第二十七話 魔法のスケボー作り

「重力魔法はバクミン工房の秘匿事項よ!なんでこんな事に使うのよ!」

そうだった。どうしよう?

取り敢えずは魔法陣を消す。魔法陣にどかんと魔素を流し込む。魔法陣ごと板きれが吹き飛んだ。

「ああー、失敗しちゃった。あはは」てへぺろで誤魔化す。


「マンレオタさん、今のは?」係員さんの目が怖い。

どうしよう?えーと、えーと…………

「風魔法の魔法陣を書いたんですけど、魔素入れ過ぎたみたいで、壊れました。あはは……」

どうだっ、この言い訳で。

係員さんがため息をついた。

「うまく制御が出来ないうちに使っちゃ駄目ですよ。まあ、これから学んで行けば、ね」


やった、誤魔化せた。

「後で今の魔法陣を提出して下さいね。あんな使い方は前代未聞ですから」

駄目だー、誤魔化しきれなかった。どうしよう?


「ふふ、シャニはやっぱり面白い」ニニがこっそり悪魔の囁き。

「笑い事じゃ無いわよ。あーもうどうしよう。風魔法なんて出任せ言っちゃった」

「いや、面白いよ。風魔法で浮かせるか。ふふ、考えもしなかった。あたしに任せな。その代わりさっきの重力魔法の魔法陣を教えて。あたしが代わりの風魔法の陣を作っちゃうから」

「えっ?出来るの?」

「やっぱりシャニは面白いわ。凄い事考えるのに何か抜けてるのよね」

ほっとけ!ふん。


その後はぞろぞろ教室へ移動して筆記試験。

前の教壇を囲むように半円の席が少しずつ高くなる雛壇形式。

そこで各科目ごとに三十分ずつ問題が出される。

本当に適性を見るだけのようで、問題は簡単だった。問題と言うよりアンケートに近い。

ニニは魔道具科、魔法科だけを履修するため、その他の試験は受けない。

あたしシャニの履修する領政務科は、いくつかの文章問題と簡単な計算だけ、教養科も問題は違うけど同様の内容だった。


学園には他にも履修科目があるけど、あたしシャニ達は無関係なのでその後はマンレオタ邸へ帰宅。

三日後、結果を確認するため再訪すれば良いらしい。

その間、スケボーに使った重力魔法の魔法陣をニニに渡して風魔法に書き換えて貰う。

ま、あたしシャニがやっても良いんだけどニニの方が上手だし、やる気満々だったからね。


翌日、魔法陣を風魔法に書き換えたスケボーを二台、ニニが庭に持ち出した。

ニニとあたしシャニがそれぞれお試しで乗るためだ。

「うん、これはなかなか」

乗り心地は重力魔法とほとんど変わらない。ただ、スケボー下面から吹き出す風が少々埃を吹き上げる。風切り音も出る。

後、重力魔法では高さはいくらでも変えられるけど、風魔法の場合、高くなるほど下面の圧力が下がるため十センチ程度しか浮き上がらない。


「安全面では却って良いのかもね」とあたしシャニはニニに言った。

「問題はこの埃だなあ。結界で閉じ込めるかなあ」ニニが呟く。

「横方向が不安定だから、何か抵抗を付ける方法があると良いな」

いつものようにああでも無い、こうでも無いのやり取りが始まって、その日は一日が終わってしまった。


「何か面白い事をやってるようだね」

夕食で皆が揃った時、サラダン父様が口を切った。

「スケボーって名前付けたんだけど、浮かした板に乗って後ろに蹴り上げると、勢いでそのまま走っちゃうんだ。結構楽しいよ」

「スケボー?」

「うん。スケートみたいに走るボードだから、スケボー」


それから質問攻めに遭った。ノドム兄様とクント兄様が興味を持ったらしい。

「何で浮かしてるんだい?」

「風魔法だよ。魔力を流すと風の力で板が浮くんだ」

「蹴るだけで良いのか?」

「うん。勢いでずーっと進み続けるよ」

まあ、摩擦が無いからね。前世の車付きと違い、とてもスムーズだし距離も出る。


「止めるにはどうすりゃ良いんだい?」

「流す魔力を止めると良いよ。その前に少し後ろに重心を掛けるとスピードが落ちるから、つんのめらなくて済むけど」

「方向変えられる?」

「重心を傾けるのよ。曲がりたい方へね。ちょっと練習がいるかな」

こんな感じで質疑応答が延々と続くので、以下省略。


翌日、ニニの改良版を皆で試す事になった。

家族総出で庭に集まる。何でこんな騒ぎになってるの?

まず、ノドム兄様とクント兄様がスケボーに乗る。

魔力を流し込むとスケボーが浮き上がり、足元を揺らすと二人とも盛大にすっ転んだ。

うん、重心を安定させないとそうなるね。


「笑ってんじゃねえよ、意外に難しいんだから」クント兄様が顔を真っ赤にして叫んだ。

「よし、魔力量を調節しながら何とかするか」ノドム兄様は冷静だ。

「ニニもシャニも良く走れたね」

「あはは、あたしも最初はね。でも、シャニは最初から乗れてたけど」ニニは苦笑い。

まあね。あたしシャニは前世の陽子の頃、スケボー乗ってたから。


でも兄様達、さすがは帝国騎士。何度か転びはしたものの、すぐにスムーズに走り出した。

それも体力がニニやあたしシャニより格段に上なので、あたしシャニ達より断然スピードを乗せていく。凄いなあ。時速三十キロくらいは出してんじゃないかな。

曲がったり止まったりもすぐコツを掴んだみたいだ。


「兄様達ばかりずるいよ。俺にもやらせて!」ミトラ兄様が我慢できなくなったらしい。

「わたしもやる~」イッティ姉様も興味津々。

「私はいいわ、あんな野蛮な物」ナンカ姉様はお気に召さなかったようだ。


「で、どうだ?ノドム、クント」サラダン父様が二人に尋ねた。

「良いですね、使えそうです」ノドム兄様が答えた。

「ふふ、同じ事考えてますね。コストもかからないみたいだし」クント兄様がにやりと笑った。

ん?なんか雰囲気がおかしいな。何考えてるんだろう?


「シャニ、明日は魔法陣を提出するんだったな」父様が話をあたしシャニに向けた。

「はい」

「それは私がやる。魔法陣を渡しなさい」

「はい?」

「どうも状況が分かっとらんようだな。この事はしばらく秘密だ」

「はあ……」

やっぱり何かやらかしたみたいだ。


翌日、学園には父様とノドム兄様も付いてきた。

ニニとあたしシャニは検査結果を聞きに教室へ向かう。

父様とノドム兄様は係員に声を掛け、そのまま学園長室に行くと言って別れた。

魔法陣は直接学園長に渡すらしい。秘密って言ってたからその辺が絡んでるんだろう。


ニニもあたしシャニも履修科目には問題なく適正と判断された。

魔道具科はニニとあたしシャニが二年次飛び級で、魔法科はあたしシャニが二年次飛び級で始める事になった。

これで来年の春には学園に通う事になる。

そしてその頃にはマンレオタ~帝都間の飛空艇航路も運航が始まっているはず。


タイミングが合えばあたしシャニが最初の乗客になるかもしれない。

胸がわくわくするね!


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