまれていた。これが『歪み』なの……!?


 ポッカリと広がる『ソレ』は、光でも闇でもない。まるで、存在を否定するかのような『虚無』だ。うぅ……ずっと眺めてると、頭がおかしくなりそうだよぅ(;゜Д゜)


「フム? しばし『放置』してたら、ここまで広がっているとは。ハルカよ、頼むぞ」

「ええ。最近は気が乗らなかったけど、ジョルジュが頼み込むものだから浄化してあげるわ」


 えぇ……!? それだけの理由で、今まで放ったらかしにしてたの? 多分、多くの生物が犠牲になったでしょう……。人的被害が出てないのは、奇跡だよ。


 全く光の巫女が、聞いて呆れるね。瑤は目を瞑り、意識を集中した。そして、キッと開眼しながら『虚無』に手をかざした!


――シーン。


 特に何も起こらない。瑤本人も首を傾げた。なーんだ、威張ってる割には大したことないじゃん。その矢先……


――ズズズズ……!


 『虚無』が揺らぎ、なんと私たちに襲い掛かってきた! まるで意思を持っている・・・・・・・・かのように……!


「これは一体……!? ハルカよ、まさか手順を間違えたのかっ!?」

「そんなワケないでしょ! 誰にモノを言ってるの!? 私もこんな現象、初めてよ!」


 混乱する二人。『虚無』は緩慢ではあるが、こちらに接近している! このままでは、全員が呑み込まれちゃう!


「くっ……!? 我らは、“世界の均衡”を保たねばならぬ! ここで果てるわけにはいかぬのだっ」

「ジョルジュ、落ち着いて! 居るじゃない? 私たちの身代わり・・・・に打ってつけなのが!」


 え……? なんで『こっち』を見てるの? 私は慌てて視線を逸らしたが遅かった……。

 ガシッ! ジョルジュが私を羽交い締めにした。ちょっと!? 絶対に異性と付き合ったことないでしょ!?


「そうか! 今、合点がいったわ。ユウナよ、貴女は光の巫女の『替え玉』となるべく召還されたのだなっ!?」


 いやいやいやいやっ!? なんでそうなるの! アンタら、おかしいでしょ!? 前から思ってたけど!


むしろ感謝なさい! 私と皇子の為に『犠牲』になって、名を遺せるのだから! ジョルジュ、せーのでいくわ!」


 せーの、じゃなくて! アンタら、人の心とかないの!?


 私は無残にも、瑤とジョルジュに『虚無』の中に放り込まれた。その瞬間……!


――キュポーン!


 私と接触した瞬間、虚無は呆気なく霧散した。恐るおそる目を開けてみると、湖畔は静寂に満ちていた。まるで、始めから何もなかった・・・・・・かのように。



 のは何……?


 私はただただ、呆然とするしかなかった……。

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