第9話 物語と昔話の構造の話

 私は昔話が大好きです。

 小さな子どもの頃は絵本などで読んできたし、もう少し大きくなると買ってもらった分厚い昔話集を読みあさり、中学生になると書店で昔話の文庫本を買って読みました。

 グリム童話、ペロー童話、日本の昔話、アラビアン・ナイト、アンデルセン童話……おっと、アンデルセン童話は19世紀にアンデルセンが創作した童話なので、昔話とは言いませんね。

 好きが高じて、大学の卒業論文は「力太郎」という昔話を、日本中世界中の同じような昔話と構造的に比べて考察する、という内容で書きました。

 目下、小説でも漫画でもアニメでも、昔話をベースに進化したファンタジー作品が百花繚乱ひゃっかりょうらんですが、私はそれらを読む以前から昔話とファンタジーの世界が大好きだったのです。


 昔話には、構造がはっきりしていて、わかりやすくてドラマチックという特徴があります。

 詳しく書くとページがいくらあっても足りなくなるので、代表的な構造を少しだけあげると、こんな感じです。


 ・善悪がはっきりしていて、最終的には善が良い結果を得られる。

 ・良い人は見た目も美しく、悪い人は見た目も悪い。

 ・必ず事件が起きる。

 ・普通でない生まれ方をした主人公はとびきり普通でない人生を送る。

 ・極端から極端に物語が振れる。

 ・スペシャルナンバーは「3」


 昔話は名もない庶民が我が子や仲間相手に語り継いできた物語なので、単純だし、ときにはご都合主義や残酷な場面も含まれてきます。

 でも、良いことをすれば良いことがあるし、悪いことをすればむくいを受ける、というストーリーは、聴き手の誰もが納得して受け入れやすいものです。

 何も起きない物語は退屈だから事件が起きてほしいし、桃から生まれた桃太郎のように不思議な生まれ方をした主人公には、普通の人にはできないような大活躍をしてほしいと期待します。(ので、桃太郎は鬼ヶ島で鬼退治をします)


 どん底のような底辺から社会の最高位まで上り詰めるような「極端な振れ幅」も昔話の特徴です。

 例えば「わらしべ長者」では、貧乏な若者がわらしべ(わら)を拾う。観音様の教えのとおりにそれを大事に持ち歩いていると、わらしべが次々と良いものに交換されて、最後には大きな屋敷で一生裕福に暮らせるようになる。

 貧乏のどん底の若者が、たった1本の藁を拾ったことで長者の身分に上り詰めていく、本当にドラマチックなストーリー展開です。


 スペシャルナンバーの「3」というのは、昔話によく出てくる3という数のことです。

「三匹のこぶた」「三年寝太郎」「三枚のお札」…

「やまなし」という昔話では、3人兄弟が病気の母親へヤマナシを取りに行って、長男、次男は大蛇に飲まれるけれど、3人目の弟は大蛇を退治して目的を達成します。

 主人公に2人仲間ができて3人になったときは要注意。2人が共謀して主人公の宝物を盗んだり、井戸の底に突き落として殺そうとするかもしれません。

 3という数字は、失敗続きの後の成功を際立たせるものだったり、長い時間なんだよ、というのを聴き手に伝えたり、人間関係に緊張を生んだりと、物語に広がりを持たせる数になっています。


 昔話は素朴で単純だけれど、力強くて面白いものです。

 話者の語り口とも相まって、聴き手をぐんぐん惹きつけて、物語の世界へ運んでいってくれます。

 そんな昔話のいいところを取り入れた作品が書きたい、といつしか私は思うようになりました。


『勇者フルート』は、発達障害を持つ息子にお話の楽しさを知ってほしくて、寝物語に語り始めたのが最初だったし、私自身の生きがいのために書き続けてきた物語です。

 でも、同時に「昔話のような物語を自分でも書きたい」という目的もありました。

 前の章でも書いたとおり私は長編体質なので、あっという間に語り終わる昔話ではなく、「オデュッセイア」のような大長編になってしまいましたが……。

『勇者フルート』が多くの小説と違って、敬体(ですます調)の文章で書かれているのも、聴き手に昔話を語っているイメージだったからです。



次回は、長文を読んでもらうために工夫してきたことです。

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