浮遊するジェンダー・アイデンティティ

 男性の主人公が同性?に告白して、そして振られたという過去があります。主人公は大学院生という、社会的にはまだ何者でもない存在で。そして主人公の性同一性(ジェンダー・アイデンティティ)も、同様に、まだハッキリとしない状態なのでしょう。

 水戸の美術イベントを主人公が観に行って。徳川斉昭が「魂が」、「陰と陽の世界を体験するような」道を作ったというエピソードが挟まれます。これも話のテーマが、上記の性同一性の問題だからでしょうか。

 美術イベントで、水草のように、男性器が揺れている映像が出てきて。これは男性主人公が、性欲を誰にもぶつける事ができず、社会の中で居場所を見つけられず孤独に浮遊している状況と重なっているようです。

 問題は解決されず、雨に濡れた長靴の中では、雨水が不快に溜まっています。それは吐き出されることのない精液のようで、最後に主人公は、濡れた足の裏が弱々しい男性器のようであると笑います。
 主人公のようなマイノリティの孤独や悩みが、解決される世の中になれば良いと、そう思わせられた作品でした。