第二十三話 シャニナリーア結婚する

七歳になりました。

そして結婚しました!タオ兄ちゃんと。


って、何なの、この状況!


この世界の結婚適齢期は十五歳から二十歳。

政略結婚では子供の頃から婚約したりはしてる。

それでも、成人前に結婚するとか普通は無い。


あ。前例はあるみたい。

帝室や王家では戦争なんかを避けるため、赤ん坊同士の結婚とかやったみたい。意外と夫婦仲が良かったとか。誰か反証お願い!


まあ、それとなく覚悟はしてました。

領主の子女は政略結婚の手駒。

前世でも女子のあたしはまとな結婚できてないし。結婚したら殺されてるし。

男だったあたしも、結局見合い結婚だったしね。まあ、悪くはなかったけど。

だから政略結婚にそれ程抵抗はなかったの。

でもさ、ん百年の人生の中で、恋愛経験皆無ってどうよ。

せめて今世くらいは恋愛経験したかった……。


いやいやいや!そこじゃない。

七歳で結婚て、そりゃないでしょう!

せめて婚約期間設けましょうよ。成人まで待ちましょうよ!

あたしシャニは幼女だよ。ほにゃららなんて絶対無理だし。赤ちゃん産めないし。

タオ兄ちゃん、ロリコン?

だって、あたしシャニの上にナンカ姉様やイッティ姉様が居るんだよ。

何であたしシャニ


質が悪いのは、カーサ母様が断然乗り気な事。

タオ兄ちゃんが入り婿なので、あたしシャニが手元に残るというチャンスに飛びついたらしい。母様の愛が重すぎるよ。

家族に異存は無い。皇子様だからね。高貴なお方だからね。


でも入り婿になるって事は、タオ兄ちゃんは皇子の立場を捨て、一領主の臣下になるって事。

マンレオタを継ぐのはノドム兄様に決まってるから、これは動かせない。あたしシャニがマンレオタに残ると言う事は、父様とノドム兄様の臣下になるって事。入り婿のタオ兄ちゃんもそうなる。

良いの?それで良いの?



結婚話はあたしシャニの頭越しに着々と進んでいたらしい。

あたしシャニと言えば、ニニと一緒に連結飛空艇の仕上げに夢中だった。

バクミン工房はマンレオタの元の場所に戻したけど、一部は工房の里に残して連結飛空艇の製造を進めていたんだ。

コードネーム『999スリーナイン』。分かる人には分かるよね?

ニニは首を傾げていたけど。


試運転を繰り返し、何度も術式を修正し、正式就航にこぎ着けた時、あたしシャニは七歳になっていた。

航路は工房の里からマンレオタの館まで。片道で朝から夕方までかかるから、二日で一往復。ゆくゆくは量産して、帝都までの定期便を運航するのが取りあえずの目標だ。


初めての連結飛空艇就航は滞りなく、マンレオタの館に到着した。

館はすっかり元通りになり、避難していた侍女達も戻っていた。

その全員が拍手をしながら出迎える。

何も知らないあたしシャニは手を振って応えてた。


そして上機嫌で夕食の席に座った時、あれ、と思った。

一家勢揃い。帝都に居るはずのノドム兄様、クント兄様、ナンカ姉様、ミトラ兄様まで居る。

それに、何でタオ兄ちゃんが同じ席に居るの?

「ええっと、連結飛空艇初就航のお祝いとか?」恐る恐る聞いてみる。

「それもあるけどね、シャニの結婚式があるからさ」

父様が上機嫌で特大の爆弾発言。

しばらく何言われたか、意味分からず固まるあたしシャニ


「あの、結婚って言った?」

「そうだよ」

「誰が?」

「シャニが」

「誰と?」

「タオ殿下と」


「ええええーっ!……いやいやいや、冗談でしょ?あたし、まだ七つだし」

「結婚式は明日よ。支度は済ませてあるから安心して」

カーサ母様が満面の笑顔で宣いました。

いや、安心も何も。何がどうなってる?

「聞いてないよ!」あたしシャニ、叫んじゃった。

「言ってなかったからね」父様がにこやかに流す。おいっ!

「お前は小さいから難しい事は分からないだろう?敢えて話さなかったんだよ」

「皇室と縁づくなんて、こんなめでたい話は無いからね」

「タオ殿下とは仲良しだったろ?良かったじゃないか」

「入り婿に来て頂けるなんて、普通、あり得ないからなあ」

だめだ。お祝いモード一色。四面楚歌。


ここに至って、あたしシャニは初めて状況を理解する。

くっそー、嵌められた!


帝国の領主など上流階級では、結婚は親同士で決める。

例え好き同士の相手でも、その親同士の同意がなくちゃいけない。

つまり、皇帝陛下の同意も得ているという事になる。

となると……ダメだ逃げ道は無い。

この国では皇帝陛下に逆らうなど、とんでもない不敬行為になる。

下手するとマンレオタ一族消滅。ニニとか領民全部までに関わるかも。

あたしシャニの意思は……無いんだよね、この世界。

こんな形でパンチ食らうとは思わなかった。

あたしシャニは呆然とするばかり。


夕食の味は分からなかった。というか、食べた記憶無い。

状況を受け入れるには余りにも急で、情報不足。なのにあたしシャニの今世の人生がかかってる。

夕食の後、自室に下がったあたしシャニは一人で悶々としていた。

騙し討ちしたカーサ母様も出て行って貰った。泣きそうな顔してたけど、知らないもんね。少しは反省してよ。あたしシャニにだって意思はあるんだから。


多分、前世の記憶が無ければ、そういうものだと受け入れたんだろう。

何も知らずに。

光源氏に引き取られた紫の上ってそうだったんだろうな。そもそも、結婚がどういう意味を持つかなんて、七歳の幼女に分かるわけないじゃん。紫の上は十歳だったらしいけど。そうは変わらないと思うよ。


でも、あたしには幾つもの前世の記憶がある。

夫婦ってのは結局、子作りの単位なのよ。子孫を残すための。

だからこそ大事なんじゃない?納得という物が。

そこから夫婦の絆というか、信頼関係なんかが育てられる。

前世の農夫テドや大工クロも見合い結婚だった。

あらかじめ引き合わせられて、それなりに納得した上でだと思う。そして少しずつ絆を育んできた。

だから恋愛結婚至上とは思ってない。あたし、超大人なんだ。


でも、この不意打ちは無いでしょ!

納得なんてどこにあるんだああああ!


しばらくごろん、ごろん、のたうち回っているうち、少しずつ頭が冷えてきた。

おかしい。何か不自然だ。灰色の脳細胞が猛回転を始める。

ふふん。伊達に、ん百年人生過ごした訳じゃ無いわよ。

多分、タオ兄ちゃんが鍵だ。

家族に聞いても真相は分からないだろうな。カーサ母様だって。


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